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御伽噺のようなセカイ

プロットみたいなもんなので画像ありきな部分あるかもしれないですけどなるべく文だけで読めるようにはなってるはず

普通に文が下手

『ヴィルテュエル』


 これは九つの世界を内包するセカイそのものの名称であり、俺たちが住むセカイである。



 ゲームの(セカイ)獣人の(セカイ)夜の(セカイ)、和の(セカイ)。他にもあと五つほど存在している。


 色とりどりの世界はひとつの国として成立し、それぞれに1人ずつユグドラシルから派遣された管理人によって管理されている。


 九つの世界は第一世界を中心に繋がっているため、必ず第一世界を通らなければ他の世界には辿り着けない。


 そんな奇妙なセカイには、これまた奇妙な病気があった。


「通称バグ。それを治すのが、俺の仕事。というか暇つぶしみたいな?──っと、そろそろかな」


 日はとっくのとうにベッドに入り、月がやっと起き出してきた頃。背の高い男と少年が賑やかになってきた大通りから人気の無い路地へと足を踏み入れる。


「話飛ぶけどユグドラシルって実に安直だと思わない? もっと何とかならなかったのかなぁ」


 雪のように白い髪を揺らし、どこか楽しそうに笑いながら男は語る。

 大きく美しい紅玉をはめ込んだような瞳は路地裏特有の光の効果のせいか、怪しげな光を宿していた。


「本質というか……説明を聞いただけだとなるべくしてその名前になっているような気がしますけど」


 左目を隠した黒髪の少年が白い男を見上げながら言う。黒髪にカッチリとした服装とその口調のおかげで少年でありながらどこか紳士のような雰囲気すら感じさせるが、独特な色合いをした瞳とあまりにも動かない表情筋に人形のような印象もある。


 2人はずんずんと暗くなっていく路地の中を進んでいく。


「こんな所にバグがあるんですか?」


「こんな所だからこそバグが出来るのさ」





  ▢▢▢▢▢▢





 大通りからの明かりがどんどん小さくなっていき、白い男が持つランタンだけが世界を照らす。


 ふと思い出したように少年が問う。


「バグってどういうものなんですか?」


「ん〜、大体のイメージは穴かな。世界にあいた穴。世界と世界を区切る壁が劣化してできる穴。あとは管理人の管理から外れた現象とか?」


「なんかこう、色々あるんですね……」


「うんうん。色々ある。ほら、あれだよ。今回は穴だな。」


 白くノイズが走る空間

 光っている訳ではないのにそこだけ白いものだから輝いて見える。


 あまりにも異質なその空間を白い男は指さした。


「思っていたより大きいですね」


 白い男同じくらいの大きさ、このまま歩いていけばすんなりと入れてしまいそうだった。


「これでも小さい方。もっと大きいのあるからな」


「そうなんですか」


 静かにふたりが話す。


 そこにある穴はなにかする訳でもなくただジジッジッジジジッと、時折ノイズのような音を発するだけだった。


「ま、見てなよ」


 白い男が箸のような長さの杖を取り出し、少年の方にヒラヒラと振って見せる。


 呼吸をひとつ


 目を閉じて右手に杖を持ちその先を穴へ向けて立つ。


 先程までの飄々とした雰囲気は消え去り、先の呼吸がスイッチだったのか纏う雰囲気がガラッと変わった。


 魔力が循環し始め、大気中のエネルギーが彼に集まっていくのを感じる。


『闇を纏いし夜の愛し子 瞳に映るは夜の夢 ここは欲望はじまりの場所 ──ボクは世界を識っている』


 俯きながら薄く目を開く、詠唱とともに光が渦巻き風が発生する。そよ風ほど弱くはなく、強風と言うには弱かった。


 杖の先を中心に帯状の光が幾層も現れて収束し、白く発光した丸いエネルギー体のようなものへと変化する。


『Geschichte』


 そう唱えると同時に発光体は白いノイズの中へと飛び込んだ。


 ソレを飲み込んだ瞬間空間がぐにゃりと歪み、そこだけ時の流れが変わってしまったのかと思うほどゆっくりと景色が動く


「……長いな」


 白い男が呟いた。イレギュラーなのかと問おうとそちらを向くも、特に気にした様子はなく。先程までの緊張感ある面持ちはとうに消え、片足に重心を乗せ欠伸をかまし無駄に長い服の袖をぐるぐると回していた。ジトっとしたその目線は、時間がかかりそうなことにうんざりしているような、やる気のなさを感じさせるような雰囲気を背負っていた。


