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フェアリーワールド


 古代龍によって飛ばされた先は、草花が咲く明るい森の中だった。

 スケッチブックを開いた僕は、7ページ目に三重円を描くと『T.Aizawa』のサインを入れた。三キロメートル以内に敵は確認できず、白い〇が無数に点在している。

「どうなの?」

 ミリアナさんが心配そうに覗き込んでくる。

「動物と思われる反応しかないので、特に心配はないよ」

「どっちに行けば人里に出られるのかしらね」

「遠距離レーダーにも反応がなかったから、周辺から調べるしかないだろうね」

 僕達は草花を踏み荒らさないように、気をつけながら歩いた。心が癒される美しい景色を眺めるのは久しぶりだ。

「何か飛んでいるけど、あれって小鳥?」

 ミリアナさんが指さす花の周りを、半透明な生き物が動き回っている。

「キャー! 人間よ!」

 謎の生き物は、僕達を見ると慌てて飛び去って行った。

「今、声が聞こえなかった?」

「聞こえた。もしかして妖精?」

「妖精なんて本当にいるの?」

「最近、子供達を攫っているのは、貴方達ね!」

 人間の手より少し大きいな生き物が、突然目の前に現れた。

「僕達は今この森に来たばかりで、子供など攫っていないよ」

 背中に羽根のある小人の出現に驚愕しながらも、必死で無実を訴えた。

「私達妖精の姿が見えるなんて、それだけで十分に怪しいわ」

「貴女、本当に妖精なの?」

 腰を屈めたミリアナさんが、空中に浮かんでいる少女と思われる生き物の顔を覗き込んだ。半透明な羽衣を纏い、可愛い顔をしている。

「私は風の妖精、シルフよ。それ以上近づいたら吹き飛ばすわよ」

「僕達は古代龍様に言われてここに来たのだ。決して君達に危害を加えたりはしないよ」

「古代龍様? 人間は信用できないから、すぐにこの森から出て行きなさい」

 シルフさんは高く飛び上がって睨んでいる。

「ここがどこだか分からないのだ。人間が住んでいる所を教えて貰えないだろうか?」

「このフェアリーワールドには、人間はいないわ。さっさと出て行かないのなら、私が吹き飛ばすまでよ」

「ミリアナ、これを使って」

 シルフさんが羽根を動かし始めたのを見て、アイテムボックスから古代龍の鱗の盾を出して渡した。

「そんな盾で私の風が防げる訳がないでしょ」

 シルフさんが生み出す突風は、凄まじい威力があった。人の頭ほどある石が飛び、大木が折れそうになっている。

「このままでは耐え切れなくなるわ」

 盾を構えるミリアナさんが、じりじりと押され始めている。

 ミリアナさんの後ろに隠れている僕は、急ピッチで7ページ目にシルフさんの姿を描いていった。

「なかなか丈夫な盾に、かなり鍛えた体のようね。だけど私の操る風は、こんなものではないわよ」

 シルフさんの体が大きくなっていくにつれて、風が強さを増していく。

「飛ばされるわ!」

 歯を食いしばって踏ん張っているミリアナさんが限界を迎える前に、サインが間に合った。

「何をしたの?」

 風を消されたシルフさんが怪訝そうな顔になっている。

「君の風を、このスケッチブックで吸収しただけだよ」

「自然の風を全て吸収できる訳がないでしょう」

「僕達の話しを聞いて貰えないだろうか?」

「人間は信用が出来ないから、それ以上近づかないでよ」

 警戒心を露にしながらも切り株の上に降り立ったシルフさんは、僕達の話を聞く気になったようだ。

「僕はタカヒロ、よろしく」

「私はミリアナよ」

 草の上に腰を下ろした僕達は、軽く頭を下げた。

「もう一度聞くは、人間がどうしてここに居るの?」

「僕達は古代龍様の力でここにやってきたのだ。ほんの数十分前にね」

「古代龍様は偉大な神様。貴方達は人間。ここに来た目的は?」

 シルフさんは理解ができないようだ。

「目的は分からないのだ。ただ困っている事があれば力になりたいと思っているのだが」

「ここはフェアリーワールド、人間の力が及ぶようなところではないわ」

「子供が攫われているとか、言っていなかったかい?」

 取っ掛かりを掴もうと、必死で話しかけた。

「妖精は豊かな自然の中で生まれ、エレメンタルとなる者以外は自然の中に溶け込んでいくだけ。攫われても危機的な問題ではないわ」

「そうなのですか。他にフェアリーワールドで問題は起きていませんか?」

 アニマルワールドのように争い事が起こっていないのならそれに越した事はないのだが、それだと古代龍がこの地を選んだ理由が分からなくなる。

「他のエレメンタル達からも、大きな事件が起きているとは聞いていないわね」

「エレメンタルて、何ですか?」

「私のように属性を持っている妖精の事よ。私は風のエレメンタル、シルフ。他に水や火などたくさんのエレメンタルが居るわよ」

「そうなのですか。妖精の寿命は長いのですか?」

「妖精は人間のように死んだりしないわ。時が経てば器が変わるだけね」

 シルフさんは変な事を聞くなと、首を傾げている。

「シルフさんは、この世界が今の形になった経緯をご存知ですか?」

「知っているわ。昔、妖精は人間と一緒に暮らしていたけど、人間の私利私欲で世界が壊れて今の形になったのよ」

 シルフさんは表情を歪めている。

「そうでしたか。古代龍様の事を聞かせて貰えませんか?」

「貴方達の方が知っているのではないの?」

「いいえ、フェアリーワールドでどう思われているかです」

「古代龍様は、フェアリーワールドを作って下さった偉大な神様よ」

「ありがとうございました。僕達はこの森を出て行きます、フェアリーワールドには妖精以外は存在していないのですか?」

「いいえ、山の麓にはドワーフの国が。別の森にはエルフの国があるわ」

 シルフさんは方向を指さして教えてくれた。

「お騒がせしました。ドワーフの国とエルフの国を訪ねてみます」

 立ち上がると深く頭を下げた。ミリアナさんもそれに倣っている。


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