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新たな力の覚醒


 僕達がマダラン国に着いたのは、勇者一行が出立して十日が過ぎていた。

「なぁに、すぐに追いつけるさ。それよりも今夜は、ゼリアの賢者就任のお祝いをしよう」

 少しだけ豪華な宿屋に部屋を取ると、テーブルにいつも以上の料理を並べた。

「私なんかで大丈夫でしょうか?」

「大丈夫かどうかは魔術書が決めてくれるさ」

 チェリー村を出て一月、ゼリアの魔力量は飛躍的に増え、魔法も驚く速さで習得していった。

「本の上に手を置いてみれば、結果はすぐに分かるさ」

 アスラン王国の王都でおばあさんから受けた、継承の儀式を再現しようとした。

「何だか、怖いわ」

 ゼリアさんは躊躇している。

「ゼリアなら大丈夫だよ」

 すっかり仲良くなっているイフリート君とクレアさんが、ゼリアさんの肩に乗って励ましている。

「魔術書の上に手を乗せて、眩しく光って本が消えれば賢者確定。光らなけらば修行のやり直しだな」

「師匠は光らなかったのですか?」

「また」

「今日ぐらい、師匠と呼ばせて下さいよ」

「仕方ないか。僕の時は少し光っただけだから、仮賢者どまりだったんだよ」

「私が師匠を超えたとは到底思えませんが、やってみます」

 ゼリアさんは恐る恐る魔術書に手を乗せた。

 『賢者になるための魔術書』は目を覆いたくなるほど眩しく輝くと、光の粒子になって消えてしまった。

「やったな。おめでとう、ゼリア。これで君は一人前の賢者だ」

 賢者のおばあさんとの約束を果たし、肩の荷が下りたようでホットした。

「ありがとうございます。ところで、魔術書はどこへいったのですか?」

「ゼリアと一体化して、賢者の君を守ってくれるのだよ」

「二度と手にする事が出来ないのですか?」

「ゼリアが後継者を探そうとした時に現れるよ。これからも魔法の極みを目指して頑張るのだぞ」

「はい」

 ゼリアさんは大きな目を輝かせている。

「タカヒロ、スケッチブックが光っているわよ」

 ゼリアさんにおばあさんから聞いた話をしていると、ミリアナさんが教えてくれた。

「この光を見るのも久し振りだな」

 スケッチブックを開くと十五枚目と十六枚目が開けるようになっていたので、早速アイテムボックスに画用紙を収納してみた。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇    


   十五枚目の画用紙    スケッチブックの付属品。

               賢者の魔法の媒体品。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇    


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇    


   十六枚目の画用紙    スケッチブックの付属品。

               コンプリート。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇    


「また、訳の分からないページだな」

 1ページ目に表示された説明を見ても理解出来なかった。

「ホムクルン。『賢者になるための魔術書』にはどのような魔法が記載されていたのだ?」

「現在、使用されている魔法は全て網羅されていて、古代の魔法も載っていました」

「古代の魔法とは、どんな物があるのだ?」

「そうですね。今はテイマーが行っている使役魔法を、魔方陣を用いて行使する魔法とか。魔方陣を使って自然を操る魔法とか。魔方陣を使う魔法が多いですね」

「すると、15ページ目に魔方陣を描けば、僕にも古代魔法が使えるのかな?」

「そうだと思います」

 ホムクルンは自信なさそうに答えた。

「ゼリアは、古代魔法が使えるのか?」

「まだ使えません。古代の文献を読んで、魔方陣の勉強をするようにホムクルン師匠に言われています」

「そうなのか。16ページ目はさらに難解だな。コンプリートとは全てを習得したと言う事だと思うのだが、まだ捲れないページが一枚あるし、魔法は賢者が行使するのが全てじゃないのか?」

 コンプリートの意味が分からずに考え込んでしまった。

「何を悩んでいるのよ。何時ものように試して見ればいいじゃないの」

 ミリアナさんは気楽に言ってくる。

「そうだぞ。タカヒロの魔力があれば、凄い魔法が使えると思うぞ」

「私もそう思うわ」

 イフリート君とクレアさんが、真剣な眼差しで僕を見ている。

「15ページ目は魔方陣を勉強するとして、16ページ目だよな」

 16ページ目を開いたが、何の絵を描けばいいのか分からなくて『Aizawa』のサインだけを書いてみると、突然画用紙が眩しく輝き出した。

「何だ、これ!」

「『賢者になるための魔術書』が光った時と似ているわね」

 ミリアナさんは何事にも動じない人だった。

 恐る恐る光る画用紙に触れると、スケッチブックが消えてしまった。

「嘘だろ!」

 慌てていると急に体が軽くなり、宿屋の天井をすり抜けて空に浮かぶと街を見下ろしていた。

 ミリアナさん達が宿屋から飛び出してきて、僕を見上げている。

(浮遊魔法?)

 一瞬思ったが、コンプリート魔法がそんな単純なものだとは思えなかった。

 空に浮かんでいる事よりも消えたスケッチブックが心配になって、何時ものように表紙を閉じるのをイメージすると、元いた部屋に戻る事ができた。

 閉じたスケッチブックもテーブルの上に戻っていた。

「どうなっているの?」

 ミリアナさん達が駆け戻ってきた。

「僕にも分からないよ」

「もしかして、空を飛ぶ魔法なの?」

「違うと思うよ。一瞬だったけど、大きな力が体の中に生まれたような気がしたのだよ」

 上手く説明できなかったが、自分の中に大きな不安が生まれたのは確かだった。

「主よ。ゼリアが賢者になり私の仕事は終わったようだから、少し休ませて貰えるかな」

「ご苦労だったな」

 僕が悩んでいるのに、ホムクルンは冷たい奴だった。

「ホムクルン師匠、長い間ありがとうございました」

「ゼリアよ、最後にひとつだけ忠告をしておく。若さを保ちたいのなら、決して時の魔法を使うなよ」

「はい、肝に銘じておきます」

「そうだ、ホムクルンよ、アイテムボックスに戻ったら呪われたアイテムを解析しておいてくれないか?」

 スケッチブックを開くと、一言つけ加えた。

「主は、神様以上に人使いが荒いな」

「ホムクルン、お前、今笑ったな。それに人だと自分で言っているぞ」

「タカヒロ、ホムクルンをいじめるのは止めなさい。大切な仲間でしょ」

「ごめんな、ゆっくり休んでくれ」

 ミリアナさんに怒られて苦笑いする僕は、仲間達の笑顔に悩みが吹き飛んだ。


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