出会い(13)
「ねぇ、孕ませるって本当?」
強気な巫条が珍しく怯えた表情を見せる。……無理もない。いきなり孕ませるだのどうのとか言われたら困るだろう。
「それは勿論、」
嘘だよ。
「……え?」
「嘘だよ、嘘。だって俺、子供作れないもん」
自嘲気味に嗤う。
「俺の左眼が普通じゃない事くらい分かってるだろ?」
そう言って、自分の左眼に優しく撫でるように触れる。
「この眼はな、呪いなんだ。俺が人じゃなくした人からの呪い……」
人じゃなくした代償に人でなくなった俺の戒め、生き恥じ。
「だからな、人じゃない俺が子供を作れる分けないだろ?」
例えば、レオポンのように似た種類同士を掛け合わせて出来る生物もいる。
でも俺は違う。姿形が似ているだけの異形。異質な存在。世の理から外れた存在。
俺が魑魅魍魎を嫌うのは過去のトラウマではなく、単純な『同族嫌悪』。
俺が早夜を抱くのは現実逃避でもある。でもそれは早夜も同じだ。早夜も俺に抱かれるのは現実逃避。俺が人でなくした人は俺にとっても大切な人で、早夜にとっても大切な人。何故ならその人は――
「刹君!!」
「……どうした?」
「あれの事考えていたでしょ」
あの人、とか彼女、ではなく『あれ』。早夜の中では『あれ』はただの異形でしかない。
「あれとか言わない。あの人は早夜の……」
「言わないで」
「…………」
「それ以上言ったら刹君でも許さない」
比較的クールで大人しい早夜が宿す殺意。それは例えるなら――地獄の業火。
目立つ事なく大人しい炎。だがそれは、消える事を、弱まる事を知らない。
「刹君はあれの事なんか考えなくていいの。ただ私だけを見ていればいい」
吐き捨てるように言う早夜。隣りで眼を丸くしてそれを眺める巫条。そして薄く嗤う俺。
呪う者に呪われた者。呪いを断ち切る存在。
運命なんて言う、後付け専用の不確かで適当な言葉は好きではないけれど、俺達が揃ったのは運命なのかも知れない。
少なくともきっと、これから先何かが起こるのだろう。
何かが起きた時、俺は何を考え、何をするのだろうか。
なんて考えている俺は嘘。
だって、この世で起こる事なんて、どうでも良いのだから。
ちょっと読者の方々の感想やメッセージの多さにびっくりしました。なので続き、書いてみました。……いや、別に18禁が書けないんじゃないですよ? だってほら『心変わりは人の世の常』って言うじゃないですか。