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戦場での出会い


 僕達が攻撃を開始しようとした時、砦で大きな爆発音が響きさらなる黒煙が上がった。

「向こうでも戦闘が激しくなっているようです。こちらも戦闘を開始しましょう」

 4ページ目にアイスアローを描いて、折れたショートソードを蜘蛛の糸で結び付けると、『T.Aizawa』のサインで出来るだけ遠くへ飛ばした。

 砦に向かって進行していた魔物が、上空を見上げたが手遅れだった。

 8ページ目に『T.Aizawa』のサインを入れると巨大な光の柱が群れの中心に落ちて、半径五百メートル近くを丸焦げにしてパチパチと火花を散らしている。

「行け!スロウ、フォブル、そしてゴーレム」

 魔物に突っ込んでいったスロウは、両刃の斧で敵を縦横無尽に切り倒し、フォブルは手足を食い千切り、ゴーレムはパンチで殴り倒している。

「私達も行くわよ!」

 大剣をかざして切り込んでいくミリアナさんの後を、ゴセリー王子とドオランさんが続き、怪我で体力が落ちているハスキーさんと後方組のラクシャさんとキャシーさんが少し遅れて続いた。

 落雷で統制が乱れている魔物の群れは、烏合の集まりでしかなくどんどん数を減らしていく。

 砦からも千人以上の軍勢が打って出て、挟み撃ちとなった魔物は応戦する事もなく倒れて消えていった。

「アニマルワールドの魔物は死ぬと消えるのですか?」

 魔力が回復していないので戦えないハングさんに質問した。

「以前はそのような事はなかったのですが、最近現れる魔物の集団は何故か消えてしまうのです」

「キメラに消える魔物ですか?」

 戦力が増えて戦いが楽になっているので、ゆっくりとした足取りで戦場に向かっていった。

 折れたショートソードを拾う頃には、魔物は強い数体を残すだけになっていた。

「ミノタウロス、魔物でありながらなぜ我々と戦う?」

 スロウと対峙しているのは、上半身が人間の女性の姿をして、下半身が蛇の姿をした魔物だった。

「我が主の命令だからだ」

「オシリス様の命を受けた、このラミアに従えぬと言うのか?」

「オシリスか、懐かしい名だが、今の主はタカヒロ様だ」

 大群と戦ってきたがエネルギー体のスロウに疲れはなく、渾身の力で巨大な斧を振り回している。

 ラミアは鋼鉄の槍で受け止めようとしたが、真っ二つに折れてしまった。

「消えてしまえ!」

 ラミアの下半身が大きくしなって、鞭のようにスロウを襲った。

 激しい攻撃を数回かわしたスロウは、高くジャンプすると落下の力を使って斧を蛇の身体に叩きつけた。

「ギャー」

 悲鳴を上げたラミアの身体が、光の粒子となって消えていった。

 ミリアナが最後の魔物を倒して大剣を下ろした時、軍を率いて砦を出ていたライオンの顔をした戦士が近づいてきた。

「まだ残っていたか!」

 黄金の鎧を着た立派な体格をした戦士は、魔力を纏い青い光を放つ大剣をスロウに振り上げた。

「皇帝閣下、お待ち……」

 ハスキーさんが割って入ろうとしたが、電光石火の剣撃はいとも簡単にスロウを真っ二つにしてしまった。

 エネルギー体であるミノタウロスは悲鳴を上げる事もなく、スーッと消えてしまい両刃の斧だけが残った。

「ハスキー。それにお前達も無事だったか!」

 跪く兵士を見下ろすライオン姿の戦士は、厳つい顔をした壮年の人間の姿になった。

「遅くなりました、皇帝閣下。帰路の途中でこの戦いに遭遇しました」

 僕をチラ見するハスキーさんは、腕を怪我した時より蒼ざめている。

「そうだったか。ところでお前達の後ろに居るのは誰だ?」

「ライガン皇帝、お初にお目にかかります。タカヒロと申します」

