赤い花びら
赤い花びらが咲いてた。
え?
ううん。
花びらが咲いてたのよ。
そう、花びらが。
たくさん、たくさん、緑の上に。
咲かせたのはあたし。
お空は青くて、花びらは赤、草は緑で、とってもとっても綺麗だった。
お日様の光がきらきら降ってたわ。
それで、赤も、きらきら。
ねえ、どうしてそんな顔であたしを見るの。
ちょっと悲しそうで、哀れむみたいで。
あなた、ちょっと失礼だわ。
あたしは、本当のことしか言ってないのに。
……どうしてあなたが泣きそうな顔になるの?
パパもママも、それからお姉ちゃんもお兄ちゃんも。
みいんなあたしを愛してくれた。
あたしはとっても幸せで、どうやったらそのお返しができるか考えたの。
うん、そう。
あたし、部活は剣道部だったから。
知ってる?
剣道してる人には、棒切れだって持たせちゃいけないのよ。
なぜって、それだけで十分な武器になるから。
ナイフなんて、もちろん、論外。
だから簡単だった。
赤い花びらを咲かせるのは。
あたしの愛する家族から、赤い花びら、咲かせるのは。
おかしいの。
庭でケーキを食べましょうって、いつもみたいにママがにこにこ。
じゃあ、あたしがケーキを切り分けるわって言ったら、銀色は、簡単に許された。
そう、それで。
銀から赤い、花びら咲いた。
花びら咲いた。
だってみんながあたしをおもちゃにするから。
パパだってママだってお姉ちゃんお兄ちゃんも、みんなみんな、みんなみんな。
夜になると代わりばんこ。
あたしをおもちゃにしにくるの。
あたしはそれでも幸せだった。
あたしはそれでも幸せだった。
あたしはそれでも幸せだった!
あたしはそれでも幸せだった!!
だから、お返しをしてあげなくちゃいけなかったの。
いやだわ、刑事さん。
どうしてあなたが泣いてるの?
あたし、今でも幸せなのよ?
赤い花びら咲かせて、それはいっとう、綺麗だったんだから。
だからあたし、最後に自分からも花びら、咲かせたわ。
うん、わかってる。
こうして話せるのが奇跡なくらい。
だってあたしはもう長くないから。
お話を、聴いてくれてありがとう。
ごめんねそしてさようなら。
写真提供:空乃千尋さん