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知りたくなかったこと


 僕達は火龍の城の広間に、無事に転移する事が出来た。

 そこに待っていたのは、白い衣を纏った壮年の紳士だった。

「戻ったか。準備は順調に進んでいるようだな」

「はい。お陰様でドワーフの国とエルフの国に行く事が出来ました」

 紳士が火龍だとすぐに分かったので、謝礼のお辞儀をした。

 ミリアナさんはギリシャ神話に出てくるような、逞しい紳士の肉体美と美貌に見惚れて頬を染めている。

「そうか。新たな力にも目覚めたようだな」

「あんた、誰?」

 肩の上に現れたクレアさんが騒いでいる。

「妖精なのに、儂の本当の姿が分らんとは情けない奴だな」

「火龍様ですよね」

 イフリート君が頭を下げている。

「そうだ。この方がタカヒロと話しがしやすいからな」

 紳士の声は優しく響き、ミリアナさんはさらにウットリとなっている。

「火龍様、ごめんなさい」

 クレアさんは姿を消してしまった。

「あいつは何を謝っているのだ、おかしな奴だな」

 紳士は朗らかに笑った。

「クリスタルドラゴン様の所在が分かりました」

 世界樹が描いてくれた地図を広げた。

「やはりあそこか」

「この南の地区には何があるのですか?」

「そこには、古代龍様がフェアリーワールドを作られた時に、負のエネルギーを封印された祠があるのだよ」

「祠ですか」

「祠には結界が張られていて我々も近づけないのだが、何者かが結界を破ったとしか考えられないな」

「魔人オシリスでしょうか?」

「魔人程度の力では破れないだろうに」

 火龍様は考え込んでしまった。

「オシリスの魂が消える時に、『邪神様の邪魔をするのは誰だ!』と言っていましたが、何か関係があるのでしょうか?」

「邪神が現れたとしたら厄介な事だな」

「邪神とは何なのですか?」

「邪神とは神様の行いを邪魔する存在のことだ。今までは人間界に魔王を呼び出す程度の事しかしなかったのだが、今回はフェアリーワールドにまで手を出してきた訳か」

「魔王を呼び出す程度って!」

 火龍様の言葉に絶句してしまった。

「魔王など、勇者が現れて撃退しているではないか」

「たしかにそうですが。人間界に甚大な被害が出ています」

「それは人間の業の深さが呼び寄せるものだ。フェアリーワールドの祠に封印されている負のエネルギーは、昔人間が妖精やドワーフ、エルフを支配しようとした時に発生していた膨大な負の力なのだ、それを魔王が吸収したら勇者では太刀打ち出来なくなるだろうな」

「そんな……」

 僕と火龍様の会話を聞いているミリアナさんは、夢から醒めて真っ青になっている。

「獣人界にも同じような祠があるのでしょうか?」

「獣人界は人間界に近く、負のエネルギーが相殺しあっているので祠は存在しないが、獣人界の負のエネルギーが人間界に流れ出せば魔王に吸収されるだろうな。お主達は獣人界にも行って来たのか?」

「はい。ここに来る前に行ってきました」

「そうか、古代龍様の意向か」

 火龍様は何かを感じ取ろうとしているのか、天を仰ぐと黙ってしまった。

「どうかなさいましたか?」

「いや、何でもない。ちょっと敵の大きさを考えていただけだ」

 火龍様は明らかに言葉を濁している。

「どの程度の強さだとお考えですか?」

 聞かずにはいられなかった。戦う力がそれ程ない自分が今まで生きてこられた事が奇跡に近いのだ。

「オシリスは幾つかの力を失っているようだから、それほど強くはないだろう。だが、邪神がいるとしたらそいつは、魔王を手足のように使っている化け物だと言うことだ」

「それほどですか」

「それほどだ。クリスタルドラゴンの事は心配だが、南の祠に行くか行かないかは自分で決めればいい、誰も強要はしないからな」

 火龍様は椅子に深く腰掛けると、再び天を仰いで沈黙した。

(そお、言われてもなァ)

 僕も考え込んでしまった。

 ハーレム作りを夢見て来た異世界だが、いつの間にか争いに巻き込まれて抜け出せなくなっている。

「タカヒロ、私達は勇者のパーティーではないのよ、人間界に帰りましょう」

 ミリアナさんが呟くように言った。

「しかし……」

 心配そうなミリアナさんを見詰める僕は、決断する事が出来なかった。

「今日まで私のために戦ってくれて、ありがとう」

「え~ッ!」

「私が住むこの世界を消さないための変革なのでしょ。古代龍様が何度も仰っていた変革する者の意味を、私なりに考えていたの」

「僕にそんな大それた事が出来る訳がないだろ」

 全力で否定したが、ミリアナさんにはバレバレのようだ。

「惚けなくてもいいわ。私はタカヒロが無事に日本に帰ってくれればそれでいいのよ」

「ミリアナとの約束は必ず果たすよ」

「だったら、人間界に帰りましょう。この世界で死んだら、タカヒロの魂は消えてしまうのでしょ?」

「……」

(まだ何をすれば変革が起こるのかさえ、分かっていないんだもんな)

 ミリアナさんの鋭い視線に負けて俯いてしまった。

「帰る決心がついたのなら、封印を解いてくれた礼に人間界に送り届けてやるぞ」

 火龍様が沈黙を破った。

「もう少し足掻らせて下さい。新しい力の検証を行いたいので、場所を貸して貰えないでしょうか?」

「タカヒロ」

「ミリアナが悲しむような結果には決してしないから、僕を守ってくれないか」

 ミリアナさんの透き通ったブルーの瞳を、正面から見詰めた。

「……任せなさい……」

 ミリアナさんが泣き笑いになっている。

「城の中、どこを使っても構わないぞ。お主の魔法ぐらい壊れたりはしないから、存分にやってくれ」

「今回の力は攻撃用ではなさそうなので、静かにやらせて貰います」

「そうか。好きにやってくれ」

「ありがとうございます。それでは地下の部屋を使わせて貰います」

 広間を後にすると、ドワーフやエルフが捕らわれていた地下室に向かった。


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