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ドワーフの国


 火龍様に教えて頂いたドワーフの国は山に囲まれたところにあり、二日近く走ってやっとたどり着く事が出来た。

 ロンデニオの街を少し大きくした規模の国の入り口には大きな門があり、鎧を着たドワーフが立っていた。

「なに用だ!」

「鍛冶師の方にお願いがあって来ました」

「人間とは珍しいな」

「人間だと。ちょっと待てよ」

 他の用事をしていたドワーフが駆け寄ってきた。

「お名前は?」

「タカヒロとミリアナです」

「そうですか。国王様に報告をしてまいりますから、暫くお待ち願えますかな」

 見た目は門番とあまり変わらないが、丁寧な口調のドワーフは一礼すると駆けて行った。

「もしかて、火龍様のお城でドラゴンを倒したと言う人間は、あんた達なのかい?」

 門番がまじまじと見詰めている。

「ドラゴンを倒したのは、ここに居るミリアナですよ」

「そうなのか!」

 髭面のドワーフが目を輝かせて、ミリアナさんを見上げている。

「タカヒロ」

「本当の事だからいいじゃないか。その時にヒビが入った剣を直して貰いに来たのだし」

「お待たせしました。国王様がお会いになるそうですので、お城にお越し下さい」

 門番と話しをしていると、先ほどのドワーフが戻ってきた。


「よく来てくれた。儂が国王のザルーダだ。君達の事は民を送り届けて下さった火龍様から伺っている、国民を救ってくれた事を深く感謝している」

 謁見の間の最奥の玉座に、煌びやかな装いのドワーフが座っている。

「お言葉、ありがとうございます」

 僕達は深々と頭を下げた。

 着飾っている以外、他のドワーフとの見分けがつかなかった。皆、髭面で年齢さえ分からないのだ。

「感謝の印に何か礼をしたいのだが、望みはあるかな?」

「厚かましいお願いなのですが、今回のドラゴンとの戦いで相方の剣にヒビが入ってしまったので、鍛冶師の方に修繕をお願い出来ないでしょうか?」

「容易い事だ、すぐに手配させよう。他に望みはないか?」

「そうですね。後は鋳造現場を拝見させて頂きたいのと、アダマンタイトを少し譲って頂けないでしょうか?」

 恐る恐る伺いを立てた。

「お主が鉱石を大量に採掘した事は聞いている、必要なだけ持っていけばいい。ところでだが、火龍様からの情報によるとお主はゴーレムを作れるそうではないか、その技術を鍛冶師に教えて貰えないだろうか? 我が国にもゴーレムを作る技術があったのだが、今では廃れてしまっているのだ」

