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夜を遊ぶ。

作者: 滝Daikuke

月は照り、夜は更けていく中で、息を呑んでしまうほどの美少女が、美味しくもなさそうに缶の安酒を飲んでいる。



静かに戸を開け、俺は今日も夜の町に歩み出る。階段を降りる足音が昼間よりよく響くと、どうも世界に俺が一人なんじゃないかと思ってしまう。

今日はどこに行こうか。そんなことを考えながら行く当てもなく今日も歩き始める。夜だというのにうだるような暑さがまとわりついて、ただ歩いているだけなのに汗がじっとりとまとわりついてくる。何か飲めるものを買おうと、近くの神社の前の自販機に見当をつける。そうして俺の足は神社の方に向かって行く。

そうして少し歩く。やがて暗いせいで見慣れない鳥居を見つける。早く買おう、喉の乾きはもう限界だ。そうして自販機に近づいて行くと、俺は違和感を覚えた、自販機の光から影が伸びている。今は深夜の一時半、誰かいる方が不自然だ、でも、そこには確かにとんでもない美少女がいた。月に照らされ、美味しくもなさそうに缶の安酒を仰ぎながら。



それは知っている女だった

「やあ」

「先輩…?」

俺のバスケットクラブの先輩、才色兼備、八方美人の完璧人間。そんな人が。

「なんでお酒何か飲んでいるんですか?」

「なんか、ねえ」

先輩がくしゃっと笑う。

「いろいろあるんだよ、私にも」

「ダメですよ、未成年がお酒飲んじゃ」

「なんで?」

「え?」

「なんでお酒飲んじゃダメなの?何なら君も飲んでみる?ストレス、あるでしょう?」

「嫌です。法律で決まっているし、なにより体に悪いですよ」

「法なんて人間が勝手に決めた「これを守らないとひどい目にあいますよ」ってだけのものでしょう?ひどい目に遭う覚悟があるなら別にまもらなくてもいいんじゃないかな。健康なんて私の体なんだから私の勝手でしょう?」

