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王都にドラゴンが現れる


 普段と変わらぬ活気に満ちた王都に突然、

『ゴン~、ゴン~、……』と、警戒警報の鐘が鳴り響いた。

『王都にドラゴンが接近中。騎士団並びに魔術師団は戦闘態勢。B級以上の冒険者は正門前に集合』

 魔法による拡声放送が王都全域に流れた。

「ドラゴンって、本当に居るのだ!」

「何を呑気な事を言っているの、速くジムニー商会の人を探すわよ」

 何か言いたそうにしていた魔導士のおばあさんに別れを告げた僕達は、トドンドさんが寄ると言っていた商工ギルドに向かった。

 住民は慌ただしく戸締りをして自宅に引き篭もっている。

「おおい、こっちだ!」

 グランベルさんが手を振っている。

「トドンドさん達は?」

「この中で商談中だ」

 グランベルさんが立っていたのは、王都で一番手広く商売をしているアンガズ商会の前だった。

「ライフさん達は?」

「すぐに集まるだろう」

「王都にはよくドラゴンが現れるのですか?」

「そんな事ある訳ないだろ。ここ何十年もドラゴンなんて見た事ない」

 ベテラン冒険者のグランベルさんもかなり慌てている。

「B級以上の冒険者に召集が掛かっていましたが、グランベルさん達は行かなくていいのですか?」

「俺達が行っても邪魔になるだけだ。王都にはS級冒険者が二組もいるのだ、任せておけばいい」

「S級冒険者かァ。強いのでしょうね」

「タカヒロ君、大丈夫か? もしもドラゴンが攻めて来たのなら、厳戒態勢の王都でも崩壊するかもしれないのだぞ」

 緊張感のない僕にグランベルさんは呆れ返っている。

「皆さん、私達は危険が去るまでアンガズ商会さんでお世話になる事になりました」

「さあ、皆さんも中に入って下さい」

 トドンドさんと一緒に玄関から出て来たのは、恰幅のいい初老の男性だった。

「俺は仲間を見てくる。君達はここでトドンドさんを守っていてくれ」

 グランベルさんは宿屋の方角に走り出した。

「トドンドさん、ドラゴンを見に行きたいのですが、お許し願えませんか?」

「無事に帰ってくると約束するのなら許そう」

「ありがとうございます」

「待ちなさい、私も行くわよ」

 僕が走り出すとミリアナさんが後を追ってきた。

「どうして、急に危険な場所に行きたいと言い出したの?」

「この水色の〇が気になって、ドラゴンを見てみたくなったのです」

 7ページ目が開いているスケッチブックをミリアナさんに見せた。初めて見る水色の大きな○が映し出されている。

「なにィ? 王都に近づいているドラゴンは敵では無いと言うの」

「そうだといいですよね」

 確証のないまま正門まで走り着いた。

 さすがは王都の冒険者。強者達が揃って空を見上げている。

 上空ではジェット機ほどある巨大なドラゴンが何かを待っているかのように、悠然とホバリングをしている。

「指示するまで攻撃はしないように」

 先頭に立って指揮を執っているのは、真っ白な鎧に身を包んだ女戦士だった。すぐ後ろには三人の女冒険者が続き、数メートル離れて沢山の冒険者が武器を構えている。

「ドラゴンに向かっていくなんて勇気がありますね、あれは誰なのですか?」

 門を出たところで止まった僕は、ミリアナさんに尋ねた。

「S級冒険者氷結の乙女のリーダーで、聖騎士のアンリーヌさんよ。そしてその後ろにいるのが、竜騎士のオルタさん、聖女のカトリエさん、賢者のフロリアさんよ」

 ミリアナさんが憧れの眼差しを向けている。

「あれがS級冒険者ですか、ドラゴンを前にしてまったく臆していないなんて凄いですね」

 僕は一歩下がってミリアナさんの後ろに隠れるようにして、巨大なドラゴンを見上げた。青白い鱗が太陽の光を反射して眩しく輝いている。

 塀の上には完全武装の兵士が並び、塀の内側では魔術師達が詠唱を始めている。

「古代龍様、アスラン王国に何か御用でしょうか?」

 ドラゴンに近づいたアンリーヌさんの透き通った声が響き渡った。

「やっと揃ったようだな。氷結の乙女、そしてこの世界を変革する者よ。アスラン王国とウスラン帝国の国境付近に新たなダンジョンが誕生した。攻略は難攻するだろうがこの世界を変える第一歩だ、心して挑むがよい」

