どういうヒロインだと連載が長続きするか
ツッコミ&ボケ「どうもー。よろしくお願いします」
ツッコミ「あれ、スマホで何か調べもの? どうしたの?」
ボケ「実は、私がちょっと知っている作者さんが、小説投稿サイトの連載がどうやっても長続きしないようなんです。それで悩んでいるかも知れないので」
ツッコミ「何か相談とかされたの?」
ボケ「いえ、私が自発的に、先手を打って考えてあげようかと」
ツッコミ「優しいような、余計なお世話のような」
ボケ「私、これまでもいろいろとエンタメ関連の研究をして、各方面から喜ばれているんですよ? という設定なので」
ツッコミ「大した自信だ。設定なのに」
ボケ「もちろん、何もせず、あぐらをかいているだけでは、何も見えてきません。いつも入念にデータを集めて、さまざまな方向から検討を重ねて、結論を導き出しているんです」
ツッコミ「ほう。じゃあ、小説の連載が長続きするためには何が必要か研究するとして、どういうデータを集めるわけ?」
ボケ「やはり作品には、ヒロインの設定が重要だと思うんです」
ツッコミ「ほう」
ボケ「そこで、どんなヒロインにすると作品が長続きするか、名作・話題作のマンガを題材に考えてみます」
ツッコミ「小説のことを考えるのに、調べるのはマンガなの?」
ボケ「小説は、全部読まないと中身についてどうこう言えませんから」
ツッコミ「じゃあ読めばいいんじゃない?」
ボケ「その点マンガなら、単行本が何巻まで出たかで、長続きかどうか数値的に判定しやすいでしょ?」
ツッコミ「なんか、研究する側の都合が最優先になっている気もするけど。それに、週刊連載と月刊連載の有利不利とか、単行本1冊が厚い薄いとか、長続きというからには単行本の巻数より連載期間のほうが大事じゃないかとか、そういったことが丸っきり考慮されていない気もするけど」
ボケ「研究のためにピックアップしたマンガは完結作に限ります。続巻中のものは途中でああだこうだ言えませんから。ここからの調査は、各項目についてこちらでマンガを4作品ずつピックアップして、平均巻数を算出して比較しました」
ツッコミ「単行本の巻数は、愛蔵版や文庫ではなく、最初に刊行されたコミックス版で数えるわけね」
ボケ「そうです。まず最初に、ヒロインが相手役とどういう年齢関係にあると長続きするか。『ヒロインが相手より年上』『同学年』『年下』の3パターンに分けて見てみました」
ツッコミ「ヒロインが年上かどうかなんて、長続きと関係あるかなあ? でもまあ、ボクも考えてみるか。一番長続きするのは『ヒロインが同学年』じゃないかな? 学園ものだと、ヒロインをクラスメートに設定できないのは痛いと思う」
ボケ「ブッブー、外れ。1位は『ヒロインが年下』で平均88.0巻。続いて『同学年』が37.0巻、『年上』が27.5巻でした」
ツッコミ「『ヒロインが年下』は2位の倍以上か、妙に多いな。ああ、これ『眉毛のつながった公務員の30代男性が東京23区内の公園前にある箱型建造物に勤務する名物マンガ』を入れたでしょ!」
ボケ「もちろん入れましたけど」
ツッコミ「このマンガは2020年8月時点で日本歴代最長の200巻あるから、これだけで長続き1位がほぼ決まっちゃうんじゃないの?」
ボケ「そこらへんは、私の方からはなんとも」
ツッコミ「あと、このマンガだと、ヒロインは誰になるの?」
ボケ「もちろん作者の先生と同じ名字の、ピンクの制服を着た女性ですよ」
ツッコミ「その人は11巻まで登場しないし、主役の30代男性といい仲にもならないけど、ヒロインと言い切っていいの?」
ボケ「いいんです」
ツッコミ「いいのか?」