 僕が頭を下げると、ミリアナさん、ハングさん、ゴセリー王子もそれに倣った。

「閣下、詳しい報告の前に少しお時間を頂けないでしょうか?」

 ハスキーさんは額に大量の脂汗を浮かべている。

「許す!」

 銅像のように鞘に納めた剣をついて立っているライガン皇帝は、小さく頷いた。

「タカヒロ殿、スロウの件、お許し下さい」

 ハスキーさんが土下座をすると、ドオランさん、ラクシャさん、キャシーさんも地面に額をつけた。

「分かりますよ。タカヒロ殿を怒らせたら、魔物の襲撃などとは比較にならない被害が出ますからね」

 小声で呟くハングさんが大きく頷いている。

「気にする事はありませんよ、突然現れた僕達の方が悪いのですから」

「ご慈悲を頂き、ありがとうございます」

 ハスキーさんは恐縮しきっている。

「貴様ら、皇帝閣下の御前だぞ、跪かんか!」

 戦いが終わった兵を纏めていたトラ顔の騎士が、ライガン皇帝の横に立った。

 トラ男が剣に手を掛けているのを見たミリアナさんは、縮地で僕の前に回った。

「タ、タイアン将軍、お待ち下さい。こちらにおられるタカヒロ殿とミリアナ殿は、古代龍様の使徒様でおられます」

 ハスキーさんは泣き出しそうな声になっている。

「古代龍様の使徒だと、ハスキーをたぶらかすとは、貴様らも魔物の類だな」

 タイアン将軍と呼ばれた男が右手を上げると、抜刀した兵士が僕達を囲んだ。

「タイアン、もうよい。レッドゴリー王国のハング魔術師長殿、これは何の真似ですかな? 密入国を非難されに来られたのかな?」

「この姿の私をご存知でしたか? 私共はゴスリー国王の親書を持ってやってきたのですが、魔物の群れに遭遇したので及ばずながら手助けをと思いまして」

「その姿をお見かけするのは初めてだが、戦場で対峙した時の覇気が漂っていますよ。すると先ほどの巨大な落雷は貴殿の魔法でしたか」

 ライガン皇帝は落雷の跡を指さして感心している。

「あれは、こちらに居られるタカヒロ殿の魔法です。そして、先ほど皇帝が倒されたミノタウロスの主でもおられます」

 ハングさんはそれだけ言うと、僕に向かって頭を下げた。

「そうでしたか。知らぬとは言え、加勢して頂いたのに剣を向けてしまって申し訳ありません」

「閣下! 得体の知れない者に頭を下げられてはなりません」

「もうよい。城に戻るから馬車を用意しろ」

 ライガン皇帝に怒鳴られたタイアン将軍は、部下を引き連れて砦に向かって駆け出した。

「部下の失礼をお許し願いたい」

「僕はよそ者ですので気にしないで下さい。それよりもこちらは、レッドゴリー王国の王子のゴセリー殿です」

 ゴセリー王子を前に押し出して、厄介事を避けた。

「王子が直々においでとは痛み入る。詳しい話しは城でいたそう」

 ゴセリー王子との対面が上の空のライガン皇帝は、僕とミリアナさんをジッと見詰めて無口になってしまった。


「共闘の相談はお二人に任せて構わないでしょうか?」

 ライガン皇帝とは別の馬車に乗り込んだ僕は、ハングさんとゴセリー王子に切り出した。

「使徒様にはご尽力頂けないのでしょうか?」

 ゴセリー王子は不安そうな顔をしている。

「話し合いが纏まらなければ間に入りますが、今は少しこの国を調べたいのです。魔物の大群がなぜこの国に攻め込もうとしたのか気になるので」

「分かりました、王子と二人で共闘の承諾を必ずや取りつけて見せます」

 ハングさんが真顔で僕を見詰めている。

「タカヒロ殿とミリアナ殿は、いかがなされるのですか?」

 監視役として馬車に乗り込んでいるドオランさんが聞いてきた。

「城に着いたら何か理由をつけて街に出たいのですが、名案はありませんか?」