「作る技術としてお教え出来るか分かりませんが、ゴーレムをお見せする事はできます。それでよろしいでしょうか?」

「それで充分だ、ありがとう。早速、我が国一番の鍛冶師を紹介しよう。ダルダを呼べ」

 ザルーダ国王が付き人に命じると、見た事のあるような気がするドワーフが謁見の間に入ってきた。

「国王陛下におかれましては」

「儂への挨拶はよい。タカヒロ殿がお前に頼みがあるそうだから、全力でお答えしろ。それと、ゴーレムの件は承諾を得たからしっかり教えて貰え」

「ありがとうございます」

 ダルダさんは片膝をついて頭を下げている。

「儂は他にやる事があるので後は任せたぞ」

「はい。お任せ下さい」

「タカヒロ殿、ミリアナ殿、宴席を用意させるので、後ほどそちらでお話しを聞かせて頂こう」

 ザルーダ国王は多忙を極めているようで、謁見の間を出て行った。

「タカヒロ殿、先日は助けて頂いありがとうございました。お城での事はあまり記憶にないのですが、火龍様に詳細は伺っています」

 ダルダさんは立ち上がると頭を下げた。

「ああっ。火龍様のお城にいたドワーフさん!」

「はい、ダルダと申します。よろしくお願いします」

「タカヒロです。よろしくお願いします」

 握手したダルダさんの手は、ごつごつしていて力強かった。

「その剣ですな。火龍様からヒビが入っていると聞いています」

 ミリアナさんの大剣を見詰めるダルダさんの目は、職人の輝きを放っている。

「ミリアナです、よろしくお願いします」

「かなり重そうですが、何で出来ているのかな?」

「ミスリルです」

「それは凄い。見せて貰えるかな」

「いいですよ」

 ミリアナさんは背中の大剣を軽々と渡した。

「おっとっと」

 ダルダさんは大剣の重さに負けてフラついている。

「大丈夫ですか?」

 ミリアナさんは片手で剣を持ち上げた。

「儂も腕力には自信があるが。それを振り回しているとは、ミリアナ殿は凄い筋力の持ち主ですな」

 ダルダさんはまじまじと、ミリアナさんを見上げている。

「もう少し軽ければ助かるのですがね」

 ミリアナさんは照れ笑いを浮かべている。

「このヒビだと、新しく作った方がいいですな」

「修理は無理ですか?」

「修理をしても長くは持たないと思うぞ」

「アダマンタイトで作って貰う訳にはいきませんか?」

 無理な提案を言ってみた。

「アダマンタイトで作ればさらに重たくなるぞ」

「そうなのですか」

 流石にこれ以上重たくなると、ミリアナさんにも扱えなくなるだろうと安易な考えを恥じた。

「重量軽減魔法を付与すれば少しは軽くなるが、魔力がなければ使いこなせないから無理かな」

 戦士タイプのミリアナさんを、ダルダさんが見詰めている。

「何とかなると思いますので、アダマンタイトで作って貰えませんか?」

 ミリアナさんが神妙に頭を下げている。

「構わないが大丈夫か?」

「はい。お願いします」

「付与魔法ですか、是非見せてください」

「ここでは何だから、儂の工房に行こうではないか。合わせたい奴もおるしな」

 僕の食いつき様に笑みを浮かべるダルダさんは、先に立って歩き出した。


 ダルダさんの工房は、街外れに並んでいる幾つかの工房の中で一番大きなものだった。

「先日は洞窟で助けて頂いてありがとうございました」

 五人いた職人の一人が、僕達の前にやってきて頭を下げた。

「エーッと、誰でしたっけ?」

「ボルグさんでしたね」

 ミリアナさんは覚えていたようだ。

「はい。ワームに襲われたところを助けて頂いだボルグです」

「ああっ。あの時の愛想のない……」

「ごめんなさい。人間に対して良い言い伝えがなかったもので、お二人の事も誤解していました」

「気にしていませんよ。フェアリーワールドで人間が歓迎されないのは理解していますから」

「そうよ、気にするなって。俺の国ではタカヒロに攻撃を仕掛けた先輩もいたからな。まあ、返り討ちにあったがなァ」

「え~っ。えッ!」

 右肩に現れたイフリート君に、ボルグさんは腰を抜かしそうになっている。

「僕の友達のイフリート、そしてこっちは、クレア。二人とは妖精の国で知り合ったのだ」

「宜しくね」

