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幕間9秘書のマルシカ再び


 ロンデニオの冒険者ギルドは、猫の手も借りたいほど忙しかった。

 古代龍のダンジョンから珍しいアイテムが続出している事。魔物の出現が増えた事で、多くの冒険者がロンデニオの街に集まっているのだ。

 受付嬢を五人に増やして対応しているが追いつかず、毎日入口の外まで列が出来ている。

「見かけない顔だな、他所から来たのか? よかったら俺達のパーティーに入らないか、悪いようにはしないぜ」

「私達を無双のデッサンと知って誘ってきているの?」

 揉め事の整理をしている私は、聞き覚えのある大きな声に走った。

「無双のデッサン。何だそれ、そんな名前聞いた事ないよな!」

「ああ。聞いた事ないぜ」

「あんた達は、何て名前なのよ?」

 今、力をつけてきているA級冒険者の灼熱のソールに食って掛かっているのは、五年前と少しも変わっていないミリアナさんに間違いなかった。

 隣には大人しそうな少年、タカヒロさんも立っていた。

「タカヒロさん、ミリアナさん、お帰りなさい。ギルドマスターが首を長くしてお待ちでしたよ」

 二人の姿を見たときから、周りが見えなくなってしまっていた。

「あの二人は何者なのだ?」

 私の唐突な態度に殺気立っているギルド内にざわめきが起きたが、一刻も早くマスターに知らせるために、二階にタカヒロさんとミリアナさんを案内した。



「マルシカは今の話しをどう思う?」

 タカヒロさんの話を聞き終えたマスターは、深いため息を漏らした。

「五年間どこにおられたのか分かりませんが、お話しが唐突すぎて私には何とも言えません」

 二人だけになった支部長室には、重たい空気が充満していた。

「獣人、ドワーフ、エルフ、おまけに妖精だぞ、誰がそんな話しを信じると思う」

「しかし、作り噺をされるようなお二人ではありません」

 古代龍と会話をするタカヒロさんを見ている私は、今の話しが全て本当だろうと思っていた。

「しかしだな」

 マスターは二人の話しが作り噺である事を願っておられるような感じがした。

「妖精の姿は見えないし、魔剣オシリスはただの鉄の剣だぞ。あんな鈍ら、道具や行けば幾らでも転がっているじゃないか、そうは思わないか」

「マスター、落ち着いて下さい。時間をかけてお二人のお話しを聞いたほうがいいと思います」

 南の祠の話しを聞いている時は手が震えていたが、今は冷静さを取り戻して、混乱しているマスターのサポートに徹する事ができている。

「そうだな、そうしよう」

 考え事をするマスターは、腕組みをして目を閉じて黙ってしまっている。

「私はこのメモをまとめておきます」

「絶対に外部に漏らすなよ」

「分かっています。失礼します」

 部屋を出ていこうとしたとき、受付嬢がやってきた。

「真鍮の守り盾の皆様が、マスターに面会を求めるおられます」

「そうか、ここに案内してくれ」

「会議室でなくてよろしいのですか?」

 激しい疲労感を漂わせたマスターに注意を促した。

「ロンデニオの、唯一のS級冒険者だからな」

「ここに御通しして頂だい」

「分かりました。すぐにご案内してきます」

 受付嬢は転がるように階段を下りていった。


 古代龍のダンジョンの一件以来、真鍮の守り盾は研鑽をつみS級冒険者にまで駆け上がっていた。

「マスター、タカヒロとミリアナが帰ってきたって本当なのですか?」

 ルベルカさんは少々興奮しているし、他のメンバーは室内をキョロキョロと見回している。

「本当だ。儂の家に向かったので、ここにはいないぞ」

「すぐに追いかけるぞ。失礼します」

「待て! 二人はかなり疲れていた、会うのは今度にしてやってくれ」

 マスターは五人にソファーを勧めると、自分も席を移した。

「二人の様子を聞かせて貰えますか?」

「今は話せる事は少ないが、いいだろう」

 五人が二人の事を心配しているのは、マスターも私も十分に知っていた。

「二人は五体満足でしたか?」

 ファブリオさんが身を乗り出している。

「それはまた物騒だな」

 マスターは笑っていたが、厳つい顔が引き攣っていた。

「そう言った所から帰ってきたのではないのですか?」

 いつも冷静なルベルカさんが、少し声を荒げている。

「すまない、君達が心配していてくれること、ありがたく思っているよ。二人とも五体満足だったし、以前にも増して強くなっていたよ」

「それはよかった、会うのが楽しみだな」

 五人は少し気が緩んだような表情になった。

「ところでマスター、何をそんなに心配なさっておられるのですか?」

 心の隙を狙って、洞察力の鋭いダルさんが切り込んだ。

「ううん……」

 マスターは腕組みをして、目を閉じてしまった。

「タカヒロ達が帰ってきた事と関係があるのですか?」

「S級冒険者の皆さんには、いずれ力をお借りしなければならなくなるのですから、お話しなさっておいたらいかがですか?」

 渋い顔をしているマスターを促した。

「今の段階では絶対に他言無用だぞ」

 鋭い眼光になったマスターは、五人を見渡した。

「分かりました」

 五人は真剣な表情で頷いた。

「タカヒロが持ち帰った情報によると、近々魔王が復活するかもしれないのだ。それも今までにない力を持ってだ」

 マスターは絞り出すようにそれだけ言うと、また目を閉じてしまった。

「魔王の復活だって!」

 五人の蒼褪めた顔が引き攣っている。

「真偽は定かではありません、ですからこれは皆さんの胸の内に留めておいて下さい。タカヒロさんとミリアナさんとの面会は後日、私が実現させますからよろしくお願いいたします」

 マスターの後を引き継いで、五人に頭を下げた。

「分かりました。時間を取らせて申し訳ありませんでした、これで失礼いたします」

「待ちたまえ。君達に頼みたい仕事があるのだが受けて貰えないだろうか?」

「どのような案件でしょうか?」

「古代龍のダンジョンの再調査をして貰いたいのだ。特に最下層の転移の間に異変がないかどうかを」

「あそこは年に一度は調査をしていますが、何か問題でもありましたか?」

 ルベルカさんは首を傾げている。

「問題があった訳ではないのだ。タカヒロ達が帰ってきた事で、変化が起きていないか気になったのだ。報酬は弾ませて貰うから引き受けて貰えないだろうか?」

「分かりました。準備が整い次第、調査に向かいます」

「頼んだぞ。戻ってきたらタカヒロを交えて、今後の事を相談させて貰おう」

 マスターは険しい表情で五人を見渡した。

「分かりました」

 真鍮の守り盾は入ってきた時とは別人のように、思い詰めた表情で部屋を出ていった。


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