 辺りを見渡すように首を振ったドラゴンは、重たく威厳のある声を響かせた。口が動いていないので、思念を飛ばしているのだろう。

「それを伝えるために、わざわざお越し頂いたのでしょうか?」

 ドラゴンに敵意がないと分かったアンリーヌさんは、片膝をついて頭を下げている。

「世界を変革する者よ、これを授けよう。次なる地で再会するのを楽しみにしているぞ」

 アンリーヌさんの問いを無視するドラゴンは、人間の大きさほどある鱗を一枚落とすと大きく羽ばたいて飛び去って行った。

 太陽の光を遮っていた大きな影が居なくなり、上空を見上げていた全員が安堵の吐息を漏らした。

「凄い迫力だったなァ」

 想像を絶する力の源を感じる僕は、ドラゴンの姿が見えなくなるまで空を見上げていた。

「古代龍はドラゴンの中でも別格だからね」

「ミリアナは古代龍の事を知っているの?」

「師匠に聞いた事があるだけで、本物を見たのは初めてよ」

「古代龍の事を教えてくれないかな」

「私よりも師匠に聞いた方が確かだから、ロンデニオに戻ってからにしましょう。それより今は、皆のところに戻らないと心配するわ」

「そうだね」

 戦闘にならなかった事に気の緩んだ冒険者達と関わらないように、僕達は急ぎ足で街中に戻っていった。


 王都でのドラゴン騒動は大事には至らず、ジムニー商会のキャラバン隊は予定通りの日程でロンデニオの街に戻ってきた。

 悠然の強者のメンバーは報酬を受け取ると酒場に向かっていったが、ミリアナさんに付き添われた僕には雑用が残っていた。

 ジムニー商会の店で荷物を下ろした後、トドンドさんに動物の解体を請け負っている店に連れて行かれた。

「トドンドさん、お久しぶりです。今日はどのようなご用件でしょうか?」

 店の主は初老だったが腕がいいらしく、従業員兼弟子が十人もいた。

「ベルンさん、今日は大仕事を持ってきました」

「大仕事ですか、それは楽しみですな」

 二人は旧友らしく笑顔で会話をしている。

「オオカミの解体をお願いしたいのですよ」

「毛皮ですな。最近オオカミの毛皮は出回っていないから、いい商売になりますよ。それでオオカミは?」

「こちらにいるタカヒロ君の収納アイテムに入っているので、作業場に案内して貰えればそちらで」

「収納アイテムか、そいつは便利な物を持っているな」

「はい」

 僕は軽く頭をさげた。後ろに立っているミリアナさんは大人しくしている。

「それじゃあ、こっちへ」

 ベルンさんは店の奥へ入っていった。

「広いのですね」

「冒険者ギルドの解体場に比べたら小さいが、民間ではロンデニオで一番だからな。この台の上に出してくれ」

「分かりました」

 スケッチブックを開いて、オオカミの死体の項目をワンクリックすると作業台の上でかざした。

 画用紙に広がる波紋の中から現れたオオカミの亡骸が、ドサッと音を立てて台の上に落ちた。

「おおッ。凄い!」

 ジッと見ていたトドンドさんとベルンさんが驚いている。

「トドンドさんは旅の途中に何度も見ているじゃないですか」

「いや、何度見ても驚きの光景だよ」

「かなり大きいオオカミですね、これならいい毛皮が取れますよ。早速、取り掛からせて貰います」

 職人気質のベルンさんは、すぐに仕事モードに切り替わっている。

「後のオオカミはどこに出しましょうか?」

「一頭じゃなかったのか?」

「はい、あと百十五頭います」

「ええッ!」

 作業場にベルンさんの叫びが響いた。

「トドンドさん、他にも仕事があるのだ、いっぺんにそんなには無理だよ」

「一日に何頭ぐらいなら頼めるかな?」

「せいぜい二十頭までだな」

