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鬼姫  作者: 及川
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出会い(1)

評価、及びに感想を送っていただけると幸いです。

 じわりと眼球から雫が垂れた。当初涙と思われたそれは、触れるとドロリとし、紅かった。

 視えないモノが視え、視たくないモノが視える。そんな眼に、嫌気が差してくる。

 ――ほら、また来た。

 あっちにも、こっちにも。あそこにも、向こうにも。

 ズルズル音を立て、未練がましくこちらを見る。生者を許さぬ魑魅魍魎。

 生者を貪る妖怪の所行は無始曠劫より定められた絶対的掟。

 誰も止めない……いや、誰も止められない。

 妖怪はその食欲から。

 人間はその弱さから。

 それを理解している僕は既に覚悟を決めている。

 妖怪にとって、人間の異形程美味な物は無い。

 だから僕はその異形、異形を映す左眼を喰らわれる。

 妖怪の手が僕の左眼に触れ、ゆっくりと……。




「おわっ!?」

 俺こと西園寺刹那は悪夢にうなされ目が覚めた。

「……夢か」

 安堵する自分が居る。しかし、夢かと安心したところで意味は無い。どうせ、魑魅魍魎が視えるのは夢の中の話しじゃないから。

「学校……行くか」

 三十分フルに使い全ての準備を終わらせる。

「行ってきます」

 一人暮らしは慣れたけど、身に着いた習慣はなかなか抜けない。

 ドアを閉め、鍵が掛かっているか確認する。

 ――問題無し。

 やはり、その一連の動作の中で行ってきますの返事はなかった。勿論それが当たり前で、もし返事があったら

「ちょっと、この家何か居るんですけど! 霊的な意味で!!」とマジギレしながら契約を取り消すけど。

 そんな事を考えながら何時もと同じ道を何時もと同じ時間に何時も通り歩く。

 そこで、何時も通り着信音が鳴った。

「……もしも」『お兄ちゃん?』

 人の台詞に被るが如く言葉を発した不届き者こと俺の妹、西園寺紅葉。

『もう家出た?』

「あぁ、今踏切前」

『轢かれないでよ?』

「当たり前だ」

 俺の気が触れるか脱線しない限り。

「……一人息子が心配なのは分かるけど、もうちょっと電話は控えろって母さんに伝えといて」

『分かった。でも、毎日電話する』

「何故に?」

『お兄ちゃんラヴだからぁ』

 その言葉を最後に携帯はツーツと音を立て沈黙する。

 別に意図的に切ったんじゃない。指の疲れにより筋肉が痙攣し、通話終了ボタンを連打してしまっただけだ……ってことにしておこう。

 なんて言い訳を考えているとカーンカーンカーンと音が鳴り、踏切のあの竹の棒的な物が降りてくる。

 あの竹の棒、確か特別な素材で出来ていて、壊したら数百万とか言ってた気がする。テレビで。

 不思議だ。ただの竹の棒にしか見えないのに。

「きゃっ!」

 電車が通り、踏切前に立っていた女子生徒のスカートを捲った。

 ……白か。

「…………」

 無言で睨んでくる女子生徒。

 おいおい、何で俺だけ……って、俺しか居ないし。……あれだよ、白いってのは布切れじゃなくて、澄み渡った空で舞うように浮かぶ雲の事だよ。

「……見た?」

 何が? そう誤魔化そうとして俺は視た。

 特殊素材の竹の棒が持ち上がり、それを待ってましたと言わんばかりに歩き始めた人だかりの中にいる異形を。

 右眼は眠そうな多くの人を、左眼は誰も居ない中優雅に歩くゴスロリ姿の女の子を視た。

 やばい、あれはやばい。体が危険だと訴える。左眼が異形の呪力に当てられてピリピリと痛む。

「ねぇ、見たでしょ?」

 あぁ、見た。視たさ、間違い無く視ました。布切れも、異形も。見たくないのに視ましたよ!!

 やばい。絶対にやばい。そう思いながら平然を装い歩く。

 ……くそっ、場所が悪い。俺が通る道は異形の隣りを歩く事になる。しかし、大きく逸れると絶対ばれる。

 気付くな、俺が気付いている事に気付くな。

 自前のポーカーフェースを使い、怠そうな高校生を演じる。いや、事実俺は怠そうな高校生か。

「ねぇってば」

 五月蠅い、静かにしろ。

 一歩踏み出す。

 残りニメートル。

 また一歩。

 残り一メートル。

 そして――。

「……ふぅ」

 何事も無く横を過ぎ去る。

「だから、見たの!?」

「んな事どうでも良い……」

 振り返って答える。しかし、ゴスロリの女の子がこっちを見ていた。

 何で見てんだよ、通り過ぎただろ?

 そう思ったものの、即座に焦点をずらす。冷静に考えるとまだ気付いてないかも知れない。挙動不審に見えないよう平凡な高校生を演じる。いや、元から普通な高校生だけど。

「……あれ? 視えてる?」

 ゴスロリの女の子がそう呟いた瞬間俺は走った。

「やっべ、腹痛てぇ!!」

 手遅れかも知れないが、一応不審ではないように理由を叫ぶ。

「やっぱり、視えてたんだ」

 俺のした行為は、無駄だった。

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