ボケ「次です。ヒロインは、どういう髪だと長続きするのか」
ツッコミ「髪かね。相手役との年齢差以上に、長続きとは関係ない気もするけど」
ボケ「どのマンガのどのヒロインも、カラーページでは髪が色鮮やかに描かれることが多いんですけど、こっちで色を分類するのが大変なので、髪の色が単色ページでどう描かれるかで分類しました。『髪が白』『髪がスクリーントーン』『髪が黒ベタに白のツヤ』の3パターンでは、どれが一番長続きしたでしょう? 『スクリーントーン』には、デジタル作画の『ハーフトーン処理』を含みます」
ツッコミ「ロングとかショートとかじゃなくて、そんなザックリした分類なんだ。うーん、それだと『黒ベタにツヤ』かなあ? 昔から少年誌や青年誌には、そういうヒロインが多かったように思うし」
ボケ「ブッブー、外れ。1位は『ヒロインの髪が白』で平均76.5巻。以下、『黒にツヤ』40.5巻、『スクリーントーン』が11.5巻、となります」
ツッコミ「ああ、『髪が白』に日本歴代最長を入れたでしょ」
ボケ「ええ」
ツッコミ「『球を七つ集めて龍にお願いするマンガ』のヒロインは、どれに分類したの?」
ボケ「主人公と結婚した方の人は『髪が黒ベタにツヤ』なんですけど、主人公のライバルと結婚した人が長くヒロイン扱いされていると見なして『髪が白』として扱いました」
ツッコミ「まあ確かに『ヒロインの髪がスクリーントーン』という作品は、そう思いつかないなあ。長続きという点では、データの上からは『白』や『黒ベタにツヤ』と差をつけられているんだね。これは発見かも」
ボケ「『ヒロインの髪がスクリーントーン』は、昭和から平成にかけての作品にはあまり例がないようです。『髪スクリーントーン』はヒロインよりも、むしろライバルに設定されることが多いようです。ヒロインより出番が少ないので、作画の手間を増やしてでもヒロインと対照的な属性を付ける価値があるのだと言えそうです。では次。『単独ヒロイン』『複数ヒロイン』『途中でヒロインはっきり交代』のどれが長続きするか。『複数ヒロイン』は、作中の女子キャラそれぞれにファンがついて応援し合うような作品をイメージしています」
ツッコミ「そういうくくりだと、『複数ヒロイン』が強いんじゃないかな? ラブコメはたいていそうだし、にぎやかそうだし」
ボケ「『月や太陽系惑星にちなんだ美少女戦士が集団で戦うマンガ』は『複数ヒロイン』として扱っています」
ツッコミ「『美少女戦士』って言っちゃってるし。そのマンガは、本当はヒロインははっきり一人と決められている気もするけど」
ボケ「まあそれはいいとして、どうでしょう? マンガとして強いのと、長続きはまた別かもしれませんよ」
ツッコミ「日本歴代最長は、これにも入れたんでしょ? だったらそのマンガがどれに分類されるか考えるのが早いんじゃないか。さっきの話だと『ヒロインは年下』『ヒロインの髪が白』と分類してあったから、ヒロインはピンクの制服の女性ひとりと考えてよさそう。ゆえに1位は『単独ヒロイン』だろう」
ボケ「ブッブー、外れ。1位は『複数ヒロイン』で平均70.3巻。以下、『単独ヒロイン』が45.8巻、『途中ではっきり交代』が26.3巻です。なんのかんの言って、三つのうち一つも当たらなかったですね。もう少しやる気を出してもらってもいいですかね?」
ツッコミ「ひどい言われよう。でもそれおかしくない? 日本最長が『複数ヒロイン』に分類されているじゃん。それぞれの項目とも4作品ずつだから、日本最長1本だけで平均50巻になるわけで、45.8巻や26.3巻にはならないもの」
