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第一話:俺は関係ない


 地元の大学卒業後、俺は特に気にせずブラック企業に入社した。次の日にはもう後悔したが、すぐに転職すれば経歴に汚点が残る。

 長くて二年、少なくとも一年頑張ろうと考え、俺は残った。


 それから十年。俺はブラック企業勤めのスーパー社畜戦士となった。何度退職しようかと思ったか覚えていない。


 退職しようと上司へ相談すれば、一瞬にしてパワハラの鬼と言われる上司が仏に様変わり。

 およ? じゃ、頑張るかな! と思えば、翌日から再び烈火のごとくパワハラされる毎日。まるでアメと鞭できゃんきゃん鳴く哀れなポチだった。


 ズルズル年齢だけ嵩んでいき、女性と付き合うこともなく魔法使いを超え、三十路を過ぎた。


 いつものようにとぼとぼ家に帰りベットで就寝。朝日が鬱陶しいなぁ、とイラッとしながら目を覚ましたら森の中でした。



「え、えぇぇ……? どういうことよ」


 思わず声を出せば、無駄に甲高い声。その声に驚き、体がビクゥッ!


 ぱらぱら〜。


 な、なんか体から花粉が出たんですが……?






「ふぅ! 今日はこれぐらいにしてお(うち)に帰ろぉっと」


 ん? 話の展開が早くねって?

 何言ってんだお前。もうすでに数週間は経ってんぞ。


 やれやれ。


 俺は手のひらを上に向け、両肩を(すく)めた。


「そんなに今の俺について知りたいなら教えてやんよ」


 もはや一人でいすぎた俺は物言わぬそこら辺に生えている雑草に話しかけていた。


「ほら! このキューティクルで素敵なぼでい〜(ボディ)を見ろ!」


 ぐるぐる回転すれば、ザ・ファンタジー感満載の二つの半透明の羽。プルプル震えれば、頭の上からちょこんと生えた虫のような触覚が動く。


「ふ、ふぅ……」


 ちょっとだけ深呼吸したが勘弁な?

 触覚を動かそうと頑張るとめっちゃ疲れんよ。


 雑草から返事は来ないが俺は一方的に話しかける。第三者がいたら俺は速攻で精神病棟にでもぶちこまれそうだが、そんなやつは誰もいない。

 い、いや訂正しよう。

 厳密には色々いっぱいいるが、俺が日本にいた時の素晴らしい文明を感じるやつらはいない。


 ち、ちらっ。


 草木の隙間からそいつらを見る。


「ギャ、ギャッ!!」


 声を聞けばわかるだろう?

 ……え? わからないって?


 たっっっく、よぉ……俺がいないとお前は何もわからないんだな。


「緑色の体表。鋭利な鷲鼻」


 もうわかるだろ?


 ……んもぅ。しょうがないにゃぁ。

 ヒントはあと一つだ。よくあるファンタジーに出てくる凶暴で性欲魔人と言えば?


「そうだ! ゴブリンだァァ!」


 体が勝手に草木に突撃しゴブリンたちの元へ飛んだ。そのまま二匹のゴブリンの真ん中で俺は大声を発しながら胸を張っていた。


「ギ、ギャアアアア!!!!」


 そんな俺に会話をしていただろう二匹のゴブリンがすってんころり。そのまますごい勢いで逃げていった。


「何回見てもここにいる森のゴブリンたちは臆病すぎんよ」


 こちとら大きさ的には成人男性の掌ぐらいなのにびびって逃げるゴブリン。笑っちまうわ。


「ぷぅ〜、くすくす」


 このにゅ〜(ニュウ)ぼでい〜(ボディ)になってから悪戯(いたずら)心が凄まじい。ついつい何かしらのバカっぽい姿を見れば、口に出ちゃう。


 悪い癖だ。しかし、俺は妖精ちゃん。


 悪さしてなんぼやろ!

 見た目は愛くるしいが邪悪な心を持ってても……いいじゃろ?

 そういうことだ! 気にすんなよ!


 クルリとその場で回転。そうすれば俺の体からキラキラとした花粉みたいなものが降り注ぐ。


「おっと、ついつい出しちまったが……ま! いいか!」


 気にしてもしょうがない。

 俺は最近、大きくなった我が家へ飛んでいく。



 ぴゅ〜〜〜。


 

 …………な、なんか、さっき逃げていったゴブリンたちが見えたんだけどさ。

 双頭の犬、オルトロスみたいに一つの体から二つの頭が生えていたけど。


 う、うん。俺はただの無垢な妖精。


 攻撃力は爪楊枝で刺したぐらい。俺のせいで融合するはずがないんだ。決して俺の花粉が魔融合させるはずがない。

 い、いたらおったまげるね。どんな生物だよ。


 俺がさっき話しかけていた雑草さんも小さなお家さんぐらいになって、やっべぇ姿の大きな猪を喰っているのも錯覚に違いない。


 うん。

 俺は無関係だ。


「よ、よぉ〜し!」


 気を取り直して、羽をぱたぱたぱた〜!


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