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試練のダンジョン その1


 試練のダンジョンはニオラの森の最奥にあった。

 入り口を入ると周りを岩で囲まれた通路が続いていて、静まり返った洞窟に二人の足音だけが響いている。

 受け流しのスキルが発動出来るショートソードを右手に持ち、左手で松明を掲げた僕は先頭を注意しながら進んで行った。

 一階には魔物は出ないと聞いてはいるが、慎重に進んでいった。

(右か左か?)

 Y字路で先を照らすが、暗闇が続いているだけで何も見えなかった。

 命に係わる危険がない限りミリアナさんのアドバイスは受けられないので、自分で決断を下すしかなかった。

「左だな」

 スケッチブックから切り取った画用紙に歩いてきた経路を書き込みながら進んで行くと、前方に微かな明かりが見えた。

「入り口に戻って来てしまったのですかね?」

「違うわ。この先に小さな広場があるから、そこで少し休んで行きましょう」

「はい」

 明かりに向かって駆け出したくなるが、この階には幾つかの罠があると聞いているのでゆっくりと進んだ。

「何の明かりなのでしょうかね?」

 広場は周りの岩が微かに光っていて、松明を消しても夜明け前の明るさがあった。

「蛍石と呼ばれる鉱石が光っているのよ」

「蛍石ですか、変わった石ですね」

 マップの続きを書き込むと、広場に転がっている蛍石を数個アイテムボックスに入れた。

「かなり時間が掛かりましたね」

「もう、お昼頃じゃないかなァ」

「ここで昼食にしましょうか?」

 ショートソードをアイテムボックスに収納すると、宿屋の御主人に作って貰ったサンドイッチを取り出した。

「なぜ剣を仕舞うの?」

「表紙を閉じると全ての魔法が消えてしまうので、スキルを使うには描き直さなければならないのです」

「便利なアイテムなのに、そこは手間が掛かるのね」

 サンドイッチを受け取ったミリアナさんは、スケッチブックを凝視している。

「リカバリーが出来るお陰で、こうして何枚でも画用紙が使えるのですから仕方がないですよ」

 マッピングしていた画用紙をミリアナさんに渡した。

「なるほどね……。普通の紙としても使える訳ね」

「一階層はまだ続くのですか?」

「二階層に降りる階段は、もう少し先よ」

「こんな時、ダルさんのような探索能力があればサクサクと進んで行けるのでしょうね」

 ファブリオさんの話しを思い出した。

「他人の能力を羨ましがってどうするの。自分の力を信じて進みなさい」

「そうですね。剣を出しますので、少し待ってください」

 昼食を済ませるとスケッチブックを開いた。

「今、表紙が光っていなかった?」

「確かに」

 八枚目が解放されたのかとスケッチブックを開いたが、7ページ目が微かに光っているだけだった。

「何か新しい事が出来るようになったの?」

 ミリアナさんが興味深そうに覗き込んでいる。

「空間属性のページなのですが?」

 7ページ目は生き物の体力を吸い取る魔法が発動出来るのだが、今は敵もいないので意味がなかった。

「空間属性? 聞かない魔法ね」

「このページに対象を正確に描くと、相手の体力を奪う事が出来るのです」

 それは偶然見つけた力だった。魔法の練習中にネズミを殺して落ち込み引き篭もっている時、気晴らしに窓から見える街を写生していると餌をあさる野良犬が目に入った。

 犬の姿も含めて街並みの写生を終えてサインを入れと、野良犬がその場で倒れた。空腹で倒れたのかと思ったが、サインを消すと野良犬は走り去っていったのだ。

 その後、何度か検証を重ねた結果、サインを入れた絵をアイテムボックス入れると、力を奪った対象は絵を処分しない限り動かない事も確認している。

「凄い力じゃないの!」

 ミリアナさんが驚愕している。

「かなり正確に描かないと発動しないので、戦闘向きではないのですよ」

「強い力ほどリスクが大きいから仕方がないわね」

「そうなのですか。今欲しいのは、探索に関する力なのですがね」

 7ページ目が光った理由が分からなかった。

「自分の目で確かめながら進むしかないでしょ」

「そうですね」

(探索と言えば、レーダー探知機があれば便利だろうな)

 諦め切れずにそんな事を考えながらスケッチブックを開き直すと、7ページ目にコンパスを使って三重の円と、中心を示す十字を描き『Aizawa』のサインを入れてみた。

 円の中心から光の波紋が外側に広がって行くと、中心近くに緑の〇が現れた。

「うん? 少し離れてみてくれませんか?」

「分かった」

 ミリアナさんが壁に向かって歩き出すと、緑の〇も移動していった。

「これは、生命体を感知するレーダーですね。ミリアナの位置からして一重が半径百メートルと言ったところですかね」

「感知レーダーと言う事は、敵の位置とかも分かるの?」

「たぶん。最大三十キロメートル先までなら分かると思いますが、それだとスケッチブックが百倍の重たさになって持てなくなってしまいます」

「そこまで遠くは、必要がないわね」

「そうですね」

「先に進むわよ」

「分かりました」

 歩く事、三十分。二階層への階段に辿り着いた。


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