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付与の魔法と音の魔法


 火龍城の地下室は広く、幾つにも区切られていてゴーレム作りに使われていたと思われる機材や材料が、そのまま残されていた。

「まずは10ページ目の能力だよなぁ。ホムクルン、出てきてくれないか」

「お呼びですか」

「新しい能力の検証を手伝って欲しいのだ」

 スケッチブックを開いたが、取説がないので一から検証をしていかなければならなかった。

「何から始めるのですか」

「付与の魔法について何か知っているか?」

「『賢者になるための魔術書』の解析を進めていますが、そこまでは至っていません」

「そうか。ミリアナ、大剣に刻まれた付与を見せてくれないか?」

「いいわよ」

 ミリアナさんは作業台に大剣を載せた。

「楔形文字に似ていると言っていたよね。今でも大学で習った楔形文字を覚えているかい?」

 柄の近くに刻まれている文字を画用紙に書き写した。

「自信はないけど、少しは覚えているわ」

「この紙を使って五十音表を作ってくれないか?」

「やってみるわ」

 ミリアナさんは二時間近く画用紙に向かい合って、五十音表を完成させた。

「結構複雑なのによく覚えていたね」

「ローマ字と同じで行と段の最初が分かれば、あとは根気があれば書けるわ」

「なるほどね。この表からすると大剣に彫られいるのは、『げん(減)』と読めるな」

「げんって何だ?」

 イフリート君が会話に首を突っ込んできた。

「そうだな。この場合だと、剣の重さが軽くなると言う事だな」

「よく分かんない」

 クレアさんは皆の頭上を飛び回っている。

「僕も付与魔法をやってみるよ」

 アイテムボックスから折れたショートソードを取り出すと、10ページ目に模写して『か(火)』の楔形文字を書き込んでサインを入れた。

 画用紙に描いたショートソードが消えると、折れたショートソードの刃に『か』の楔形文字が浮かび上がった。

「上手くいったの?」

「まだ分からないよ」

 1ページ目を開いて魔力を少し流し込むと、折れた剣の先に小さな火が点った。

「やったわね。でもこれだと炎のショートソードの劣化版にしかすぎないのじゃないかしら」

「たしかにそうだよな。それに付与魔法だから、スケッチブックを閉じても効力が続いていないと意味がないよな」

 スケッチブックを閉じても火は消えなかった。

「成功ね」

「あとは誰が使っても同じ効果が現れないと、成功とは言えないよな」

「貸して、私がやってみる」

「あまり魔力を流しすぎると危ないよ」

 ショートソードを渡すと、ミリアナさんから離れて鱗の盾を構えた。

「大げさね」

 ミリアナさんがショートソードを構えて意識を集中させたが何も起こらなかった。

「魔力が少しも出ていないわよ」

 僕の肩に戻ったでクレアさんが叫んでいる。

「やっぱり。じゃ、これならどうかしら。スキル、縮地!」

 ミリアナさんが呟いた瞬間、折れたショートソードが炎の大剣になった。

「あぶなーーー」

 余りの迫力に圧倒されて、盾に隠れて小さくなった。

「ミリアナの魔力量、凄いな」

 イフリート君も驚いている。

「私でも発動するから、付与の魔法は成功ね」

「そうだね。でも、ミリアナは魔力の放出を練習しないといけないね。ホムクルン、ミリアナに魔力の扱い方を教えてやってくれないか」

「任せなさい」

「僕は11ページ目の検証をするから、ミリアナはショートソードに小さな火を点す練習だな」

「その前に、お腹が空いたわ。食事にしましょうよ」

 付与の魔法が成功した事で、ミリアナさんも少し前向きになったようだ。


 アイテムボックスから焼肉にパンとスープを出して食事を済ませると、スケッチブックを開いた。

「音を作り出し、音を操るか。音で何が出来るのだ?」

(音、音楽? 音、声? 音、超音波? どれもピンとこないな。声と言えば会話だよな?)

