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南に向かって


 火龍城で一週間新しい能力の検証と練習を済ませた僕達は、ドワーフの国でゴーレムを受け取り南の祠に向かった。

「ここから雰囲気が違うわね」

 フォブルで三日走って辿り着いたところは、ジャングルのような森が広がっていた。

「最近まで結界が張られていたので自然のままなのだろうな。クレア、レーダーを作動させるから上空二十メートルぐらいまで上がってくれるか」

「分かった」

「二キロメートル先には敵がいるな」

 遠距離レーダーに映る赤い〇をクリックしても、ポップアップウインドーに映るのは樹木ばかりで敵の姿を確認する事は出来なかった。

「敵の数は?」

「三体だけど強さが分からないから、迂闊には近寄れないな」

「道を切り開きながら、注意して進むしかないのね」

「そうだね」

 周辺を写生していつでも撤退が出来るように準備を済ませると、スロウを呼び出して斧を持たせた。両刃の斧には『えい(鋭)』の楔形文字が刻んである。

「俺とクレアが先に行って偵察をしてくる。連絡が取れるように携帯電話とか言うやつを発動させておいてくれ」

 イフリート君が空中に飛び出した。

「絶対に無理をするなよ」

「大丈夫、私は姿が消せるから、見つからないわよ」

 クレアさんがイフリート君に続いて森の中に消えていった。

「僕達も行こうか。スロウ、道を作ってくれ」

「任せな」

 スロウは切れ味が鋭くなった斧で、ツタや枝を取り除きながら薄暗い森を進んでいった。


「敵を発見。ここは少し開けているからレーダーで確認できるのじゃないか?」

 スケッチブックからイフリート君の声が聞こえてきた。

「やってみる。クレア、上空を飛んでくれるか」

「分かった」

 中距離レーダーに映る赤い〇をクリックすると、ポップアップウインドーに見慣れない魔物が映り出された。

「この魔物は何者なのだ?」

 ホムクルンを呼び出して聞いた。

「私が作り出した生物ではないので分からないな」

「お前以外にも生物を作れるのか?」

「神様にも作れるし、邪神が生み出した上位の魔人なら可能だろうな」

「敵が何であろうと、こうして姿が見えているのだから力を奪ってしまえばいいじゃないの」

 ミリアナさんは初めて目にする敵にも、まったく臆していないようだ。

「それもそうだな」

 ポップアップウインドーを確認しながら、翼のあるトカゲのような爬虫類を描いた。二本足で立ち、右手に杖を持ち、二メートルぐらいの大きさで、尻尾が一メートルぐらいはありそうだ。

「タカヒロの絵はいつ見てもそっくりだわね」

 ミリアナさんが肩越しにスケッチブックを覗き込んでいる。

「こいつは、魔獣オストロと言うのか」

 下描きをアイテムボックスに入れると、魔物の簡単な情報が得られた。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇    


