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古代龍のダンジョン再び その2


 三階層で新しいアイテムを見つける事が出来なかった僕達は、真鍮の守り盾と共に四階層へ降りていった。

「この階層には、厄介な敵がたくさんいましたよね」

「ジャイアントスパイダーにリザードマンなら、十分に休息を取った俺達の敵じゃないさ」

 ファブリオさんが余裕の笑いを見せている。

 言葉通り、巨大クモはゾッタさんの魔法で黒焦げになり、リザードマンはエルミナさんの強化魔法を受けたルベルカさんとファブリオさんが簡単に倒してしまった。

「アイテムがあったぞ!」

 リザードマンの巣窟を調べていたダルさんが、装飾が施された剣を見つけ出してきた。

「見事なロングソードじゃないか」

「抜かない方がいいぞ」

 ファブリオさんが柄に手をかけるとオシリスがカタカタと音を立てた。

「不味いのか?」

「俺は何も感じなかったがな」

 簡易鑑定が出来るダルさんは首を傾げている。

「調べて見ましょう」

 ロングソードを受け取ると、アイテムボックスに収納した。


    ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇    


  呪われたロングソード。 呪度  0%


              効果。

               人間の血を吸うほどに切れ味がよくなる。

               人間を殺す度に剣術が進化していく。

               最強になった剣は所有者を飲み込み狂暴な魔物に変わる。


    ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇    


「これが、このアイテムの正体です」

 スケッチブックの1ページ目を皆に見せた。

「何度か調査にきているが、今までこんな物は見つからなかったぞ」

「すでに何本か持ち出されているのではないでしょうか?」

「血生臭い事件が多くなっているのは、これの所為なのか?」

「ここはまだ四階層です、もっと危険なアイテムが持ち出されている可能性があります」

 アイテムボックスからロングソードを取り出すとルベルカさんに渡した。

「ギルドに戻るまで預かっておいてくれないか?」

「分かりました、預かっておきます」

 ロングソードを受け取るとアイテムボックスに戻した。

「タカヒロは仮賢者になっただけではなくて、鑑定士にもなったのか?」

「以前からあった鑑定能力の精度が少し上がっただけです」

「あっさりと言ってくれるね」

 アサシンとして一流のダルさんが苦笑いしている。

「この湖にいたヒュドラはどうなりました?」

「あれ以来、ヒュドラもゴーレムも現れていないよ」

 ヒュドラ退治に悪戦苦闘した湖も、今日は穏やかにさざ波が立っているだけだ。

「そうですか」

 僕達は、ゾッタさんの魔法で湖面を凍らせて対岸に渡る真鍮の守り盾の後に続いた。


「ちょっと、待って下さい」

 ミスリルゴーレムが現れた部屋に近づくと、起動させていたレーダーに灰色の〇が映し出された。

「何かいるのか?」

「最悪の事態が起きているかもしれません」

「どう言う事だ?」

「この奥に誰かに操られている冒険者がいます。それも一人だけで」

「こんなところに冒険者が一人だと。急ごう!」

 ルベルカさんも異常に気がついたようだ。

 白銀に輝く部屋に入った僕達は息を呑んだ。床には複数の遺体が転がり、全身血塗れになった男が両刃の斧を持って立っていた。

「また、斧の餌がきたか」

 男の真っ赤な目はランランと輝き、口には牙が生えてきている。

「お前は、灼熱のソールのリーダー、マッシュー! 仲間を殺したのか?」

「こんな弱い奴ら、何人殺しても物足りん。真鍮の守り盾なら腹が膨れるだろうな」

 斧を振り上げたマッシューは、ルベルカさんに襲い掛かった。