「私の勝手って」

「私が死んで悲しむ人は…いるかもしれないけど、数十年後には忘れられているでしょう?」

「俺は…」

「ん?」

「俺は覚えてますよきっと」

……………………………

何いってんだ、俺

先輩が笑う

「ごめん、今の全部冗談だよ。意地悪しちゃったね」

そう言って缶を捨てる

「…毎日こんなことしてるんですか?」

「んー毎日ではないけど、いやなことがあった日は」

「ほかに何かあるでしょう」

「ないんだよ、それが。何しても退屈で」

「…」

「あ、じゃあさ。」

そう言って彼女は真っ直ぐ俺のことを見つめながらこういった。


「君が私を退屈から救ってくれよ」


断れなかった。

いや、断ろうと思えばできたのだろう。

でも、断れないと錯覚するまでに彼女の瞳は俺を魅了した。



1夜目

公園の屋根付きで俺の向かいのベンチに座った先輩がこちらを見つめてくる。

「なんですか」

「いや?どう私を楽しませてくれるのかと」

「昨日冷静になって思ったんですけど、これ俺明らかにやっかい事に首突っ込んでますね」

「そうだね、私はきっと悪い女の子だ。でも昨日うなずいてくれたのは君だぜ?」

「…ですね」

そう、俺は請け合ってしまったのだ。この先輩の暇つぶしに。一度請け負ってしまったからには役目を果たすのが俺の生活信条。

ならば。

「じゃあ先輩、これしましょう」

俺はおもむろにそれを取り出す

「オセロか」

「これで僕が勝ったら今日は諦めて帰って寝てください」

「いいだろう、でも親愛なる後輩よ。それだけじゃあつまらなくないかい?」

「?」

「こうしよう、ありがちだが、負けた方が勝った方のお願いを何でも聞く」

「なんでも…」

「君が期待していることでも、いいぞ?」

「受けて立ちます」


こうして、盤の上には白黒の駒が並んだのであった。


盤の色がめまぐるしく変化していく。真ん中の4×4が埋まった時に先輩が口を開いた。


「君はなぜあんな時間に出歩いていたんだい?」

「まぁ、なんとなくですよ」

「ごまかしたな?」

「それより、先輩の番ですよ」

俺の視界の黒を増やしながら先輩はどこか独白のように語り始める。

「人が夜に出歩く理由になんとなくなんてあるものか、心のどこかにある鬱屈が夜空や星に吸い込まれるのをただ願いながら靴底を擦り減らすのさ」

今度は僕が彼女の視界を白に染めながら言う

「ロマンチックなこと言ってますけど、先輩酒に逃げてるじゃないですか」

パチン、と駒を裏返す。もう終盤だ。

「違いないや、しかもそれに飽き足らずに、他人でうざばらししようとしている。」

「それでもいいと思いますけどね、他に解決方がないならいくらでも付き合いますよ」

「優しいんだね、君は」

優しい?冗談じゃない。

「そんなことより先輩、俺の勝ちです」

「ありゃ」

別段なんともなさそうに彼女はそう言い、続けた。

「それで?お願いは?」

俺をからかうように彼女は来ていた服の一番上のボタンを取る。視線がそこに行こうとするのをなんとか我慢して目線を上に上げる。



目が合った。



「…さっき、行った通りです。諦めて帰って寝てください」

彼女はそれを聞くと一度拍子抜けしたような顔をした後、またからかうような顔になって

「ヘタレ」

「なんとでもどうぞ」

「じゃあおとなしく帰るよ、ありがとう、楽しかったよ、また明日」

「はい」




帰り道、夜空と星を眺めながら考えた、先輩は俺のことを好きなのか?あのようにからかってきたり、思わせ振りな態度、あれはまるで…そこまで考えたところで彼女の目を思い出す。あれは違う。あのキラキラしていた目は確かにこう言っていた。

