表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
54/101

キメラ研究所 その1


 キメラ研究所攻略当日。

 僕は連合国と湖、そして湖とレッドゴリー王国を転移の魔法で往復して精鋭部隊を集めた。

 リスア将軍率いるレッドゴリー王国は、真新しい鉄鎧を着たゴセリー王子を含む騎士が十人と、白い神官服を着た魔術師が十人。

 ハスキー将軍代行率いる連合国は、革鎧を着たドオランさんを含む騎士十人と、ブルーの神官服を着たサマンサ司教を含む魔術師十人。

 総勢四十二人は全員が毛皮のマントを羽織っている。

「これから行くところには今までにない強い魔物がいます、十分に注意して戦って下さい。転移する場所は魔物の巣窟だと思われる研究所近くの森です。まずはその森を抜けるのが第一目標です」

 整列した兵士の前に立つと緊張した。

「僕は集団行動の指揮をした事がありませんので、ここからはリスア将軍に全体の指揮をお願いして、僕はアドバイザーに徹したいと思います」

「私は構わないのだが、連合国の皆さんはそれでいいのですか?」

「僕は自由に動けた方が戦いやすいのでお願いします」

「我々はタカヒロ殿のお言葉に従います。リスア将軍、よろしくお願いいたします」

 ハスキー将軍代行に倣って連合国の全員が頭を下げた。

「分かった。集団での戦闘では私が指揮を取ろう」

「一つだけお願いしておいていいですか?」

「何ですか?」

「命を大事にする戦い方をして下さい」

 全員が揃って帰れる事を願っている僕は、リスア将軍に頭を下げた。

「分かった。任せておけ、私が指揮を執る以上誰一人死なせはしない」

「では、行きましょう」

 敵の巣窟だと思われる建物の近くで写生した絵を7ページ目に写し取って『Aizawa』のサインを入れると、全員が淡い光に包まれた。


 転移した森は静かだったが、レーダーが無数の敵影を捉えていた。

「固まっていると包囲される危険があるから、十人ずつの班に分かれて行動をする」

 リスア将軍はテキパキと指示を出して四つのグループを作ると、二十メートルほどの距離を取らせた。

「タカヒロ殿とミリアナ殿は後方の警戒をお願いする」

「分かりました」

 フォブルとスロウを呼び出すと、6ページ目にショートソードを描いて風魔法を纏った剣を手にした。今回は打撃の衝撃を半減させる鎖帷子を着こみ、魔法攻撃のダメージを半減させるコボルトキングのマントを羽織り、防御力にも万全を期している。