「何て力だ」

 真鍮の盾で斧を受け止めたルベルカさんが顔を歪めている。

「あの斧は呪われたアイテムのようだ。エルミナは強化魔法を、ゾッタは攻撃魔法を」

 ダルさんは素早い動きで鎖を投げると、マッシューの足止めに掛かっている。

「鬱陶しい!」

 絡みつく鎖を斧で断ち切ったマッシューは、連続でルベルカさんに切りつけている。

 鉄壁の防御を誇るルベルカさんが壁に叩きつけられた。

「炎よ、我が敵を貫き焼き払え。フレームランス!」

 マッシューに突き刺さった炎の槍は燃え上がる事なく、シューと音を立てて消えてしまった。

「切り刻んでやる! 瞬足!、乱れ切り!、斬鉄!」

 連続してスキルを使うファブリオさんの刃は、マッシューの急所を確実に捉えている。

「危ない! 離れろ!」

 斧が振り回されるのを見たルベルカさんが、ファブリオさんの前に飛び込んだ。

 どんな攻撃にも耐えてきた真鍮の鎧がキズつき、血が噴き出した。

「おおっ、力が漲るぞ!」

 マッシューの持つ斧が黒光りを強くしている。

「炎よ、我が敵を包み込み、全てを焼き尽くし灰とかせ。フレームストーム!」

 ゾッタさんの最大級の魔法がさく裂した。

「うおおっ!」

 炎の中から雄叫びが上がった。

「ゾッタの究極魔法でもダメなのか」

 前線からリーダーを助け出したファブリオさんとダルさんは、メラメラと燃え上がる炎を見詰めている。

「S級が笑わせるぜ!」

 マッシューが斧を振ると、炎が吹き消されてしまった。

「まだ人間としての思考が残っているようだな。今なら殺さないでおいてやる、その斧を手放せ!」

 純白の鎧に身を包んだミリアナさんと、白いマントを羽織った僕はマッシューの前に歩み出た。

「誰だ、お前らは?」

「忘れたのか? ギルドで一度会ったじゃないか、無双のデッサンだよ」

「そんな奴、知らん」

「そうか、どちらでもいい事だ。斧を手放せ!」

「この斧があれば俺は最強になれるのだ、誰が手放すか」

 マッシューが斧を一振りするだけで、強風が僕達を襲ってきた。

「人を殺したくはないのだが、仕方がないようだな」

 理性を失っていくマッシューを、哀れみを込めて見詰めた。

「私が殺すわ」

「マッシューを助ける事は無理みたいだね」

 大剣を構えたミリアナさんに小さく頷いた。

「何、寝言を言っている。真鍮の守り盾でさえ俺に勝てなかったのだぞ」

 マッシューは大声で笑っている。

「マッシュー、これが最終通告よ。斧を手放しなさい」

 ミリアナさんが剣先を突きつけた。

「断る!」

「そう、仕方がないわね」

 ミリアナさんは一瞬でマッシューに近づくと、大剣を振りぬいた。

 ガツンと大剣と斧がぶつかる音が広間に響いた。

 ミリアナさんの速攻に、マッシューは防戦一方のようだ。

「ミリアナの体がブレて二人に見える事があるのだが、どうなっているのだ?」

 聖騎士にまでなったファブリオさんにも、ミリアナさんの動きが見切れていないようだ。

「まだ動きを抑えている方ですよ」

「これでですか!」

 隠密を得意とするダルさんも目を見開いている。

「加勢しなくて大丈夫なのですか?」

 最大級の魔法を弾かれたゾッタは、心配そうに見ている。

「これぐらいの敵なら、ミリアナが本気を出すまでに終わってしまいますよ」

「そお……」

 真鍮の守り盾の全員が言葉を失って、人間離れした戦いの成り行きを見守っている。

「ごめんなさいね」

 両刃の斧の動きを見切ったミリアナさんが小さく身を躱して大剣を横なぎに振りぬくと、マッシューの体が上下に分かれて血しぶきが噴き上がった。


「ルベルカさん、終わりました。容態はいかがですか?」

 ミリアナさんの戦いを見届けた僕は、横たわっているルベルカさんの元に向かった。

「エルミナの魔法で出血は止まったが、肋骨が折れているようなのだ。申し訳ないが、俺達は先には進めそうにない」

 項垂れているルベルカさんは、少し動いただけで顔を歪めている。

