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幕間10悠然の強者のグランベル


 俺は悠然の強者のグランベル。ロンデニオの街で五年振りに再会したタカヒロ達は、驚くほど変わっていなかった。

 依頼を終えて『夕焼け亭』で一杯遣っていると、王都に行っている筈の無双のデッサンが姿を見せた。

「師匠、こっちです」

 二人と一緒に護衛の仕事をして依頼、ゼリアはタカヒロに心酔していた。

 タカヒロ達の話は俺達の理解の範疇を越えていたが、フカシ村や古代龍のダンジョンでその力を目の当たりしているので、信じない訳にはいかなかった。

「凄い、魔法ってこんなに種類があるのですね」

 タカヒロが持っていた本を見たゼリアが目を輝かせていた。

 そんなゼリアを見たタカヒロとミリアナは、驚愕の表情を浮かべているように見えた。

「ゼリアさん、無双のデッサンに入りませんか?」

「ミリアナさん、急に何を言い出すのですか?」

「そうだぞ、ミリアナ。冗談はよせ」

「冗談じゃないわ。タカヒロがゼリアさんを仲間に欲しいと言っているの。代わりに私が悠然の強者に入るわ。それでどうかしら?」

 ミリアナが本気で言っているのは、顔を見れば分かった。

「ミリアナ、今日は帰ろう。皆さん、お騒がせして申し訳ありません」

「待てよ、タカヒロ。詳しい話しを聞くまでは、帰す訳にはいかないだろ」

 ライフの激しい怒りに、俺も同じ思いだった。ゼリアは俺達三人とって大事な娘だったし、仲間になるのを頑なに拒否していたミリアナに、自我を捨てさせようとするタカヒロが許せなかった。

「この本は『賢者になるための魔術書』と言って、賢者になる素質がないと読めない本なのです」

 タカヒロはゼリアに賢者になる素質がある事を説明して、ミリアナは言い出せないタカヒロに変わってゼリアを誘ったようだ。

 ゼリアをS級冒険者の遥か上をいく、無双のデッサンのような危険なパーティーに預ける訳にはいかないので断わると、二人は『夕焼け亭』を出て行った。

「今の話をどう思う?」

 ライフとカインを見た。

「俺には魔法の事は分からないので何とも言えないが、ゼリアを危険な目に合わせる訳にはいかないな」

「私もゼリアには普通の幸せを見つけて欲しいですね」

 ライフもカインも口では言っているが、ゼリアを見る目は俺と同じ思いのように見えた。

「ゼリアは、タカヒロの話を聞いて賢者になりたいと思ったか?」

「フカシ村で師匠の魔法を見た時から、私もあのような凄い魔法を使えるようになりたいとは思ったけど、私の魔力では師匠の足元にも及ばないのは分かっているわ」

 ゼリアは元気がなかった。

「そうか。俺達はそう若くはないから、いつまでお前と一緒に冒険者を続けられか分からない。お前が賢者と言う高みを目指すなら、俺はお前を応援するぞ」

「何を言っているの? 私には無理だって」

「タカヒロは本気でお前が賢者になれると思っているぞ。それは、気丈なミリアナが自分を捨ててもいいと言った言葉が証明している」

「確かに。以前のミリアナは、俺の誘いを頑なに拒んでいたからな」

 ライフも感じるものがあったようだ。

「私も賢者になったゼリアを見てみたいですね」

 カインは優しい目でゼリアを見ている。

「私は皆と離れるなんて考えた事はないわ」

 ゼリアは涙ぐんでいた。

「そうか、分かった。この話はここまでにしよう。俺の勘だと、タカヒロ達は明日の朝には街を出て行くだろうから、俺達三人でケジメをつけに行く。ゼリアは賢者になる覚悟がないのなら出てくるな」

 俺はライフとカインを見て小さく頷いた。

「一晩、考えてみるわ。ありがとう」

 ゼリアは俺達を見て泣き笑いしていた。



 翌朝、街の正門近くに行くとゼリアが一人で立っていた。

「早いじゃないか。覚悟を決めたのか?」

「おはよう」

 小さく頷くゼリアの明るい笑顔を、久し振りに見たような気がした。

 開門を待っていると、俯いて何かを描いているタカヒロと、それを守るように歩くミリアナが現れた。

「師匠、お待ちしていました」

 ゼリアが手を振りながら走っていった。

「ゼリアを育てる俺達の役目は、終わったようだな」

 ライフとカインと頷き合う俺は、一抹の寂しさを覚えた。

「皆さん達まで、どうしてここに?」

 ゼリアの出現に驚いている二人は、俺達を見てさらに驚いている。

「仲間の旅立ちを見送らない訳にはいかなからな」

 ライフが照れ臭そうに坊主頭を掻いている。

「我々は冒険者を引退する年に近いが、最後にS級冒険者を目指して修行に励む事にしたのだ。それでゼリアの指導を君達に頼みたいのだが、駄目だろうか?」

 軽く頭を下げると、快く引き受けたタカヒロが突然魔獣を呼び出した。

「こ、これと、戦うのですか?」

 額に角が生えている大きなオオカミを見たゼリアは、腰を抜かしそうになっている。

「いきなりそれは無理だろ!」

 恐怖に震える俺は、選択を間違えたと慌てた。

「こいつはフォブルと言って僕の眷属です。これからは馬ではなくて、こいつに乗って旅をする事になります。ゼリアさんも振り落とされないようにして下さいよ」

「わ、分かりました、頑張ります。師匠、ひとついいでしょうか、弟子への敬語は止めて貰えませんか」

 ゼリアは気丈に振舞っているが声が震えていた。

「分かった。それでは皆さんお元気で」

 魔獣を眷属だと言ったタカヒロが頭を下げているのを見て、ゼリアを託した事に間違いはなかったと確信した。

「ゼリア、賢者になったお前に会うのを楽しみにしているぞ」

「はい。頑張ってきます」

 笑顔で手を振るゼリアだったが、フォブルが走り出すと悲鳴を上げた。

「俺達も負けていられないぞ!」

 俺達オヤジ三人は、朝靄の中に消えて行った仲間の後姿をいつまでも見送った。


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