古代龍のダンジョン再び その1
仮賢者となった二日後、僕達は古代龍のダンジョンの近くに来ていた。
「今日はここで休んで、ダンジョンには明日の朝から潜る事にしよう」
冒険者達がテントを張ったと思われる跡地に着くと、11ページ目にログハウスの絵を描いた。
「何? いつものカマクラを作るのじゃないの?」
ミリアナさんが絵を覗き込んでいる。
「『賢者になるための魔術書』の所有者になって新たに分かった事が幾つかあるのだ。そのひとつがこれなのだよ」
11ページ目にサインを入れると、ログハウスが現れた。
「凄い!」
ミリアナさんは突然現れた別荘のような建物に言葉を失っている。
「2LDKとあまり広くはないけれど、一晩だけならこれで十分だろ」
「こんなに凄い魔法が使えるようになったの?」
ミリアナさんは突然現れた家を見上げている。
「世界樹と出会った時に開放された11ページ目は、音に関係する魔法だと思っていたけど、木属性の魔法だったのだよ」
「だけど、音を消したり、携帯のような使い方が出来ると言ってなかった?」
「木属性だから、音に関する部分はヤマビコと関係があるのだと思うよ」
「私にはよく分からないけど、タカヒロの魔法が進化した事は嬉しいわ。だけど、カマクラも楽しかったわよ」
「ログハウスならシャワーも使えるしベッドもあるから、ゆっくり休めるよ」
玄関を開けると、ミリアナさんに入るように促した。
「たしかに、快適な一夜が過ごせそうね」
ミリアナさんは木の香りがするリビングを見渡している。
「警備はゴーレムに任せてあるから、ミリアナはシャワーを浴びてきなよ。食事の準備は僕がするから」
台所に向かうと、アイテムボックスから肉や野菜を取り出した。
シャワールームや台所の器具には付与魔法が施してあり、ハウス全体に少量の魔力を流す事で使えるようになっている。
「覗いたりしないでよ」
「しないよ。それに内鍵が掛けられるから心配ないよ」
急にミリアナさんが変な事を言い出したので笑った。今までにも野宿の時に何度も水浴びをしてきているのに、色気のある事など一度も聞いていないのだ。
「なら安心ね」
ミリアナさんは素っ気なく言うと、シャワールームに消えていった。
「タカヒロ、覗きに行こうぜ」
「何バカなことを」
「ミリアナは覗いて欲しいのだと思うよ」
「クレアまで何を言っているのだよ」
肩の上で騒ぐ二人を無視して、野菜炒めを作り始めた。
「埃だらけだったからスッキリしたわ」
ミリアナさんは部屋着と言っても赤マントで作った、少し悩ましい姿でリビングに現れた。
この世界には存在しないドライヤーで乾かした長い茶髪が、歩くたびにサラサラと揺れている。
「気に入ったかい?」
「河邑明子だった頃の事を思い出して、少し切なくもなったけど十分に満足したわ」
ミリアナさんはにこやかな笑みを浮かべている。
「そお。準備も出来たし、食事にしようか」
テーブルには野菜炒めの他に、スープとパン、それにハチミツが入った皿を並べてある。
「タカヒロには彼女はいなかったの?」
「何だよ、藪から棒に?」
「う、うん。日本で待っている人がいるのかなっと、思っただけよ」
ミリアナさんは頬を赤くしている。
「僕は絵を描く以外に才能も趣味もないので、彼女どころが友達もいない寂しい学生生活を送っていたよ」
「そうなの。たしかに出会った時のタカヒロは、影の薄い存在だったものね」
ミリアナさんはクスっと笑った。
「今でもそんなに目立っているとは思わないけどね」
「そうなのか?」
ハチミツを舐めているイフリート君とクレアさんが、ミリアナさんを見て首を傾げている。
「目立たない方が無難だから、それでいいのじゃないの」
ミリアナさんは自分の言葉に頷きながら、大盛りの野菜炒めを平らげている。
「じゃ、僕もシャワーを浴びて寝るから、ミリアナは階段を上がった左の部屋を使ってくれるかい。僕は右の部屋を使うから」