 目を閉じて想像力を広げてみたが、効果的な能力の使い方が分からなかった。

 11ページ目にミリアナと名前を書くとサイン入れて、鉛筆でトントンと叩いてみたが何も起こらなかった。

「この力は、当分は使えそうにないなぁ」

「何弱音を思念で飛ばしているのよ」

 僕の呟きに答えるように、画用紙からミリアナさんの声が聞こえた。

「ミリアナ? 思念ってなんだよ?」

 周りを見渡したが、ミリアナさんの姿は何時の間にか見えなくなっていた。

「タカヒロのボヤキが頭の中に響いてきているわよ」

「ミリアナ、今どこにいるのだい?」

「別の部屋で魔力の放出練習をしているわよ」

「声に出して喋っているのかい?」

「そうよ。何、訳の分からない事を言っているの、ホムクルンが不思議そうな顔をしているわよ」

「もしかしたら、スマホ。暫くしたらもう一度呼び掛けるから、聞こえたらすぐに返事をしてくれるかな」

「分かったわ」


「ミリアナ、聞こえるか?」

 スケッチブックを閉じて何度か呼びかけたが、返事はなかった。

「クレア!」

「クレアなら、ミリアナの練習につきあっているぞ」

 イフリート君が教えてくれた。

「そうか、なら。クレア、聞こえるか?」

 11ページ目にクレアさん名前とサインを書いて呼び掛けてみた。

「聞こえるよ」

「ミリアナに僕の声が聞こえているか、聞いてくれないか」

「聞こえていないって」

「そうか。ミリアナ、聞こえるかい」

 11ページ目にミリアナさんの名前を書き加えると、呼び掛けてみた。

「聞こえるわよ」

「多分、ほんの一部だろうけど、11ページ目の能力が分ったよ」

「何なの?」

「スマホだよ」

「スマホってなに?」

「そうか。携帯電話だよ」

 ミリアナさんが転生した頃には、まだスマホが普及していなかったようだ。

「離れていても連絡取れるなんて便利ね」

「ああ。もう少し検証を続けるよ」

「私も頑張るわ」

 スケッチブックを閉じると会話は途切れた。

(世界樹の力がこれだけだとは思えないのだがなぁ。音を操るか? 音を消すと何が起きるのだろう?)

 作業台を木槌で叩くと、トン、トンと、乾いた音が響いた。

 11ページ目にトン、トンと書いて×点をつけるとサインを入れ、作業台を叩いてみた。

 乾いた音は響かず、木槌に衝撃が伝わってこなかった。

「これって、もしかして」

 検証をするために、スロウを呼び出して両刃の斧を持たせた。

「主よ、何をすればいいのだ」

「部屋の隅に積んである鉱石を、一つ叩き割ってくれないか」

「容易い事だ」

 スロウが大斧を振り下ろすと、ガンーと大きな音を立てて一抱えはありそうな鉱石が真っ二つになった。

「もう一つ割ってみてくれ」

 11ページ目に鉱石を割る音と×点を書いた。

「主よ、何をなさった?」

 まったく手応えが感じられないスロウは、驚いたように僕を見詰めている。

「新しい力を試しているのだよ。今度は横にある木の箱を壊してみてくれ」

「木の箱など斧を使わなくても壊せるぞ」

「これは検証だから、斧で壊してくれ」

「分かった」

 スロウが大斧を振り下ろすと、バリッと音を立てて箱は粉々に飛び散った。

(やはり書いた音を発生させる力だけが消されているのだな。これでは使い勝手が悪いし、書いているのが絵ではなく文字だから本来の能力ではないのだろうな)

「主よ、どうした、次は何をすればいい?」

「ちょっと待てよ。絶対音感があれば、力の源が発生させる音が消せるのじゃないかな」

 11ページ目に自分の耳を描くとサインを入れた。

「スロウ、床を叩かないように、出来るだけ強く斧を振り下ろしてみてくれ」

「分かった」

「文字にするのは難しい音だなぁ」

 斧の動きに集中していたが、ブウンーともブイーとも聞き分けるのが難しい音だった。

「何だこれは?」

 画用紙に目を落とすと、耳の横に五線譜と音符が表れていた。

「スロウ、もう一度だ」

 音符に×点をつけてスロウに命じた。斧が振り下ろされる音が消えている。

「木の箱を壊してみてくれ」

「主よ、ダメだ。斧の力が吸い取られているようだ」

「素手で壊してみろ」

「分かった」

 木箱は一撃で砕け散った。

「次は拳を力強く突き出してみてくれ」

 スロウの突きに意識を集中させていると、五線譜に別の音符が表れた。

「もう一度、素手で木箱を壊してみてくれ」

「まただ、今度は拳の力が吸い取られているぞ」

「スロウ、協力ありがとう。お陰て新しい力の使い方が分ったよ」

「そうか、それはよかった」

 スロウは腑に落ちない様子だが、スケッチブックを閉じると消えてしまった。


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