表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
71/101

南の祠 その3


 洞窟のような部屋を奥に進み下層に下りると、明かりが眩しい真っ白な部屋に出た。

「敵が一体だけいる、気をつけて」

「何もいないわよ」

「右奥だ!」

 レーダーに赤い〇は映っているが、敵の姿は見えなかった。

 シュー、空間から突然現れた数本の飛び道具で、前衛に立たせていたスロウが倒れて消えた。

「ミリアナ、これを」

 アイテムボックスから鱗の盾を出して渡した。

「ここにはフラッシュがいるようだ。奴は風魔法を使うから気をつけろ」

 オシリスがカタカタと音を立てている。

「どこからくるか分からないわ」

「右に移動したよ」

 敵は足音を立てずに動いているようだ。

 シュー、音がした方にミリアナさんが盾を構えると、カキンとぶつかる音がして足元にクナイが転がった。

「これでは攻撃を防げても、反撃が出来ないわ」

「正面から何かくる」

 僕が叫ぶと同時に、ドスンとミリアナさんが構える盾が衝撃音を立てた。

「何なの、何も見えなかったわ」

「気をつけて、ウインドカッターに似た魔法のようだ」

「気をつけろと言っても……」

「右からくる!」

 僕はレーダーで敵を追うしか出来なかったし、ミリアナさんは盾を構えるしか出来なかった。

「クレア、何とかならないか?」

「敵は数か所に鏡を設置して、光を乱反射させているの。それを壊さないとダメだわ」

「場所が分かれば魔法で破壊するのだがな」

「たぶん魔法は、鏡に撥ね返されるわ」

「クレアには設置場所が分るのかい?」

「分かるけど私の力では壊せないわ」

「どうするの、いつまで攻撃に耐えられるか分からいわよ」

 盾への衝撃が強くなってきているのを感じるミリアナさんは、焦りを見せている。

「ミリアナ、暫く任せてもいいか?」

「任せなさい。スキル、身体強化!」

 ミリアナさんは左手で盾を、右手で大剣を持って攻撃に備えた。

「クレア、フォブルを鏡の場所に案内してくれ。フォブル、鏡をすべて壊すのだ」

 フォブルを呼び出すと、刃の折れたショートソードを銜えさせた。

「分かった」

 クレアさんを背中に乗せたフォブルが駆け出した。


「こっちだ!」

 6ページ目に三日月形を数個描いて、ミリアナさんから離れてサインを入れた。

 ウインドカッターは空を切って壁に傷をつけていく。

「やはり当たらないか」

「何をやっているの? 狙われたらどうするのよ」

 ミリアナさんが慌てて前に回ってくる。

「鏡を破壊するまでの陽動だよ」

「先に言っておいてよ」

 避け切れない攻撃が掠ったミリアナさんの右腕から、血が流れいる。

「次、いくよ」

 三日月形の数を増やすと、場所を移動してウインドカッターを飛ばした。

 盾だけに持ち替えたミリアナさんは、縮地でガードに回っている。

「段々と攻撃が強くなっているわ」

 ドスンと音がする度に、盾がフラついている。


『真正面よ』

 フォブルと意思疎通をするクレアさんが指示を出した。

 フォブルが白い壁に向かって銜えたショートソードを振り切ると、透明だった鏡が割れてバラバラと飛び散った。

『次は右に三メートルよ』

 フォブルが壁を蹴って横跳びした瞬間クナイが飛んだが、僕の援護射撃で難を逃れた。

『次は天井よ』

 二枚目を割ったフォブルは、壁を蹴って走りまわっている。


「タカヒロ、あそこ」

 三枚目の鏡が割れると部屋の眩しさがやわらぎ、敵の姿がぼんやりとだが見えるようになった。

「今度こそ当ててやる」

 ウインドカッターを飛ばしたが、今度も空を切ってしまった。

(やはり的となる敵を描かないと当たらないみだいだな)

「くるわよ!」

 フラッシュが杖を振るのを見たミリアナさんが、僕の前に立った。

 ドスンーーー、今までにない大きな音がして、盾を構えたミリアナさんが吹き飛ばされてしまった。

「魔法の威力が増してきているようだ。クレア、急いでくれ!」

 5ページ目に壁の絵と簡易人型を描くと、サインを入れて土壁の防御壁を造った。

「あと一枚よ」

 フォブルが四枚目の鏡を割ると、敵の姿がはっきりと見えるようになった。

 フラッシュは名前とは裏腹で、ボロを纏った幽霊のように宙に浮かび、滑るように前後左右に移動している。

「あれが魔獣だと言うのか?」

「あれは魔術師の死肉を貪ったハゲタカが、魔の力を得た姿だ」

 オシリスが戦わせろと言うように、背中で音を立てている。

「ミリアナ、大丈夫かい」

「大丈夫よ。姿さえ見えれば負けないわよ」

 盾を僕に渡したミリアナさんは、両手で大剣を握りしめた。

「任せたよ」

「任せなさい」

 ニッコリと笑みを浮かべたミリアナは、土壁を壊すために魔法を放っているフラッシュに向かった。

「スキル、縮地!」

 ミリアナさんは、三発の魔法で土壁を破壊したフラッシュの前に移動した。

「スキル、斬鉄剣!」

「ギャー!」

 上段から振り下ろされた大剣は、宙に浮かんでいるフラッシュを真っ二つにした。

「やったわね」

「今回はクレアのお陰で勝てたよ、ありがとう」

「俺も頑張ったぞ」

 フォブルがショートソードを床においた。

「そうだな、よくやった」

 額に小さな角がある銀色の犬を優しく撫でた。

「この祠の敵は今までになく強いわね」

「火龍様が仰っていた通りだな」

 10ページ目にミリアナさんの腕を描いて傷を消した。

「これぐらいで根を上げてどうする、次はたぶんケルベロスが待っているぞ」

「ケルベロスって、伝説の魔獣じゃない」

「ミリアナは知っているの?」

「勇者の伝記に何度も出ていたわ」

「勇者が戦うような魔獣がいるのか」

「それだけじゃないぞ、その後には魔人ダングが待っている筈だ」

「そいつは強いのか?」

(背中の魔剣に話しかけている姿は、知らない人が見たら異常者に見える事だろうな)

「ダングは魔王が率いる魔人の中で序列三位だから、それなりに強いだろうな」

「そうか、次からは撤退を前提にした戦いをしないとダメだな」

 スケッチブックを一度閉じると、改めて7ページ目に火龍城の広間の絵を鮮明に描いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