自分なんてどうなってもいい。

あの目を俺は知っている。

「夜空と星じゃ拭えないな」



2夜目

夕方の体育館で、汗を拭きながらなんとなしに先輩の方を眺める。

ずいぶんと楽しそうにドリブルをつきながら

同級生に囲まれていた。

それがどうにも眩しくて、失明しそうだった。



「こんばんは」

「こんばんは」

「今日もいるんですね」

「毎日いる気だぞ?」

「僕も毎日行く羽目になるじゃないですか」

「こんな可愛い子と毎日会えるなんて嬉しいと思わないのかい?」

「時間が時間なんですよ」

「嬉しいの部分は否定してないね」

「…」

「それで?今日は何をしようか?」

「走りましょう。」

「へ?」

「ほら、今日のクラブ練習たいしたことなかったじゃないですか。消化不良なんです」

「それは、いいけど。もっと、その楽しいことを、すると思ってたなあ」

「嫌なら全然別のことしますよ?」

「んー、いいよ。走ろうか。それで?どこを走るんだい?」

「公園を5周しましょうか、競争とかじゃなくて、一緒に走りましょう」

「わかった」


少し準備運動をして、俺は先輩と並んで走り始めた。

「君、運動好きなのかい?」

「嫌いですよ?」

「…じゃあ何でバスケやってるの!?」

「運動しないと太るじゃないですか、不健康ですし」

「その割には随分と上手いじゃないか」

「先輩の方がよっぽど上手いじゃないですか。楽しそうですし」

「そうか、君にもあれが楽しそうに見えるのか?」

「…意外です」

「まぁバスケは好きなんだが、人間関係がどうにも」

俺は何も言わない、一週目が終わった。

「女子にもいろいろあるんですね」

「あ、でもね?君とのこの時間は、嫌いじゃない。」

「まだ2回目ですけどね」

「大事なのは質だよ、後輩君」

息が切れてくる。

「それにしても、後輩君。君の親は君がこんな時間に出かけてもなにも言わないのかい?」

「言われないんですよ、それが」

「何も?」

「…多分、僕の事は興味ないんだと思います。」

「まずいことを聞いたかな、ごめんね」

「いえ、もう愛情を求めるような年齢でもないですし。養ってくれはしてるのでいいんです。…先輩は言ってくれる人いないんですか?」

「私は、ばれないように出てるんだよ」

中盤に差しかかった。

「悪い子ですね」

意味もなく顔を歪めてみた。

彼女も歪める

残りの数周は二人で馬鹿みたいに笑っていた



「つっかれた」

「ほんとに」

「なんで最後笑いながら走ったんだろうね」

「ほんとっすね、飲みもん買ってきます。」

「いってらっしゃい」



「先輩」

「わっ」

「おごりです」

「…ありがとね」

「お疲れ様でした」

「うい」

先輩から汗が滴り落ちる。もう走るには少し暑い時期のようだ。

「何見てるんだい?」

「いえ、何も」

「そう」



「じゃあね!また明日!」

「はい」

先輩に背を向けたところで言われた

「あ、ごめん、やっぱ言っとくね」

「はい?」

「嘘、ついたでしょ」

反論はしなかった




3夜目

彼女と出会ったときからいつかはこうなると思っていた

「少し早かったな」

そう思う

「君たち、こんな時間に何してるんだい?」

「夜遊び、ですかね」


秩序が服を着て目の前に立っていた。


今の感情を表すとするのならば困惑なのだろう。さっきまで厳格な顔をした警官が突然ため息をついたと思ったら自販機から安酒を買って俺らの前で飲み始めた。

「だいたいよ、何で俺たちが必死こいてこんなクソ真夜中に町をほっつき歩いてるのか分かってんのかよ。お前らみたいなガキがあほみたいにほっつき歩いてるからなんだよ、わかるか」

「はい、すみません」

「見たところ酒とかは飲んでなさそうだしトンでもねえみたいだけどよ。」

酒の下りで彼女の目が一瞬泳ぐ、警官は酔っていて気付かないようだけど

「んんん?じゃあなんでお前らこんな時間に遊んでんだ、クスリでも酒でも、馬鹿みたいに騒ぐわけでもない。若さゆえの過ちの代表格が全部ないじゃねか」

「そりゃ犯罪ですし」

「こんな時間に外に出てるのも悪いことだがな」

「…すみません」

「おまわりさん、なんで深夜に外に出ちゃいけないんですか?」

「危ない目に合うかもしんねぇだろ」

「別にその覚悟があったらいいじゃないですか、犯罪に巻き込まれようが、そんなの私らクソガキの勝手じゃないですか」

「先輩」

「知らねえよ、てめえの覚悟なんざ、そんなことをクソガキ全員が言ってたら社会は回んねえ。いい、俺は自分が正しいことを言ってるつもりはない、この世界の仕組みも正しいとも思ってない。だから、俺が言いたいのはこれだけだ、俺の仕事を増やすな。俺はお前らクソガキがどうなろう知ったこっちゃない。俺に迷惑をかけなければどうでもいい」