「カマクラの時のように一緒に寝ないの?」
「折角部屋があるのだから、別々に寝た方が休めるだろ。明日からの戦いに備えて鋭気を養わないと」
お休みと手を振りながらシャワールームに向かった。
「寝ようかな」
ミリアナさんはゆっくりと立ち上がった。
「ミリアナはそれでいいの? 夜這いをかけちゃいなさいよ」
「何をおませな事を言っているのよ。私はタカヒロを守ると決めているの、タカヒロの負担になる事はしないわ」
ミリアナさんとクレアさんの囁きが耳に届いたが、無視をした。
簡単な朝食をすませた僕達が外に出ると、ゴーレムの門番と向き合った数人の冒険者がログハウスを見上げていた。
「おはようございます。皆さんも古代龍のダンジョンに行かれるのですか?」
「何なんだこの家は?」
「僕達のテントです。小さ目にしておいたのですがお邪魔だったでしょうか、申し訳ありません」
頭を下げてスケッチブックを閉じると、ログハウスもゴーレムも一瞬で消えてしまった。
「これで目立たないのですかね」
顔の横で両手を広げて呆れるミリアナさんが、小さく呟いた。
「今のは幻覚でも見せる魔法なのかい?」
「まあ、そんなところです」
「幻覚では魔物は倒せんから、ダンジョンに入るのだった気をつけるのだな」
狐につままれたような顔をした冒険者達は、急ぎ足で古代龍のダンジョンに向かっていった。
「僕達も行こうか」
以前ほど厳重ではなかったがダンジョンの入り口には兵士がいて、B級以下の冒険者が入らないように監視していた。
「お前はB級だから入っていいが、お前はC級だから入れないぞ」
プレートを返された僕は追い返された。
「マスターの許可証もないわよ、どうするの?」
「先に行っていてくれるかい。すぐに追いかけるから」
「分かったわ」
ミリアナさんは一人で兵士に声を掛けると、ダンジョンに入っていった。
(そろそろいいかな)
14ページ目に11時59分50秒を指す時計を描くと、兵士に声を掛けた。
「駄目だ、帰れ!」
兵士は無碍もなかった。
僕は14ページ目にサインを入れると、兵士の脇をすり抜けてミリアナさんを追った。
「どうだった?」
「兵士は僕が消えたから帰ったと思っているよ」
「こんな事に時の魔法を使ったと知ったら、賢者のおばあさん怒るわよ」
「そうだな、使うときは気をつけろと言っていたもんなァ」
おばあさんの真剣な顔を思い出して、少しだけ後ろめたさを感じた。
「一階層、二階層は特に問題はないだろうから駆け抜けていくよ」
フォブルを呼び出すと、ミリアナさんの後ろに跨った。
通路の造りは頭に入っているから、フォブルへの指示は地図を思い浮かべるだけだった。
「何だ。今何か走り抜けていかなかったか?」
一階層の中間地点で朝出会った冒険者達を追い越したフォブルは、数十分で三階層の螺旋階段まで来ていた。
「消える階段はどうするの?」
「任せなさい」
ミリアナさんの口癖を真似すると、11ページ目にサーフボードを描いてサインを入れた。
「それは?」
ミリアナさんは光の波紋の中から現れた板を、不思議そうに見詰めている。
「浮遊するボードさ。口で説明するより使った方が分かりやすいだろ、さあ、乗って」
僕は幅五十センチ、長さ一メートルの板の前半分の上に立った。
「本当に、この板が浮かび上がるの?」
「初めて使うのだけど、バランスさえ崩さなければ大丈夫だよ」
1ページ目を開いて足元に魔力を流すと板は浮かび上がり、掌で空気を漕ぐようにすると前に進み始めた。
「おっと……」
僕はへっぴり腰になったが、ミリアナさんは上手くバランスを取っている。
「大丈夫?」
「サーフボードを何回かやった事があるから大丈夫さ」
「上手く乗れたの?」
「何とかボードに立てるようにはなったよ」
笑っては見せたが体が震えていて、中々穴の上に移動出来なかった。
「私が前にいこうか?」