 クレアさんが左肩に姿を見せた。

「タカヒロ殿は、二人の妖精さんと契約を結ばれたのですか?」

 ダルダさんが呆気に取られた表情になっている。

「はい。二人には、火龍様のお城を攻略する時に手助けして貰ったのです」

「そうだったのですか。あの時はありがとうな、妖精さん」

「ありがたく思うなら、俺にゴーレムを作ってくれないか?」

 イフリート君が空中に飛び出した。

「申し訳ない。ゴーレムを作る技術は廃れてしまっているのだよ」

「お城で作っていたではないか?」

「そのようなのだが、記憶にないのだよ」

 イフリート君に詰め寄られるダルダさんは、困り顔になっている。

「ダルダさん達はオシリスに操られいたんだ、記憶になくても仕方がないだろ」

「そうなのか」

 イフリート君は渋々肩の上に戻ってきた。

「ところで。国王様のお話しでは、ゴーレムを見せて頂けるそうだが本当かな」

 ダルダさんが職人の目に戻っている。

「僕には作り方を教える事は出来ませんが、構いませんか?」

「もちろんだとも」

 ダルダさんは興奮で声を上擦らせている。

「師匠、ゴーレムって本当なのですか?」

 ボルグさん以外の職人も集まってきている。

「今出しますから、ちょっと待って下さいよ」

 9ページ目を開くと、石を削って作ったような角ばった人形の絵を描いてサインを入れた。

 画用紙に黒い波紋が広がると、岩石の塊が飛び出して等身大のゴーレムに姿を変えていった。

「おおッ!」

 一度見ているボルグさん以外が、同じ顔をして驚いている。

「これは石で出来ているのか?」

「はい。一般的かなと思いまして、素材を聞けばよかったですかね?」

「石より鉄の方が加工し易いが、どんな素材でも作れるものなのか?」

 職人全員が唖然としている。

「戦闘の時はミスリルのゴーレムを呼び出しています」

「ミスリルでゴーレムが作れるのか?」

「僕が作っている訳ではないので、材料さえあれば何でも可能です」

 職人に囲まれている僕は、照れ臭くなって頭を掻いた。

「これは誰が作っているのだね?」

「あえて言うなら、これですかね」

 アイテムボックスからクリスタルドラゴンの鱗で作られたタマゴ形の珠を取り出すと、驚いているダルダさんに渡した。

「これは?」

「魔人オシリスが作ったと思われる物で、魔力を流すことでゴーレムを作り出す事が出来るのです」

「この珠の中には、魔法陣が付与されているようだな」

「そのようですね。物に魔法を付与する事は難しいのでしょうか?」

「我々が行うのは、武器や防具に特殊な絵を刻み込む事で能力を付与する技術で、これとは少し違うな」

「その付与するところを見せて貰えませんか?」

「国王様から許可は出ている。お嬢さんの剣を仕上げる時に付与を行うから見るがよい」

「ありがとうございます」

 新しい能力を前にしてワクワクが止まらなかった。

「よし、皆。ゴーレムの研究は後回しにして、アダマンタイトの大剣を作るぞ、気合を入れて仕事に掛かれ!」

 ダルダさんの指示で職人が動き出すと、工房内の温度が一気に上昇した。


 ドワーフ達の仕事は手際がよく見事なもので、僕達は形になっていく大剣をただただ見詰めていた。

 溶鉱炉から取り出されたアダマンタイトの塊は、二時間ほどで形を変えてミリアナさんの前に運ばれてきた。

「ほぼ完成しました。感触はいかがですかな?」

 ダルダさんは振って見るようにミリアナさんに進めた。

「ミスリルよりかなり重たいですね。これだけ重量があると、扱いに難いです」

 アダマンタイトの大剣を構えたミリアナさんは、何度か持ち直しては顔を顰めている。

「では、古くからドワーフに伝わっている付与の刻印を刻ん見ましょう」

 ダルダさんは柄の近くの刃に、先の尖った見慣れない道具を、金槌を使って打ち付け始めた。

 職人達も僕達に混じって、息を殺して見詰めている。

「これって、楔形文字?」

 ミリアナさんがボソッと呟いた。

「読めるの?」

「大学時代に勉強していた、古代文明の文字に似ている気がしただけ」

 ミリアナさんは小さく首を振った。

「重量を軽減する魔法を刻印しました。魔力を流せば剣が軽くなる筈です、やって見て下さい」