「よくないおまわりさんですね、お酒飲んでるし」

「ああ、俺は悪い大人だ。だから、見逃してやる。」

「いいんですか?」

「だが、条件がある。俺を楽しませてみろ。お前らが普段やってることで」

「…」

「どうした」

「なんか既視感が」

「は?」

先輩が笑う。笑いながら言う

「おまわりさん、私と同じようなこと言ってる!」

「はあ!?お前のような馬鹿っぽい女と俺が!?」

「失礼な人ですね!これでも学年TOP10に入るんですよ!」

「お前が!何の冗談だ!?」

「警察さん、失礼です。謝ってください」

「やだ!」

「大人げない!」

「とにかく、見せろ!」

「わかりましたよ、先輩いつもどうりやりましょうか」

「わかった、後輩君。今日は何をするんだい?」

「人生ゲームをしましょう」

「謎のチョイスだね」

「シンプルでいいじゃないですか」

「違いないや」




俺の先行からで、賽は投げられた。


「4ですね、えっと[両親が借金を残して失踪、所持金から-400万円]」

「最初からついてないねえ。私の番ね。9![会社を辞めて新しく始めた事業が大成功、+400万円!]やった!」

「5[住んでいた家が燃える、新しい家を契約したせいで所持金から-100万円]」

「10[海外の企業があなたの会社の商品を気に入った+1000万円]」

「[仕事でミスしてクビに給料がなくなる]」

「ふっはっは、坊主!お前全然ついてないじゃないか!」

「うるせぇおっさん!ぱっぱと仕事行けや!」

「うるせぇ!俺が仕事したらおめぇら交番にぶち込めるんだからな!」

先輩が笑う

「でも、ほんとについてないねぇ」

「同じ人生なのに何でこんなに変わるんですかね」

「普段の行いの違いじゃない?」

「先輩だって大してよくないじゃないですか」

「へぇ、スポーツも勉強もできて周りからも慕われている。私の生活を悪いと…」

「…ゲームの続きしましょう」

「ふっはは、君の生活態度は自分でも思う程悪いのかい?」

「いや、自分の生活態度なんて自分で褒められるものじゃないですか」

「坊主、なかなか面白い感性じゃないか」

「なんですか、口出さないでください」

「辛辣!おじさんに辛辣だなぁ最近の若いのは!」

「酔ってますよね、顔にわかるくらい。一回帰って水でも飲んでもう帰って来ないで下さい。」

まだ出目は悪い。

「自分の生活態度は自分で良いとは言えないと、何故そう考えるんだい?」

「というか、自分で自分の何かを良いと言ってる人ってどこか信用できないんですよ。自信がある人って嫌なんです」

「自信がある人が嫌ねぇ。私は!?」

「先輩のは…虚勢、じゃないですか」

「…ありぁやっぱ気づいてた?」

「あっさりしてますね」

「別に、ばれるならそれでもいいんだよね。それで?なんで自信がある人が嫌なの」

「ただの主観の意見ですけどね?本当に、良いところがある人は自分のその部分をひけらかしたりしない。」

「そう」

「あ、[7,新しく始めた事業が軌道にに乗り始める、+300万円]」

「お、よかったじゃん」

「まだまだ借金はありますけどね」

「でも、良いじゃないか。人生というものは

ひょっとしたことからよくなって行くものと私は信じている」

「信じる?」

「そうさ、確信なんて言う大きな自信は心の中で風船みたいにドンドン大きくなってくる癖にすぐ割れるでしょう?だから信じる、それだけ。心の中でちょっとだけ「こうだったいいな」、と思うだけ。そうすれば裏切られてもたいしたダメージ受けないでしょ?」

返事をしようと口を開きかけると拍手が鳴り響く。

「いや、なかなか面白い話だったな、少年少女、良いなお前ら、今後も見逃してやる。」

「ほんと!?おまわりさんいい人ですね!」

「あぁ、俺は都合の良いおまわりさんだ。じゃあな、もうそろそろ帰れよ」

「わかりました、あと顔は冷やした方が良いですよ。真っ赤です」

「おーわかった、さんきゅな」



「助かったねぇ」

「そうですね」

「そろそろ帰ろっか」

「わかりました、じゃあまた明日」

先輩はなんだか嬉しそうに

「また明日って良い言葉だね。また明日!」



先輩が去ったあとにつぶやいた

「可愛い…」











四夜目?