「タカヒロ君、そう言う訳だ。すまないが全てが終わるまでここに通ってくれないだろうか?」

「構いませんよ、届けに来るだけでしたらそんなに時間も掛かりませんから」

「しかし、日が経てば毛皮がダメになってしまうぞ」

「それなら心配ない。このオオカミは倒してからすでに八日が過ぎているのだ、あと何日経とうと状態は変わらないよ」

「倒してからまだ半日も経っていないと思ったのだがな」

 トドンドさんの説明にベルンさんは、オオカミを撫でながら首を傾げている。

「タカヒロ君が毎日届けに来るから、よろしく頼むよ」

「確かに大仕事だ、引き受けよう」

 ベルンさんは目を輝かせてやる気になっている。


 翌日、ベルンさんの店に寄った後、冒険者ギルドを訪れた僕達は、出迎えてくれたマルシカさんにマスターの部屋に案内された。

「報告が遅くなりました」

 師匠の前に出るとミリアナさんは神妙になる。

「事情はグランベルに聞いている。無事に戻って何よりだ、座りたまえ」

 ソファーで向かい合ったカーターさんは、深刻な表情をしている。

「再び現れたコボルトキングも、タカヒロ君が封印されたのですね」

「はい。これです」

 マルシカさんに言われて、アイテムボックスからコボルトキングの肖像画を出した。

「これで二体目か。ルベルカからの報告も進展はないし、いったい何が起こっているのだ」

 腕組みをしたカーターさんが難しい顔をしている。

「王都に現れたドラゴンと、何か関係があるのではないでしょうか」

「王都のギルドから各支部に報告はあったが、ミリアナはドラゴンを見たのか?」

「はい。氷結の乙女のアンリーヌさんが古代龍様と呼んでおられました」

「その時の事を詳しく聞かせてくれ」

 カーターさんはマルシカさんに記録を取るように指示している。

「伝説の古代龍が現れたとなると、王都も大変な騒ぎになっているだろうな」

 ミリアナさんの話しを聞き終えたカーターさんは、さらに深刻な表情になっている。

「古代龍とはどのような存在なのですか?」

「古代龍はこの世界が誕生した時から生きていると言われているドラゴンで、神に近い存在だとも言われている」

「では、この世界がリセットされる訳とかも知っているのでしょうかね」

「それは儂にも分からないが、古代龍が現れたと言う事は何かが動きだすのだろうな」

「古代龍が口にしたと言う『この世界を変革する者』とは誰の事なのでしょうか?」

 マルシカさんが尋ねてくる。

「聖騎士のアンリーヌさんだと思うは、ドラゴンは鱗をアンリーヌさんの前に落として行ったから」

「確かに、この世界で今一番強い人間だからな」

 カーターさんはミリアナさんの言葉に頷いている。

(そうだといいのだがなァ)

 ドラゴンの声を全て聞いていた僕は、神様の言葉もあって不安を拭い切れないでいた。

「暫くは王都の動きを静観するしかないな。コボルトキングはギルドで厳重に監視しているから安心したまえ。それと、これは少ないが今回の報酬だ」

 カーターさんは、マルシカさんが出した金貨十枚を渡してきた。

「ありがとうございます」

 コボルトキングの肖像画と、金貨五枚をアイテムボックスに収納すると、残りをミリアナさんに渡した。

「護衛任務の報酬はすでに受け取っているは、これはコボルトキングを封印したタカヒロへの報酬よ」

「僕達、無双のデッサンが行った仕事の報酬は半分ずつすると決めただろ」

「そうね、分かったわ」

 ミリアナさんはすんなりと受け取った。

「仲良くやるのだぞ」

 僕達はカーターさんとマルシカさんの笑顔に送られて、部屋を後にした。


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