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古代龍のダンジョン その4


 ジャングルを抜けて少し進むと川があり、一行は流れに沿って下っていった。

「今度は滝か! 出来たばかりのダンジョンにしては大き過ぎないか?」

「ギルドの記録には残っていませんが、古くからあったダンジョンのようですね」

 ルベルカさんとマルシカさんが意見を交わしている。

「古代龍は何のために、このダンジョンの存在を人間に知らせたのかな?」

「分かりませんが、変革をもたらす者を呼び寄せたのは間違いないと思います」

「変革をもたらす者か?」

「王都にいたミリアナさんの話しから、マスターはS級冒険者の氷結の乙女のリーダーが変革をもたらす者だと判断されています」

「あのとき、ミリアナが王都にいたと言う事は、タカヒロも王都にいたのか?」

「はい。ご一緒だったと聞いています」

「そうか。古代龍にこのダンジョンに呼ばれたのは、俺達かもしれないな」

 ルベルカさんは振り返ると、僕とミリアナさんに視線を向けてきた。

「それは、どう言う意味ですか?」

「いずれ分かるだろう」

 ルベルカさんはマルシカさんの問いをはぐらかした。

「ロープを使って滝沿いを下りるぞ。タカヒロ、敵の反応は?」

「ありません」

「よし、俺とダルが先に下りる。合図をしたら、順次下りてこい」

 盾を背負たルベルカさんが岩に結んだロープを使って、三十メートルほどの岩場を下りていった。

 別のロープを掴んだダルさんは身軽に滑り下りていき、先に地面に到達している。

 全員が下りるのに三十分ほど掛かり、暫く進むと川は次第に湿地帯とそれに続く湖へと姿を変えていった。

「敵です!」

 スケッチブックのレーダーに赤い○が無数現れた。

「数は?」

「五十ぐらいです」

「まとまっているのは危険だ、前衛後衛に分かれて扇状に広がって迎え撃つ。グループごとに展開しろ!」

「あれはリザードマンだ、水辺で戦うのは最悪の相手だぜ」

「接近戦は不利になる。魔法、弓は射程範囲に入り次第攻撃を開始だ!」

 ルベルカさんの指示で全員が動き出した。

「火よ、我が敵を射ぬけ。ファイアアロー!」

 ゾッタさんの魔法が開戦の火ぶたを切った。

「なに! 魔法障壁だと」

 ファイアアローが弾かれて、全員に動揺が走った。

「前衛のリザードマンが着ているのは宮廷騎士団の鎧。手にしているのは宮廷騎士団の盾だわ。それに後方には宮廷魔術師団と同じ格好をしたリザードマンもいるわ」

「すると、宮廷魔術師団の魔法を使っていると言うのか?」

 マルシカさんの言葉にルベルカさんが唸った。

「あの数のリザードマンと接近戦はかなりまずいぞ!」

「一度下がるしかないか」

 いつも強気のルベルカさんが、ファブリオさんの言葉に撤退を口にしている。

 魔法攻撃を受けながらも湿地帯を平地のごとく駆けてくるリザードマンの手には、騎士団のロングソードが握られていた。

「ダメだ。この足場では逃げ切れない、戦うしかないわ」

 ミリアナさんが大剣を構えた。

「タカヒロ、皆が撤退する時間を稼げないか? お前は俺が守って見せる」

 ルベルカさんが僕の前で真鍮の盾を構えた。

「やってみます、皆さんは湿地帯から離れて下さい」

 スケッチブックを開くと、5ページ目を使って高さ二メートルの横に長い土壁を作り、3ページ目を使って炎の壁を作った。

 湿地帯を抜けるまでに同じ壁を三回作ったが、土も火も水に弱くて直ぐに壊されてしまい、リザードマンを完全に足止めする事は出来なかった。

「何とか逃げ切れたようだな」

 リザードマンが進行を止めたのを見届けたルベルカさんが、安堵の吐息を洩らした。

「足場さえしっかりしていたら、たとえ武装したリザードマンが相手でも負けはしないさ」

 ファブリオさんの言葉にミリアナさんも大きく頷いている。

「そうだといいんですが」

 マルシカさんが指さす方向を見た全員が、恐怖に顔を引き攣らせた。

「あれは?」

「あれはワイバーンです。何かが背中に乗っています」

 まだ、遠目の利くマルシカさんにしか見えていない。

「竜騎士のオルタさんが来てくれたのだわ」

 ミリアナさんの希望に、マルシカさんが首を横に振った。

「S級冒険者のオルタが、リザードマンに負けたと言うのか」

 ルベルカさんの言葉に、全員の顔色がなくなっている。

「分かりませんが、ワイバーンに乗っているのはリザードマンです。逃げるか、戦うか決断して下さい」

 マルシカさんがルベルカさんに詰め寄っている。

「逃げ切れはしない、戦うしかないだろ。作戦は思いつかないが、全力で戦え!」

 ルベルカさんが剣を振り上げた。

 ワイバーンが近づいてくると、止まっていたリザードマンも進行を再開している。

「ワイバーンは僕が何とかしますから、皆さんはリザードマンをお願いします」

 勝機がある訳ではなかったが、ミリアナさんが傍に居てくれるだけ何とかなるような気がした。

「一人で大丈夫か?」

「タカヒロは私が守るわ」

「ミリアナもルベルカさん達と一緒に戦ってくれるかい」

「分かったわ。ワイバーンになんか負けないでよ」

 今日のミリアナさんは怖いぐらい素直だった。

「うん」

 僕は皆と離れると最上級の風魔法を纏わせたショートソードを足元に置き、4ページ目に無数の氷槍を描いてそれぞれにアイテムボックスから引き出したクモの糸の先端を結びつけた。

「こっちへ来い!」

 準備を終えると、ルベルカさん達に襲い掛かろうとしているワイバーンに石礫を飛ばした。

 攻撃を受けたワイバーンは、騎乗しているリザードマンの命令を無視して、一度高く上昇すると僕めがけてスピードを上げて突っ込んできた。

 接触したら身体がバラバラになりそうだが、氷槍が大きく外れるのを避けるために限界まで引きつけて、『Aizawa』のサインを入れた。

 光りながら飛んでいく氷槍を躱したワイバーンが頭上を掠めていった。

(次が勝負だ)

 重たいショートソードを上段に構えると、ワイバーンを迎え撃った。

 氷槍に括っておいたクモの糸が絡まり、翼が自由に動かなくなったワイバーンは、低空飛行のまま反転して突っ込んできた。

「終わりだ! スラッシュ!」

 体重を乗せてショートソードを振り下ろすと、風が空気を引き裂いて走っていった。

「ギヤッ!」

 ワイバーンは断末魔が上げ、騎乗していたリザードマンと共に真っ二つになった。

(上手くいったからよかったが、怖かったァ)

 安堵の吐息を漏らして地面に刺さったショートソードを持ち上げると、試練のダンジョンで手に入れた剣は真ん中から折れてしまっていた。


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