「街には古代龍様を祀った神殿がありますので、そちらに行かれるのはどうでしょうか? 私がご案内させて頂きます」

 僕を神だと疑わないドオランさんは常に低姿勢だ。

「神殿ですか。一度は行かねばならないでしょうから、そこに行く事にします」

 皇帝との会談を丸投げ出来るなら、理由は何でも構わなかった。

 四時間ほどで石壁に囲まれた街に着き、貴族専用の門を潜ると小高い丘の上に城が見えた。

「皇帝閣下、こちらには古代龍様を祀った神殿があると聞きました。僕とミリアナは、まず神殿に行きたいのですが構わないでしょうか?」

 馬車を降りると、ライガン皇帝に走り寄って直訴した。

「閣下に直接声を掛けるとは、礼儀を知らない奴だな」

 護衛に当たっているタイアン将軍が、剣に手を掛けている。

「使徒様なら神殿に向かわれるのは当然でしょう、タイアンをお供につけますので御自由にお使い下さい」

 ライガン皇帝の言葉遣いが変わっている。

「閣下……」

「失礼があればお前の首が飛ぶぞ。心して使徒様に従えよ」

 ライガン皇帝はきつい声で命令を下すと、踵を返して城に入っていった。

「タイアンさん、よろしくお願いします」

「皇帝閣下の命令だからついていくが、お前達に従う気はない。変な真似をしたら、その場で首を斬る監視員だと思う事だな」

「分かりました。案内はドオランさんにお願いしましたから大丈夫です」

 僕達は石畳の道を神殿に向かった。

 市民は人間と変わらない姿をしていたが、耳が尖っていたり長かったり、尻尾が生えていたりと種族の特徴は残っていた。

 市街地から少し離れた場所には、高い塔が目立つ真っ白な大きな建築物が建っていて、神官服の獣人が出入りしていた。

「ここが古代龍様の神殿ですか、立派な建物ですね」

「絶対神をお祀りしてあるのだから当然だ。それにここは我が国の魔術師の本拠地でもあるからな」

 塔を見上げて感心している僕に、タイアンさんは小馬鹿にした笑みを浮かべている。

「ここでは魔法を教えているのですか?」

「はい。魔法は古代龍様の力をお借りして行うものなので、魔力を認められた者はこちらで知恵を授かるのです」

「僕にも魔法を教えて貰えますかね」

 異世界に来てからずっと師匠を探していた僕は、つい口にしてしまった。

「タカヒロ殿が何を教わると仰るのですか?」

 ドオランさんが驚きの表情をしている。

「古代龍様の力を授かっていないだと、やはり使徒と言うのはまやかしだったのだな!」

 一瞬でトラ顔になったタイアンさんが、ロングソードを抜いた。

「タイアン将軍、皇帝閣下のお言葉をお忘れですか、剣を収めて下さい」

「タカヒロに危害を加えるようなら私が相手をするわよ」

 ミリアナさんが大剣の柄に手を掛けた。

「神殿の前で騒いでいるのは誰だ?」

「申し訳ない。ちょっとしたいざこざなので見なかった事にして貰いたい」

 タイアンさんは剣を収めると軽く頭を下げた。

「貴方様はタイアン将軍ではありませんか、今日はどのようなご用件で?」

 白い神官服の男が丁重に頭を下げている。

「古代龍様の使徒と名乗る者を連れてきたので、大司教様にお取次ぎ願いたい」

「古代龍様の使徒様だと」

 男は僕達を胡散臭そうに見ている。

「ベル司祭、使徒様に間違いないからすぐに取り次いで貰えないか?」

「ドオラン、お前も一緒だったのか」

 二人は知り合いのようだ。

「タイアン将軍。すぐにお伺いを立ててきますので、控室でお待ち願えますか」

 ベル司祭は別の司祭に案内を任せると、神殿の奥へ駆けていった。


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