「そうしてくれるかな」
ボードを着地させると、あっさりと舵取りを譲った。
「結局こうなるのだよな」
フォブルに乗っている時と同じように、へっぴり腰でミリアナさんの腰を掴んだ。
ボードが穴の上に進むと、ゆっくりと降下させていった。
「これが乗りこなせるようになれば、水の上も平気になるわね」
「時間がある時に練習をしないといけないね」
「それにボードも改良が必要ね」
「と、言うと?」
「バランスを取りやすいように、足の位置を決めるベルトをつけるとかした方がいいと思うわ」
「なるほど」
ミリアナさんの意見に頷いた。
「三階層も走り抜けるの?」
「そうしたいんだけ、冒険者と魔物が戦っているようだから様子を見ていこうか」
レーダーを発動させると、緑の〇が五つと無数の赤い〇が映し出された。
「この階層にはオークの軍団とオーガ、それにトロールもいたのよね。オシリスがいなくなっているから以前ほど強くはないと思うけど、これだけの数だと五人では厳しいかもしれないわね」
「でも赤い〇が急速に減っていっているから、心配はないと思うよ」
「戦いになると私の後ろに隠れていた以前とは、まったくの別人ね」
レーダーを見ても焦らない僕を見ているミリアナさんは、何故だか寂しそうな表情をしているように思えた。
「行ってみようか」
草原を進むと、砂塵と魔法の炎が舞い上がる現場が見えてきた。
オークの軍団は全滅して、手負いのオーガと巨人トロールの攻撃は黄金に輝く盾で防がれていた。
「スキル身体強化、スキル斬撃」
一瞬姿を消した剣士が、オーガの首を刎ねた。
「炎よ、我が敵を包み込み、全てを焼き尽くし灰とかせ。フレームストーム!」
水色の髪をした魔法使いが呪文と共に杖を掲げると、炎の嵐が渦巻き巨人トロールを包み込んだ。
「素晴らしいですね」
久し振りに見た真鍮の守り盾の戦いに拍手を送った。
「タカヒロ?」
「本当にタカヒロなのか?」
「ミリアナさんも」
五人の反応は悠然の強者の時とまったく同じだった。
「ご無沙汰をしていました。半年、いや五年前はお力添えを頂きありがとうございました」
今更だがミリアナさんを探すのに協力して貰った礼を言った。
「そんな昔の事はとっくに忘れたよ。今までどこに行っていたのだ?」
ルベルカさんが握手を求めて手を差し出してきた。
「話せば長くなるので場所を変えてお話しします。それより皆さんは、どうしてここに?」
握手を交わした五人に疑問をぶつけた。
「ギルドマスターに調査を依頼されたのだ。君達こそどうしここに?」
「ちょっと気になる事があって最下層を調べに来たのですが、皆さんにお会い出来るとは思ってもいませんでしたよ」
「これで、今回の調査は楽になるな。頼んだぞ、タカヒロ」
僕の肩に腕を回したファブリオさんが笑っている。
「どうしたのですか? 気持ち悪いですよファブリオさん」
「実は半年前にもここの調査をしたのだが、その時とは敵の強さが桁外れに上昇しているのだ。今も簡単に倒せた筈の敵に、全力を出さなければならなかったのだよ」
「タカヒロさんとミリアナさんが一緒なら安心だわ」
神官服のエルミナさんが、僕達を見て目を潤ませている。
「ゾッタさんもエルミナさんも、色っぽくなっていませんか?」
ミリアナさんは色香を醸し出している二人を見て、声を低くした。
「ここでは何だから、下層に下りる階段の近くでゆっくり話そうではないか。俺達は十時間近く歩き続けているの少し休みたいのだよ」
敵が強くなっている事で気が張っていたのか、ルベルカさんが疲れた表情になっている。
「そうしましょうか」
僕は先頭に立って歩きだした。
「タカヒロさん、相当強くなったみたいですね」
「そうね、私ではもう太刀打ち出来ないわ」
「そんなにですか」
「そんなによ」
ミリアナさんは最後尾で、ゾッタさんとエルミナさんを相手にしている。
「この辺りでいいですかね?」