「僕に治療させて貰えませんか?」

「ええっ、この怪我が治せるのか?」

「はい、治せると思いますよ」

「冗談でしょ。エルミナは、聖女と呼ばれているカトリエさんに匹敵する光属性魔法の使い手なのよ」

「呪われたアイテムで受けた傷には、治癒魔法が効き難いのです」

 エルミナさんが申し訳なさそうに項垂れている。

「命が助かっただけで十分だよ」

 ルベルカさんが笑みを浮かべている。

「どうしたの?」

 白いマント姿に戻ったミリアナさんが覗きにきた。

「ルベルカさんの怪我が思ったより深手なのだよ」

「だったら、早く治して上げなさいよ」

「ミリアナさんまで……」

「何? 何か不味い事を言ったかしら」

「いいえ」

 真鍮の守り盾のメンバーは、顔を見合わせている。

「それでは始めましょうか」

 10ページ目にルベルカさんの横腹を描くと、サインを入れた。以前のように傷口を抉らなくても表層から治療できるので、僕としては精神的な負担が少なくなって助かっている。

 神々しい光が傷口を包み込むと、ルベルカさんの表情が和らいでいった。

「何なのですか、この光は?」

 エルミナさんはあまりの眩しさに細い腕で目元を覆いながらも、リーダーの傷口を注目している。

「妖精クレアと契約を結んだ事で光属性の魔法が進化して、死からの復活以外なら呪いも癒せるようになったのです」

「聖なる光が扱えるのですか?」

「何と呼ぶかは分かりませんが、これが僕の今の力です。まだ痛みますか?」

「信じられないが、まったく痛くないよ」

 光が消えた横腹を撫でるルベルカさんは、体を動かして様子を見ている。

「よかったです。ついでにドワーフさんから教わった付与と鍛冶の魔法で鎧も直しておきましょう」

 12ページ目に真鍮の鎧を描いてサインを入れると熱を持った光が溢れ出して、鎧のキズがなくなり以前より金色に輝いている。

「ありがとうな。もう、タカヒロがする事に驚くのは止めるよ」

 ルベルカさんは笑いながら立ち上がった。


 灼熱のソール全員の遺体と呪われた両刃の斧をアイテムボックスに収納すると、スロウを呼び出した。

「ミノタウロス!」

 表情を強張らせるファブリオさんが、ロングソードの柄に手を掛けている。

「主よ、お呼びか?」

「この斧が扱えるか?」


    ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇    


  呪われた両刃の斧    呪度 50%


              効果。

               人間の血を吸うほどに切れ味がよくなる。

               人間を殺す度に魔法強化が施されていく。

               最強になった斧は所有者を飲み込み狂暴な魔物に変わる。


    ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇    


 性能を確認した斧をスロウに渡した。

「呪われているようだが問題ない。使いこなせば今まで以上の力が発揮出来るだろう」

「そうか、この斧はお前専用の武器にしよう」

「誰と戦うのだ」

 スロウは真鍮の守り盾のメンバーを見渡した。

「今じゃない、これから戦いに行くのだ」

「そうか、分かった」

「タカヒロ、説明しろ!」

 スロウに向かって盾を構えているルベルカさんが怖い顔をしている。

「驚かせてすみません。以前皆さんが倒されたミノタウロスの化身で、スロウと言います。今は僕の眷属ですの安心して下さい」

「そうか。次から何かする時は説明してからにしてくれるか、心臓に悪いからな」

「分かりました。では、魔人サクゾーに会いに行きましょうか?」

「そうだな」

 メンバーと視線を交わすルベルカさんは、僕の緊張のない態度に呆れ顔になっている。


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