朝起きる、顔を洗う、鏡の前に立つ、今日も酷い顔だ。無理矢理口角を上げる、しばらく上げた状態で固定して、顔に笑顔が貼りつくそのまま準備を整えて家を出る。

今日は父親が寝ていた。



少女が学校に向かって歩いて行くと後ろから声がかけられる。

「おはよう」

「おはよう」

「今日もクラブあるの?」

「あるよ、どうして?」

「んーん、最近近くに美味しい洋菓子店ができたらしいからさ、行きたいなと思って」

「今日いつもより早く終わるよ」

「ほんと!じゃあ図書室で待ってるから終わったら来てね!」

「うん、わかった」

「ところで、もうそろそろテストだね。勉強してる?」

「んーまぁぼちぼちかな」

「そんなこと言って毎回良い点取るもんなぁ」

「ふふふ、授業中寝てるからじゃない?」

「うっ、それ言われると!」

「あはは」



友人と別れて席についた少女の周りにはすぐに人だかりができる。

いつも通り


授業中、みんなが「わからない」とたらい回しになった問題を彼女が答える

いつも通り


休み時間、彼女が一人で黒板を消す

いつも通り


昼休み、彼女は毎日違う人と昼食を食べる。

彼女から誘ったことのある人はほとんどいない。いつも通り。


先生からの頼みごとを引き受ける。

いつも通り。


クラブに行く

いつも通り。


「先輩、こんちわっす!」

「こんにちは、お疲れ、来るのはやいね」

「はい!先輩より上手くなりたいですから」

「そう、できるかな?」

「やってみせますよ!」


「あ、大西。奇遇だな」

少女の名前が呼ばれる

「クラブ活動に来てるから奇遇ではないですよ、部長」

「む、それもそうか。そういえば、最近新しく洋菓子店ができたらしいぞ、どうだ、部活終わり一緒に」

「女友達と行くので結構です」

「そうか、じゃあ今日も頑張ろう」


「大西ちゃん」

「なに?」

「今日私足痛いからパスの時手加減してー」

「…いいよ、分かった」

「ありがとぉ、大好き!」


いつもどうり。だ彼女は言い聞かせる。


そうして彼女はふと最近絡み始めた男の子の方をちらりと見る。


彼もいつかは私の「いつも通り」になってしまうのだろうか。

そうならないといいなと思っていた。

なにしろ私は退屈が嫌いなのだ。

少しの非日常を思い出した後に彼女はボールを手に持って「いつも通り」に溶けていく。

数時間後の夜を想いながら。
















五日目

その日は雨だった。屋根付きベンチの中は心地よい不協和音に包まれていて、月が隠れているせいで少し暗い。

今日はもう来ないのかなと思い始めたときに彼女は来た。

「こんばんは、今日はもう来ないかと思いましたよ」

「うん」

なんとなしに見た彼女の手にはどこかで見た缶が握られている

息が詰まる

「先輩」

「ん?」


「お酒、ダメだって」

「あぁ、うん。ごめんね」

もう栓は開けられている

「あの人が来たらどう言うんですか」

「もう、いいよ。ごめんね、こんなこと付き合わせちゃって。それだけ言いに来たの」

「待って下さい、つまらなかったんですか?」

「ううん、楽しかったよ」

「だったら、なんで」

「君には関係ないよ」

そう言って彼女は屋根から出て体を濡らしながら来た道を戻っていく。

事実かもしれない。俺はただの後輩だ。

彼女にとっては。

「あります」

傘は差さなかった。

先輩の手から缶を奪い取って飲み干した。

焼けるように熱くなった喉から声を絞り出す

「共犯です」

「なんで」

「分かってますよね、先輩が好きなんですよ」

「こんな女を?」

「そんな女をです」

「私は人嫌いだよ?君も含まれている」

「だったら、怪物にでもなってあげましょうか」

「君はやはり面白いことを言う」

先輩が愛想笑いをする。

「ごめん、今の全部冗談だよ。意地悪しちゃったね」

俺も口角を歪めて

「そうですか、冗談ですか」



「今日は何をするんだい?」

「トランプでもしましょう」

「いいね」



雨の音だけが響いている。



真剣衰弱が終わりそうな頃先輩が呟いた

「明日付き合ってくれない?」

今日は火曜日だ。


