「そうだなこの辺にテントを張るとするか」
「皆さんお疲れでしょう、僕に任せておいて下さい」
「一人で三張は大変だぞ。そうか、いつもの魔法か?」
ファブリオさんは僕の行動に興味津々のようだ。
「皆さんは、二部屋あればいいですか?」
「宿屋もないのに何を言っているのだ?」
「皆さんに休んで貰う家をこれから作るのですよ」
スケッチブックを開くと、13ページ目に6LDKのログハウスを描いていった。
「何をバカな事を言っているのだ?」
ミリアナさん以外は、誰も信じていなかった。
「おい、嘘だろ!」
真鍮の守り盾のメンバーは二階建てのログハウスを、口を開けて見上げている。
「さあ、ゆっくりと寛いで下さい」
「これが魔法だと言うのか?」
用心深いダルさんが外壁を撫でて確認をしている。
「警備は僕とミリアナ、それにゴーレムが引き受けますから疲れが取れるまでゆっくり休んで下さい」
「ありがたい申し出だが、まずは話しを聞かせてくれないか」
「そうですね、僕もお聞きしたい事がありますので、中でお水でも飲みながら話しをしましょうか」
「おい、ここって本当に古代龍のダンジョンの中だよな」
玄関を入ったファブリオさんとダルさんは、頬を抓り合っている。
「タカヒロよ、俺達は君に追いつこうと鍛錬してきたが、君はさらに遥か上を行っているようだな」
「皆さんはS級になられたのでしょ、凄いじゃないですか。僕なんかまだC級ですよ」
「タカヒロ、俺達をバカにしてないだろうな」
ファブリオさんが真顔で睨んできた。
「滅相もない、そんな事する訳がないじゃないですか」
「天然なところは少しも変っていないわね」
女性三人は顔を見合わせて笑っている。
「折角だからゆっくりさせて貰おうぜ」
ルベルカさんは盾をおいて鎧を脱ぎ始めた。
「驚いた。リーダーが任務中に鎧を脱ぐなんて初めて見たぜ」
ダルさんが目を丸くして驚いている。
「ここにいれば何があっても安心だから、お前らも寛げ」
軽装になったルベルカさんは、ダイニングの椅子に腰を下ろした。
ゴーレムを呼び出して警備につかせた僕は、皆さんに水を勧めて腰を下ろした。
「僕達の話しをする前に、ひとつ聞かせて貰えませんか?」
「何だ」
水を一気飲みしたルベルカさんは、完全に寛いでいた。
「皆さんの調査目的は何なのですか?」
「最近、このダンジョンでは呪われたアイテムが数多く見つかっていて、それを奪い合う冒険者同士の争いが絶えないのだよ。それでギルドマスターに調査を依頼されたのだ」
「それに、最近になって国同士のいざこざが増えているのも気掛かりだしな」
ルベルカさんに続いてファブリオさんが、戦争が近いのではないかと心配事を口にした。
「呪われたアイテムですか」
「尋常ではない力を発揮するが、使った人間の魂を蝕んでいくそうなのだ」
「このダンジョンには魔人サクゾーがいるかもしれないぞ」
背負っている大剣がカタカタと音を立てた。
「何だ、何だ?」
真鍮の守り盾のメンバー全員が、音、いや、声のする方に驚愕の視線を向けている。
「後でお話しするつもりだったのですが、これは僕の眷属で魔剣オシリスと言います」
大剣を背中から下ろすとテーブルにおいた。
「剣が喋ったと言うのか?」
「そうです。魔人サクゾーとは何者なのだ?」
皆の驚きを無視してオシリスに話しかけた。
「サクゾーは魔王に仕える魔人五人衆の一人で、特殊な武器を生み出しては、それを使って人間の負のエネルギーを集めているのだ」
「そいつは強いのか?」
「サクゾーは強い魔人ではないが、奴が作った武器を持った魔物がいたら厄介だな」
「こっちにも魔人が現れたと言う訳か……」
南の祠での悪夢が甦って、ぶつぶつと独り言を呟いた。
「タカヒロ、どういう事なのだ。詳しく説明しろ」
「あっ、すみません。お話しします」
