古代龍との面会
精鋭部隊を両国に送り届けた僕とミリアナさんは、古代龍の礼拝堂に来ていた。
キメラ研究所での詳細な説明は、リスア将軍とハスキー将軍代行に丸投げした。
「私も連れていって貰えないでしょうか?」
古代龍に会いに行くと知ったコスモ大司教が、必死に哀願している。
「古代龍様の許可が出たらついて来ても構いませんよ、僕にはコスモ大司教様を拒む権利はありませんから」
「ありがとうございます」
コスモ大司教がペコペコと頭を下げている。
古代龍の像が光ると思念が響いてきた。
『キメラ研究所の攻略が終わったようだな。約束通り呼ぶから来るがよい』
「コスモ大司教様も一緒に呼んで貰えないでしょうか?」
『分かった』
その思念を最後に、留守番を命じられたサマンサ司教を残して僕達は光に包まれた。
「あなたが古代龍様ですか?」
白い部屋の玉座に座っていたのは、壮年の男性だった。
「そうだ。この格好の方が話し易いからな」
古代龍は気さくな応対をしてきた。
「初めまして、私は……」
跪いて挨拶をしようとしたコスモ大司教を、古代龍は片手で制した。
「挨拶はよい。いつも儂の像に祈りを捧げておるコスモ大司教だろ、祈りは届いておるぞ」
「ありがとうございます」
コスモ大司教は緊張でガチガチになっている。
「ここでは遠くて話しがしづらい。場所を変えようではないか」
玉座から立ち上がった古代龍は、先頭に立って歩くとソファーがある部屋に入っていった。
「先日は新しい力を授けて頂いてありがとうございました。そして、この手を治して頂いてありがとうございました」
「どちらもお主にヒントを与えただけだ、恩に思う必要はない」
腰を下ろした古代龍は、空間からオレンジ色の飲み物が入ったガラスのコップを取り出してテーブルに並べた。
「頂きます」
中身は馴染みのあるオレンジジュースだった。
ミリアナさんは恐る恐るガラスコップを手にして、コスモ大司教は初めて目にする宝石のようなコップに目を丸くしている。
「美味しい、オレンジジュースですね」
ミリアナさんは遠い昔を思い出しているのか、表情が穏やかになっている。
「他にリクエストがあれば言ってくれ、アップルもグレープもあるぞ」
「ありがとうございます。私、オレンジジュースが大好きだったのです」
ミリアナさんは幸せそうにガラスコップに口をつけている。
「古代龍様にお会いしたかったのは、お聞きしたい事があるからです」
「儂で答えられる事なら何でも聞いてくれ」
「僕がこの世界の人間でない事はご存知ですよね。なぜ知っておられるのですか?」
「儂はこの世界の神と知り合いだから、君の事は聞いておる」
「神様とお知り合いなら、僕がこの世界に来た経緯もご存知ですよね?」
「知っている」
古代龍は少し顔を渋らせている。
「僕は自分の選択でこの世界の争い事に首を突っ込んでいます。教えて下さい、どうすればこの世界が変革するのですか?」
ミリアナさんのためにこの世界のリプレーを止めたいが、終わりの見えない戦いが続く事が耐えられなかった。
「それは答える事が出来ないが、お主に道を示す事は出来る」
古代龍の話し方は歯切れが悪い。
「それは、新しい地に行って戦う事ですか?」
「察しがいいな、その通りだ。行くも行かないもお主の自由だ、ロンデニオの街に帰って絵を描いて暮らす事も選べるぞ」
「自由ですか」
お替りしたオレンジジュースを、美味しそうに飲んでいるミリアナさんを見詰めた。
「なに? 私はタカヒロについて行くと決めているから、意見を求めないでよ」
能天気なミリアナさんに戻っている。
「僕の意思しだいですか」
小さく呟いて目を閉じた。ロンデニオの街に帰って暮らすだけのお金は溜まっているが、このままでは数年後、地球に戻って平穏な日々を送る自信が持てなかった。
「新しい地は、どのようなところですか?」
「それも答えられない。自分の目で確かめる事だな」
古代龍は申し訳ないと言うように、小さく首を振っている。
「神様とお知り合いの古代龍様に、もう一つお聞きしたい事があります」
アイテムボックスから、処分に困っている人造人間ホムクルンを取り出した。
「それは」
「ご存知なのですね」
「ああ。ホムクルンだな」
古代龍は表情を曇らせている。
「今回のキメラ騒動の原因となった人造人間です。神様がお造りになったと聞いたので、処分を保留しています。古代龍様のご意見をお聞かせ下さい」
ホムクルンは電源が切れたように全く動く気配がない。
「お主の好きにすればいいではないか、所詮ロボットだろ」
ボソボソと話す古代龍の言葉は説得力に欠けている。
「そうですか。では暫く様子を見て、活用方が見つからなけでは破棄する事にします」
「そうすればいい」
古代龍の態度に違和感を覚えながらも理由が分からず、ホムクルンをアイテムボックスに戻すと話しを打ち切った。
「では、新しい地へ送って頂けますか」
オレンジジュースを飲み干すと立ち上がった。
「そうか、決心がついたか。これを持って行くがよい」
古代龍は赤い球を差し出した。
「これは?」
「時がくればお主の助けになるだろう」
「やはり取説は無しですか」
詳しい説明を諦めて、球をアイテムボックスに収納した。
「では、送ろう」
「ちょっと待って下さい」
唖然としているコスモ大司教と向かい合った。
「コスモ大司教様、お世話になりました。アニマルワールドの方々に、色々と約束を果たせず申し訳ありませんとお伝え下さい」
僕が頭を下げると、ミリアナさんもそれに倣った。
「は、はい。ご無事をお祈りいたしております」
コスモ大司教はまだ状況が呑み込めていないようだが、立ち上がると深々と頭を下げた。
「では、古代龍様、お願いします」
「分かった。新たな地で会うのを楽しみにしているぞ」
古代龍は右手を僕達に向けてかざしてきた。
第二章 完結