「うまく出来るかしら」

 ミリアナさんが自信なさげに大剣を握った。

「魔法が使えなくても魔力があれば大丈夫です。簡単な付与魔法なら子供でも扱えますよ」

「大丈夫、ミリアナには魔力があるとクレアが言っていたじゃないか。やってみな」

「他人事だと思って」

 ミリアナさんが睨んできた。

「いつも使っているスキルと同じだと思えばいいのよ」

 ミリアナさんの肩に移ったクレアさんが、アドバイスしている。

「スキルと同じようにね? 軽くなれ」

 ミリアナさんが呟いたが、変化は起こらなかったようだ。

「まったく魔力は出ていないわ」

 クレアさんが首を振っている。

「魔力を流すだけなのだから、何か他のスキルを使えば魔力が出るのじゃないか?」

 僕は思い付きだけでアドバイスした。

「やってみるわ。縮地」

 ミリアナさんは剣を構えたまま、高速移動した。

「凄い。一瞬だけど、ミスリルの剣より軽くなったわ」

「それはよかった。後は持続的に魔力を流せるようになればいいだけです」

 ダルダさんがホットした顔になっている。

「ありがとうございます。練習します」

「重いだろうから、普段は僕が預かっておこうか?」

「大丈夫。慣れるために私が持っているわ。こっちを預かっておいて」

 ミリアナさんは背中の大剣を渡してきた。

「大剣を二本も持って動いていたのですか?」

 ボルグさんが今更ながらに驚いている。

「分かった、預かっておくよ」

 ミスリルの大剣をアイテムボックスに収納しようとしたとき、スケッチブックの表紙が淡い光を放っていた。

「この光り、久し振りだなァ」

 ワクワクしながらスケッチブックを開くと、12ページ目が解放されていた。

「新しい力?」

 ミリアナさんが肩越しに覗き込んでいる。

「付与の魔法だと思うのだけど。取説がないから、また検証を重ねないといけないな」

 神様の放任主義をぼやきながらも、待ち望んでいた新たな力の開放に頬が緩んでしまった。

「どうかなさいましたか?」

「たいした事ではありません。次はゴーレムの研究でしょ、力をお貸ししますよ」

「お願いします」

 ドワーフ達は作業台に乗せたゴーレムの手足を切り離し、胴体と頭を真っ二つに切断したが、重量を減らすために空洞になっている事以外は何も分からなかった。

「どんな仕組みで動いているのでしょうかね?」

「僕にも詳しくは分からないのですが、魔力を流す事で動いているのは確かです」

「特別な魔法が付与されている様子はありませんし、謎が多すぎて作るのは難しいですね」

「お城で作られたゴーレムは、何で動いていたのですか?」

「分からないのです。我々は人形を作らされていただけなので」

 ダルダさんは髭面を顰めている。

「あれは、攫った妖精の子供を使って、ゴーレムを動かしていたのだ」

 イフリート君が怒りを露わにしている。

「我々はそのような事に手を貸していたのか」

「あなた方が悪い訳ではありません、すべてオシリスが悪いのです」

 落ち込んでいるダルダさんに言葉を掛けた。

「オシリスは俺が倒すから、ゴーレムを作ってくれ」

 イフリート君がダルダさんに詰め寄っている。

「我々にはただの人形しか作れませんよ」

「それでいい。タカヒロが出してくれるゴーレムは、タカヒロの魔力が強すぎで俺には扱い切れないのだ」

「時間を頂ければお作りしますよ」

「ありがたい」

 イフリート君は飛び回って喜んでいる。

「素材とか、形はどうしますか?」

「素材は硬ければ何でも構わないが、形は決まっているのだ。タカヒロ、例のゴーレムの絵を描いてくれないか」

「分かった」

 切り取った画用紙にスー〇ーマンの絵を描いて、ダルダさんに渡した。

「これですか。十日ほど時間を頂けますか?」

「構いませんよ。僕達は明日にもエルフの国に向かいますが、そこでの用が済めば戻ってきますのでお願い出来ますか」

 ゴーレムの形や大きさについてダルダさんと詳しい打ち合わせを済ませると、気の進まない宴席に出席するためにお城に向かった。


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