   絵に描かれた魔物   属性 魔獣

              名前 オストロ

              能力 不明


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇    



 7ページ目にオストロを描くと、木々の隙間から見えるところまで近づいた。

「どうかしたか?」

 イフリート君が肩の上に戻ってきた。

「ここまで近づけば力を奪い始めている筈なのに、魔物の動きが変わらないのだ」

 オストロは辺りを警戒するするように、首を左右に動かしている。

「力が奪えないって、キメラ研究所に張られていた魔法障壁に似ていない?」

 ミリアナさんは大剣を背中から下して、僕を守る態勢に入っている

「ホムクルン、魔法障壁を扱える魔獣って存在するのか?」

「高等魔法を使う相手なら可能だろうな」

 1ページ目からホムクルンの声が聞こえてきた。

「高等魔法か厄介な敵だな。力が奪えないなら力尽くで倒すしかないか」

 久し振りに風魔法を纏わせたショートソードを握った。

「俺のゴーレムも出してくれ」

「分かっている」

 ドワーフが作ったスー〇ーマン型のミスリルゴーレムをアイテムボックスから出すと、イフリート君が乗り込んだ。

「敵がどんな能力を持っていか分からないから、十分に注意するのだぞ」

 鱗の盾を持った僕は、スロウとイフリート君、それにミリアナさんに攻撃の指示を出した。

 歯が立たなければいつでも撤退できる準備をしているが、未知の敵と戦うのは恐かった。


 スロウが攻撃を誘うように、一番にオストロに向かって駆け出した。最悪倒されてもアイテムボックスに戻るだけだから、被害を最小限に抑えられる。

 奇襲に気づいたオストロが杖を振ると、アイスランスが放たれて躱したスロウの足元に突き刺さった。

「一度に十本だと!」

 オストロの並外れた攻撃に驚いた。

「これなら、どうだ」

 イフリート君が両手からファイアボールを立て続けに飛ばしたが、尻尾のひとなぎで消されてしまった。

「まだまだ!」

 イフリート君がファイアボールを打ち続けて気を引き付けている間に、ミリアナさんがスキルを使ってオストロの背後に回り込んでアダマンタイトの大剣を振り下ろした。

「ギャー」

 オストロが奇声を上げて飛び下がった。切れた尻尾から白い霧が噴き出している。

 スロウが追い打ちをかけるように斧で殴りかかったが、突然現れたアイスウォールに弾き返された。

 周りが白い霧に覆われ、気温が急激に下がっていく。

「このままでは皆凍えてしまう。イフリート、フレームストームだ!」

「分かった!」

 空中に浮かんだスー〇ーマン型ゴーレムが炎に包まれて回転を始めると、高温の渦巻きが発生して霧を吹き飛ばした。

「スロウ、足元を狙え。ミリアナ、杖を壊すのだ!」

 炎の渦巻きで霧が晴れていくと、指示を出した。

「任せろ!」

「任せなさい!」

 両刃の斧とアダマンタイトの大剣がオストロに襲い掛かった。

 飛び上がったオストロに攻撃を躱されたスロウは、態勢を崩しながらも斧を全力で投げた。

「ギィー」

 片足を失いフラつくオストロに、縮地のスキルで迫ったミリアナさんが大剣を振り下ろすと杖が半分に折れた。

「ギギギギッー」

 オストロの動きが急速に緩慢になっていく。

「魔法障壁が消えたようだ」

 敵の力が抜けていくのが感じ取れた。

「オストロを倒すとは、なかなかやるではないか」

「誰だ、姿を見せろ!」

「儂はオシリスだよ。儂の分身を何体も倒したタカヒロよ、祠で待っているぞ」

 どこからともなく聞こえてきた声は、オストロと共に消えてしまった。

「今のがオシリス? 声を聞いただけで鳥肌が立ったわ」

 珍しくミリアナさんが声を震わせている。

「たしかに魂を奪われそうな気がしたよ」

 僕も震えが抑えられなかった。

「タカヒロ、これからどうするの?」

 肩の上に戻ってきたクレアさんが、不安げに聞いてきた。

「勝てるか分からないが行くしかないだろうな。クリスタルドラゴン様を助けたいし、祠に封印されている負のエネルギーの解放を阻止しないと、人間界が滅んでしまうからね」

「私達だけでは勝てそうにないわ。一度火龍様のところに帰りましょう」

「ミリアナらしくないな、どうしたのだい」

「タカヒロに死んで欲しくないの」

「大丈夫。防具に防御力アップの魔法を付与したし、転移の魔法もあるからね。それになにより、僕を守ってくれる仲間がたくさんいるからね」

 ミリアナさんを見詰めて笑おうとしたが、頬が引き攣ってうまく笑えなかった。

「分かったは、タカヒロは私が守って見せるわ」

「ありがとう。行こうか?」

 ミリアナさんの笑顔に元気を貰って先を急いだ。


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