ルベルカさんに大きな声を出されて現実に引き戻された僕は、冒険者ギルドでカーターさんに語った話しを皆に聞かせた。
「嘘だろ!」
「魔王が復活するなんて」
「お願い、作り噺だと言って」
エルミナさんが泣き出してしまった。
「本当よ、私も見てきたのだから」
ミリアナさんがエルミナさんの肩を優しく抱き寄せている。
「タカヒロが嘘を言う訳がないし、俺達は魔剣オシリスが喋るのを見ているのだ。慎重に調査を続けるぞ」
考え込んでいたルベルカさんが口を開いた。
「タカヒロとミリアナが一緒なのだ、そのサクゾーとやらを倒してやろうじゃないか。力を貸してくれるよな」
ファブリオさんはいつものムードメーカーに戻っている。
「タカヒロさん」
「急に、改まって、どうしたのですか?」
ゾッタさんの水色の瞳で色っぽく見詰められて、言葉に詰まってしまった。
「妖精さんを見せて下さい」
「妖精なら、ここに」
自分の肩を指さしたが、全員が不思議そうな表情をしている。
「どこにいるのですか? 見えませんよ」
「ゾッタさんにも見えませんか。妖精の存在を信じれば見えると、賢者のおばあさんが仰っていましたから、信じる心を持って下さい。イフリート、クレア、この上にいて上げてくれないか」
画用紙を切り取るとテーブルにおいた。
「この上に妖精さんがいるのですか?」
「背中に羽根のある小人です。賢者のおばあさんには見えていましたから、ゾッタさんにも見えると思いますよ」
「さっきから仰っている、賢者のおばあさんって誰なのですか?」
「アスランの王都で魔道具の販売をしていたおばあさんです。三日前にお会いしてきました」
今度はエルミナさんの緑色の澄んだ瞳で見詰められて、オロオロしてしまった。
「三日前だと。タカヒロが言っている事は辻褄が合わないだろ、三日前に王都にいた人間がここにいられる筈がないだろが」
今度はダルさんが疑り深い視線を向けてきた。
「ミリアナ、説明して上げてくれないか。僕は皆さんの食事の準備をするから」
上手く説明が出来ない僕は、台所に逃げていった。
ミリアナさんは五人から質問攻めに会いながらも何とか難を逃れたようだが、リビングに戻った僕は好奇の視線に晒されてしまった。
「タカヒロ、俺達を無双のデッサンに入れてくれないか?」
「S級冒険者の皆さんが何を言っているのですか、残念ですがお断りします。僕は勇者様が現れたらポーターになるつもりなのですから」
「ポーターって荷物持ちだろ?」
「そうです。アイテムボックスを持っている僕には適任でしょ。皆さんは勇者さんと一緒に魔王と戦って下さい」
僕はこちらに戻ってから考えていた、自分の道を初めて口にした。
「ミリアナはそれでいいのか?」
「私はタカヒロについていくだけよ」
「タカヒロ、お前なら勇者がいなくても魔王を倒せるだろが」
「賢者にもなれない僕が、魔王を倒せる筈がないじゃないですか」
皆から熱い視線を向けられて、無理、無理と手を振った。
「そうか、分かった。何かあったら俺達を頼ってくれよ」
ルベルカさんは、それ以上は何も言わなくなった。
「ありがとうございます。ゾッタさん、見えるようになりましたか?」
「ぼんやりですが、見えます」
画用紙の上を凝視しているゾッタさんが笑みを浮かべた。
「そうですか。でしたら、この本に目を通して貰えませんか?」
「これは?」
「『賢者になるための魔術書』です。ゾッタさんなら理解出来ると思うのですよ」
「無理だと思うけど、せっかくだから拝見するわ」
「ありがとうございます。では、食事の準備が出来ましたのでキッチンで召し上がって下さい。僕達は周辺を調べてきますので、食事が終わりましたら二階の部屋で休んで下さい」
「そうさせて貰うよ。五時間ほど休んだら出立したいから、声を掛けてくれないか?」
「分かりました。警備は万全ですから、ゆっくり休んで下さい」
ミリアナさんとログハウスの周辺を調べたが、何も見つからなかった。