ボケ「私も悩みましたが、登場人物のうち、元男性で111巻から女性になる警察官も、ヒロインとしての活躍は十分見せているので、ここでは心を鬼にして『複数ヒロイン』とさせてもらいました」
ツッコミ「途中で変節していない? 『心を鬼にして』の使い方もそれでいいの? あと、ボクはさっき気を使って『公務員』と表現したのに、『警察官』って言っちゃってるし」
ボケ「『ヒロインが途中ではっきり交代』は、長続きを考えると不利かもしれませんね。ヒロインの使い捨てという印象を与えないようにしないといけないようにも思いますね。以上、まとめると『連載を長続きさせようと思ったら、ヒロインは年下、髪は白、複数ヒロイン』というのが有利そうだ、という結果になりました」
ツッコミ「これを見たり聞いたりされている皆さん、こんな結果うのみにしないでくださいね。いろいろ考えたように見せかけて、結果的には日本歴代最長をなぞっているにすぎませんから。調査結果の2位と3位なんて、どのマンガを調査対象とするかで丸っきり変わりますし」
ボケ「さっそく、ちょっと知っている作者さんに連絡してあげましょう!」
ボケ、スマホで電話するフリ
ボケ「もしもし作者さん? 次の小説はね、『ヒロインが相手より年下』『髪は白』『複数ヒロイン』にするといいですよ! え? 小説だから『髪は白』とかあまり関係ない? え、それにもう次の話書いて投稿始めた? えー、そんな勝手に」
ツッコミ「ちょっと知っているだけの作者さんに、しかも無断で研究したのに、なんという言い草」
ボケ「そんなのすぐ終わるよ? 知らないよ?」
ツッコミ「縁起でもない」
ボケ、電話を切るフリ
ボケ「んもう、せっかく忠告してあげてるのに」
ツッコミ「まあまあ。マンガをいくら研究しても、小説にどれだけ役立つかわからないでしょ? いろいろ考えるのはいいとしても、作品づくりは、それにとらわれすぎたり、振り回されたりしてもいけないんじゃないかな?」
ボケ「うまくまとめようとしてませんか」
ツッコミ「そんなことないよ?」
ボケ「私思いました。年上とか髪が白とかより、ヒロインがこう、大活躍する方が意味があるのでは」
ツッコミ「大活躍って?」
ボケ「着衣なしで家の外に出るとか。『全裸で街を闊歩する』『薄手のレオタードまたは水着で街を闊歩する』『着衣で街を闊歩する』のどれが一番長続きするか、比較してなかったなあ」
ツッコミ「違う意味での大活躍ね。でも、そこに思い至るというのは、あなたの個人的な志向も関係しているのでは。あと、『全裸で街を闊歩する』は、それやっちゃうと確かに一時的に人気は出なくはないというか、むしろ出るだろうけど、それだけで作品が長続きするわけではない気もする」
ボケ「実際調べたら、日和って『薄手のレオタードまたは水着で街を闊歩』が1位かもしれませんね」
ツッコミ「どういう作品にそういうシーンがあるか、探して分類するのも大変じゃない? 『着衣で街を闊歩する』というのは、ほぼすべてのマンガがそれに当てはまるんじゃない?」
ボケ「調査にご協力いただけるリスナーの皆さんの情報をお待ちしています」
ツッコミ「お待ちしていません。これは漫才ですから、みなさん本気にしないでくださいね」
ツッコミ&ボケ「どうもありがとうございましたあー」
【ボケ役さんの調査・ピックアップ作品】
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○ヒロインが相手より年上:平均27.5巻
ゲゲゲの鬼太郎 水木しげる先生 全17巻 ネコ娘さん(400歳説、鬼太郎さんは350歳説)
めぞん一刻 高橋留美子先生 全15巻 音無響子さん
僕らはみんな河合荘 宮原るり先生 全11巻 河合律さん