「……」


 結構世界にとっては大変そうなものを扱っているだろうに、そんな感じでいいのかとかそんな感想が頭に過ぎるがそのまま飲み込んだ。


 気づけばほとんど歪みは消え、あと数秒もすれば何の変哲もない路地裏が現れるところだった。


「よしよし、問題なく終了っと」


 ノイズがあった付近へと近づき、ベタベタと色んなところを触りながらウンウンと頷く。


「これが俺の仕事、話すより見た方が分かりやすかったでしょ?他の世界からも続々と要請来てるからサクッと消しに行かないとな〜」


 2人は並んで元来た道を引き返していく。


「これは確かに話を聞くよりも見た方がわかりやすいですね、でもなんでこんなものが現れるんでしょう」


「さぁね、俺はなーんも知らない。ただ言われたからやってるだけだしな。全てを早急に殲滅しろとは言われてないから急がねぇけど、何かしらヤバいのは感じてるから早めに処理はしてるんだぜ」


「ヤバいのはヤバいんですね……」


「……お前がヤバいって言うとなんかシュールだな……」


「は、言語教育もアルトさんの管轄ですよ。拾ったならもっと責任もってちゃんと僕のことを育ててください」


 アルトと呼ばれた白い男はそれに対して眉を寄せ不服そうに反論する。喋った言葉をそのまま学習するならばその敬語は一体どこから来ているのか。アルト自身は少なくとも少年の前で敬語なんて喋った覚えがないし、しばらく敬語でやり取りを交わすような相手と接触もしていない。


「っは、拾ったなんて!『何か知らんがそこにあった』が正しいだろお前は。……最初の本当の人形レベルからここまで来てるんだから褒めてくれてもいいとは思うんだけどな」


 そう、あれは何度言っても飯を食ってくれなかった時のこと……等と言い始めたその表情は深刻そうだが、声音はどうしようもないほど楽しそうな色を滲ませていた。


「あれはアルトさんも食べてなかったじゃないですか」

 

「俺は平気なの!!でもお前はダメなんだって、だからちゃんと俺も食べるようになったじゃん」


 暗かった路地裏も、段々と大通りに近づいていくにつれて様々な色が飛び込んでくる。どこかの店の排気口から流れてくる美味しそうな香りが少年の薄く小さな腹から可愛らしい音を誘う。


「……お腹が空きました、どうせハウスに行っても今日はまともな食料もないんですから外食しましょうよ」


 食に興味を持たずに生きてきたアルトと、少年とでは自炊に限界がある。上手くいくこともあればとてもじゃないが食べ物とは言えないようなものが錬成されることもあった。なぜああなるのか。


 特にアルトの料理は酷いもので、見た目食べられなさそうなものならまだ覚悟は出来る。だが見た目が完璧で見るからに美味しそうなのに、いざ食すと全く味がしないどころか、何かしらのあまり良くない刺激を感じた時はさすがに生命の危機を感じたと、少年は言っていた。


「そだな〜、なんか料理出来るやつが来てくれれば楽なんだけどな」


 路地裏から出て大通りを歩き、賑やかな店達を物色する。


「──あ、忘れてた忘れてた」


 少年の少し先を歩いていたアルトが少年の方をパッと振り返る。


「まあ、こういうわけで。これでお前は正式に俺の仕事仲間になった。これからよろしくな、マキナ」


 仲間が増えたことが心の底から嬉しそうに笑いながらアルトは少年──マキナに言う。


 マキナは目を見開き一瞬驚いたようにアルトを見たが、直ぐに今まで通りのどこか大人びた表情に戻りため息をひとつついた。


「そういうことなら出発する前に言ってください。正直仕事の話され始めた時処分される言い訳的な感じで機密事項ペラペラ喋られてるのかな……みたいな感じで不安になっていた僕の気持ちを考えてください」


 様々な世界を自由に動き回れる上にあのハウス、事前にインストールしていたこのセカイの常識の中にはないイレギュラーだらけだった。そんな中に放り込まれていたのだから少し不安になってもおかしくはない。


「え、そんなこと思ってたの??するわけないじゃん!俺だよ?そんな重要なものなんかあるわけないじゃん」


 そもそも彼自体イレギュラーのようなものなのだが全くその自覚がない、いや自覚がないふりをしているだけなのか……。彼とそのハウスのことに関してはまた別の話で紹介しようと思う。


「あなただからですよ!自覚ないならいいですよもう。……お手伝いならいくらでもしますよ、居候ですし」


「ん、ならばよし。じゃあ適当になんか買って帰ろうぜ、店ん中入ってたら多分間に合わないからな」


 2人は連れ立って兄弟のように歩いていく。




 これは世界を紐解く物語。だが、始まるには人数が足りず。








 ──紅い鬼が消えた、黒く空が染った。



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