六昼目

駅前で先輩を待つ、集合より早いが待たせるわけにもいかないだろう

集合時間ぴったりに先輩は来た

「本当に来たんだ」

「そりゃ誘われましたし」

「今日平日だよ?悪い子だね」

「若者は間違えるために生きるんですよ」

「なにそれ、最高。行こっか」

先輩が構内に歩き出す。

「行き先はどこなんですか」

振り返って先輩はこういった

「ひみつ」



電車にただ揺られる

「先輩、今日の一段と私服可愛いですね」

「ありがとう、一番気に入ってる一枚なんだ。君こそいつもと気合いの入りようが違うねぇ」

からかうように先輩が笑う

「そりゃ、人の目に触れる訳ですから。先輩の隣に並んでも恥ずかしくないような格好じゃないと」

「そう」


車窓は段々と山や木々を映すようになっている



「一度降りようか」

そう言って先輩は立ち上がる

駅を降りると予想とは裏腹にそれなりの人がいた

「ここの駅弁が絶品なんだよ」

「電車結構乗るんですか?」

「昔よくね、ただ嫌なことがあるたびに電車に乗ってるとお金がどんどんなくなっちゃって」

「それでお酒買うようになったんじゃ、電車の方がよっぽど良いと思いますけどね。」

「痛いこと言うなぁ。ほら、君の分。」

「ありがとうございます。あ、お金」

「あぁいいよいいよ。おごりだ。この前のジュースのお礼」

「…ありがとうございます」

「どういたしまして」




再び電車に乗って駅弁を開ける。

半分がご飯、卵焼きが二つ入っていて、その他にはたんまりとから揚げが入っていて、後は申し訳程度にたくあんが入っている

「こちらの健康を度外視したような弁当ですね」

「これくらい思い切りがいいほうがおいしいものさ」

「そうですね」

唐揚げを頬張ると冷めているはずなのにかんだ瞬間肉汁があふれ出してきる、少し噛むと少し辛さが出てきて、肉と非常にかみ合っている。

「おいしいだろう?」

思わず微笑んでうなずいた。



二時、あらゆる事をするにも微妙な時間。俺と先輩は山の前にいた

「登るんですか?」

「もちろん、道もあるしあんま険しくないから」

「わかりました」


俺がそう言うと先輩は服が汚れるのも気にせずにどんどん道を進んでいく。

登る、登る、登る、登る、登る、登る。

息が上がる。

「けっこうきついねぇ!」

先輩が疲れをごまかすように声を上げる

応じて

「そうですね!登ったことないんですか!」

「あるけど、そのときはお父さんにおぶってもらってたんだよね!」

「お父さん体力すごいですね!」

「確か頂上で死にそうになってた!」

「いいお父さんじゃないですか!」

「うん!だった!」

少し気になった。しかし、息が限界なのと、触れにくいのもあり先輩が「ちゃんとついてきてね!」と言った以降あとは黙っていた。


結局山道に慣れていないこともあって、先輩と距離が開いた。

あと、一段。

力一杯踏み込んだ


景色が開ける。どうやら崖の上に今いるようだ

「きたね」

先輩の声が聞こえる。目を向ける。

先輩は柵にもたれかかってひたすら崖の下を眺めている。

「危ないですよ」

声をかけても返事はない。近づいて、柵にもたれかかって下を見る。先輩は何を思っているのだろうか。


「落ちたら」

「?」

「落ちたら、痛そうだね」

「…痛いじゃ済まないでしょう」

「そうだねぇ」

そうして先輩は柵から体を離す。

「ねぇ」

「何ですか?」

「やっぱ駅弁代返してよ」

「…わかりました」

「服、汚れちゃった」

「山道は怖いですね」

「ほんとだよ」



初投稿です。もし読んだ方がいましたら辛口評価、批判お待ちしています。

少しでも「いいな」と思っていただければ幸いです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 「怪物」のところは、ちょっと「遊んで」いるなって思って くすっとしました。 深読みし過ぎの勘違いかもしれませんが。 この年頃になると、 抱えてしまう悩みと つい行ってしまう行動が描かれてい…
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