釣りキチ三平 矢口高雄先生 全67巻(番外編2巻含む)
高山ユリさん
○同学年:平均37.0巻
ドラえもん 藤子・F・不二雄先生
全46巻(0巻含む)
源静香さん
あした天気になあれ ちばてつや先生 全58巻 白石えつこさん
ときめきトゥナイト 池野恋先生 全31巻(完結編「星のゆくえ」含む)
江藤蘭世さん
我妻さんは俺のヨメ 蔵石ユウ先生・西木田景志先生
全13巻 我妻亜衣さん
○年下:平均88.0巻
のだめカンタービレ 二ノ宮知子先生 全25巻 野田恵さん
こちら葛飾区亀有公園前派出所
秋本治先生 全200巻 秋本カトリーヌ麗子さん
あぶさん 水島新司先生 全107巻 景浦サチ子さん
ハイスクール!奇面組
新沢基栄先生 全20巻 河川唯さん
(注・河川さんは「3年奇面組」の途中から、留年した一堂零さんと「同学年」になりますが、年下なのでここに分類)
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○ヒロインの髪が白:平均76.5巻
こちら葛飾区亀有公園前派出所
秋本治先生 全200巻 秋本カトリーヌ麗子さん
フルーツバスケット 高屋奈月先生 全23巻 本田透さん
DRAGON BALL
鳥山明先生 全42巻 ブルマさん
七つの大罪 鈴木央先生 全41巻 エリザベスさん
○スクリーントーン:平均11.5巻
だがしかし コトヤマ先生 全11巻 枝垂ほたるさん
エスパー魔美 藤子・F・不二雄先生
全 9巻 佐倉魔美さん
けいおん! かきふらい先生 全 4巻 平沢唯さん
侵略!イカ娘 安部真弘先生 全22巻 イカ娘さん
○黒ベタに白のツヤ:平均40.5巻
タッチ あだち充先生 全26巻 浅倉南さん
あさりちゃん 室山まゆみ先生 全100巻 浜野あさりさん
愛と誠 梶原一騎先生・ながやす巧先生
全16巻 早乙女愛さん
あしたのジョー 高森朝雄先生・ちばてつや先生
全20巻 白木葉子さん
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○単独ヒロイン:平均45.8巻
浮浪雲 ジョージ秋山先生
全112巻 かめさん
ブラック・ジャック 手塚治虫先生 全25巻 ピノコさん
ごくせん 森本梢子先生 全15巻 山口久美子さん
SLAM DUNK 井上雄彦先生 全31巻 赤木晴子さん
○複数ヒロイン:平均70.3巻
三国志 横山光輝先生 全60巻 西施王さん、貂蝉さんら
こちら葛飾区亀有公園前派出所
秋本治先生 全200巻 秋本カトリーヌ麗子さん、麻里愛さんら
美少女戦士セーラームーン
武内直子先生 全18巻 月野うさぎさん、水野亜美さんら
ポプテピピック 大川ぶくぶ先生 全 3巻(SECOND SEASON,SEASON THREE AND FOUR)
ポプ子さん、ピピ美さん
○ヒロインが途中ではっきり交代:平均26.3巻
げんしけん 木尾士目先生 全21巻 春日部咲さん→荻上千佳さん
頭文字D しげの秀一先生 全48巻 茂木なつきさん→上原美佳さん
T.P.ぼん 藤子・F・不二雄先生
全 5巻 リーム・ストリームさん→安川ユミ子さん
地獄先生ぬ~べ~ 真倉翔先生・岡野剛先生
全31巻(NEO、S含まず)
高橋律子さん→ゆきめさん
※「こちら葛飾区亀有公園前派出所」は2021年に201巻を刊行。この「ボケ役さんの調査・ピックアップ作品」における「全200巻」は執筆時点
※「ポプテピピック」は連載が断続的に行われ、単行本も追加されていく形式のため、全3巻として扱ったのは執筆時点の判断。その後続巻が刊行されている