 木の上にいたゴブリンが弓を射ってきたが、騎士の盾がすべて封じた。

「偉大なる古代龍様の力をお借りして、我が敵を射ぬけ。アイスアロー」

 後方の魔術師が放つ無数の魔法がゴブリンを打ち落し、騎士が数で押していった。

「一対一だと勝敗が分からないほど強いですね」

 ハスキー将軍代行が肩で息をしている。

「敵は手強い。気を引き締めてかかれ!」

 リスア将軍が全員に気合を入れる。

 確かに剣を手にしたゴブリンは強かったが、精鋭部隊の敵ではなかった。二十体のゴブリンの死体は、消える事なく転がっている。

 森の中心部が広場のようになっていて、鎧を着た十体のオークがグリフォンの世話をしていた。

「タカヒロ殿、かなり厄介な敵のようだが、どうする?」

 言葉遣いは荒いが動作に敬意が表れているリスア将軍が、作戦を聞きにきた。

「偵察の時には別の場所にいた敵ですが、今回は避けては通れないようです。僕が合図をしたら騎士はオークを、魔術師はグリフォンを一斉攻撃して下さい」

「勝機はあるのですか?」

 リスア将軍が心配するだけあって、グリフォンは大きな翼をバサつかせている。

「まずは、フォブルとスロウに先行させてグリフォンの動きを封じますから、僕の合図を待って下さい」

「分かった」

 リスア将軍は大きく頷くと、小隊の間を走り回って作戦の確認をしている。


 4ページ目にアイスアローを二十本描いてクモの糸を結びつけると、フォブルとスロウを走らせた。

 先行に気づいたグリフォンが飛び上がり、オークが駆け出してくる。

 古代龍の盾を持ったミリアナさんに守られながら広場に出た僕が右手を振り下ろすと、精鋭部隊の一斉攻撃が始まった。

 魔術師が放つ火属性の魔法も水属性の魔法も、グリフォンには全く通用しなかった。

 僕はスロウを目がけて急降下してくるグリフォンに、アイスアローを放った。

 魔術師達の魔法に無傷のグリフォンは、僕の魔法も避けようとはしない。

 鋭い爪でスロウを鷲掴みにしたグリフォンは翼を羽ばたかせたが、鋼線のようなクモの糸に絡め捕られてそのまま地面に落ちた。

「ミリアナ、任せた」

 魔術師達の攻撃を止めさせると、ミリアナさんから盾を受け取った。

「任せなさい!」

 スキルの縮地と斬鉄を使ったミリアナさんは、もがくグリフォンの首を一撃で切り落とすと心臓部に大剣を突き刺して止めを刺した。

 リスア将軍達は苦戦を強いられながらもオークを打倒した。

「さすがはミリアナ殿、素早い動きと見事な太刀筋ですね」

 ハスキー将軍代行は感心しまくっている。

「長居は無用だ、先を急ぐぞ」

 リスア将軍は隊を纏めようと必死になっている。

「少し待って下さい」

 僕は2ページ目を開くと、グリフォンの死体をアイテムボックス収納した。コカトリスは消えてしまったので、初めて手に入れたキメラの個体なのだ。

「それをどうなさるのですか?」

 サマンサ司教が首を傾げている。

「キメラの謎を解くのに使えないかと思っただけで、他に理由はありません」

「そうですか。しかし、あれほど大きな魔物を収納されるとは、凄い力ですね」

 サマンサ司教は瞳を輝かせている。

「タカヒロ、消されたスロウを呼び出さなくていいの?」

 ミリアナさんの声が少し低くなっている。

「そうだった」

「気を引き締めていないと、この前のような事になるわよ」

「はい、気をつけます」

 苦い経験を思い出した僕は、ペコリと頭を下げた。


 さらに森の中を進んで行くと、石造りの大きな建物が見えてきた。

 建物の周囲に敵がいるのは、レーダーで確認が出来ている。

「僕達が攻めてきている事は敵も知っている筈なのに、どうして反撃に出てこないのでしょうかね」

「分からないが、私達を甘く見ているのじゃないか。ここまで来たのだから、一気に攻め込むべきだと思うぞ」

「敵はこの建物を守るのが重要なのかもしれませんね。しかし、リスア将軍が仰るように攻め込むしかないでしょう」

 リスア将軍もハスキー将軍代行も意見は同じようだ。

「イナズマで建物を破壊するのはどうかしら」

「やってみようか」

 ミリアナさんの意見を取り入れて、8ページ目に巨大なイナズマを描いた。

「あの建物の一番高い所に駆け上るのだ」

 アイテムボックスから折れたショートソードを取り出して、フォブルに銜えさせた。

 フォブルが走り出すと次第にスピードが増して、僕の目では追えなくなった。

「何があった?」

 建物に近づいたフォブルがショートソードを残して、突然消えてしまったので計画と少し違ったがサインを入れると、イナズマが走り轟音が轟いた。

「魔法障壁?」

 イナズマは壁に遮られたように、地面に吸い込まれてしまった。

「盾を上空に構えて、森に逃げ込め!」

 リスア将軍が叫ぶと同時に矢の雨が降ってきた。

「ケガをした者はサマンサ司教に手当てをして貰え」

「私も手当てが出来ます」

 キャシーさんが手を上げた。

 矢を受けた五人がヒーリングの魔法の世話になったが、幸い毒は使われていなかったようだ。

「あの建物は完璧な魔法防御が施されているので、追撃もないし敵も出てこないのですね」

 フォブルが突然消えてしまった事も理解できた。

「そのようだな」

 ハスキー将軍代行とリスア将軍が、困った表情で腕組みをして遠くの建物を見ている。

「魔法は通用しないかも分かりませんが、矢が建物から飛んできているので攻め込む事は可能ではないでしょうか?」

 危険な賭けだがここで引き下がる訳にはいかなかった。

「警戒は厳重のようだけど、それしかないようね」

 僕の魔法が無効化された事に、ミリアナさんは少しだけ落ち込んでいる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