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90.万歳三唱

「公国本国のことはキミが悩むことじゃないよ」

「で、でも。公国本国は君たちの故郷だろうに」

「聖人たるキミの人となり……ボクは嫌いじゃないけど。泣いて頼んで来たら初めて考えるくらいでいいんだよ」

「あ、うん」

「助ける必要性もキミにはない。ボクもここにいる公国の者達全ては、キミに感謝しこそすれ、キミの選択を恨むことはないから」


 俺を迷わせぬようにする気遣いなのか本心から住民がそう思っているのかは分からない。

 だけどマルーブルクの言葉は、彼の心からの気持ちであることは彼の表情を見ていると明白だ。

 

「ありがとう。マルーブルク」

「キミに礼を言われるような案件じゃないよ。むしろ礼を言うのはボクらの方さ」


 おどけたように肩を竦めるマルーブルクは、話がこれで終わりとばかりに優雅な仕草で紅茶の入ったカップを口元へ運ぶ。

 

「誠に聖人たるふじちま殿の心意義、このリュティエ、感服いたしましたぞ」


 リュティエは声を震わせながら、感じ入ったように呟く。

 会話が途切れたところで、ワギャンが俺へ言葉を投げかけてきた。

 

「ふじちま、ゴブリンのこともある。街の外に作った牧場の柵なんだが」

「うん、既に誰も入れないように変更しておいたよ。あの長い扉だけは自分たちで誰を通すか決めて欲しい」

「分かった。助かる」


 公国側の農場も範囲を決めてもらって、明日全部外枠を囲ってしまおうかな。


「フレデリックかクラウスに頼みたいことがあるんだけど」

「農場のことかな。扉の通過者を決めないと……となるとフレデリック。頼むよ」

「仰せのままに」


 マルーブルクの言葉に対し、フレデリックが品のいい礼を返す。

 

 ◆◆◆

 

 ――翌日。

 公国側の現状農地ができているエリアの周囲を牧場と同じような木の柵で覆う。

 付いてきてくれたフレデリックとガラガラと横にスライドさせる扉の位置を確認しつつ設置した。


「フレデリックさん、このエリアってゴブリンが襲撃して来ますよね?」

「そうですね。柵の中に入れば避難ができるかと」

「今後農地が拡大してくることを考えて……拡大するときは南側でどうでしょうか?」

「私どもは構いませんが……」


 マルーブルクから本件について全権をフレデリックに任せたと聞いていたから、彼に提案してみた。

 彼が戸惑っているのは、獣人との関係性だろう。


「大丈夫です。北を獣人、南を公国にします」

「それなら是非もないです」


 もちろん、お互いのエリアにある外枠まで広げる予定はない。そこはいずれ……。

 しかし、さっきから……野次馬の方々の声が……。


「導師様万歳!」

「藤島様ー!」


 ハウジングアプリで柵が建っていく様子を始めて見ただろう住人達から俺へのコールが鳴り止まない。

 中には感動に咽び泣いている人までいるんだもの。


「これから、南側にも柵を作ります。広さもご相談したいので、よろしければ皆さんもきますか?」


 大歓声があがり、続いて盛大な拍手が!

 若干後悔しながらも、フレデリックに彼らを誘導するように頼み南側へ向かう。

 俺の姿が彼らから見えなくなるまで、藤島コールが鳴り止まなかった……。


 外を回って来たとはいえこちらは自転車。向こうは集団の上、徒歩である。

 なので、当然ながら俺が先に着いたわけだが。


 しっかし何も無いな!

 南西の物見前から眺める景色は一面の大草原。

 人っ子一人見当たらない遥か先まで同じ景色が広がるこの光景を見ているとなんだか懐かしくなってきた。

 しみじみと緑色を眺めていたら、フレデリックを先頭に住民の皆さんがゾロゾロとやって来る。


「フレデリックさん、何だか人が増えてません?」

「はい。藤島様の御業を拝見したいと噂に」

「そ、そう……」


 ま、まあいいや。

 東西の農場や牧場と異なり、今回は真っさらなところに柵を作るんだ。

 せっかくだから、キチンと区画を作るかな。


 街中央の緩衝地帯より南へ二メートルの道を二キロ伸ばす。農場ということなので、床材は土色が見える荒地にした。

 次に、公国側の端まで横に伸ばして、北へ戻る。

 これが大枠だ。

 縦が二キロ、横が一キロの長方形になった。

 縦横がクロスするようそれぞれの辺の真ん中に一メートルの道を作って……囲いはこれで完成。

 中央のクロスしてる部分にちょっとした広場を作って、そこに水栓を二十個作成する。


 さしあたりはこれでよいかな!

 街の外周を囲む我が土地の内側で固唾を飲んで見守っていたフレデリックと住人達の元へ戻る。

 フレデリック以外の人たちはプライベート設定にしている道の中へは侵入できないからここで見ているしかできない。


 戻ってきたところでフレデリックへ向け手をあげると、彼は上品な仕草で腕を腹の辺りで横に向け会釈をする。


「いつもながら見事なお手前ですね。言葉も出ません」

「いえいえ……」


 手放しに褒められたものだから、照れ隠しに頭をかきながらボソボソと曖昧な言葉を返した。

 え、えっと。

 何を言おうと思っていたか忘れてしまったじゃないか。

 あ。

 

「フレデリックさん、もう一つ同じような枠を西側に作りませんか? それでですね、ゲートを南西隅に追加でと思ってまして」

「そこまでしていただけるのですか! 私としては大歓迎です」

「何かご意見ありますか?」

「もし可能でしたら……一つお願いがあります。ゲートの幅を広くしていただきたいです」

「おお、それはいい案ですね」


 農業に向かう人たちは農具も持っているだろうし、人の出入りも多い。

 彼らはゲートからしか外に出ることができないから、朝と夕方にゲートで詰まってしまうかもしれないしな。

 こんなのんびりしたところで、通勤ラッシュならぬゲートラッシュなんて見たくないし、快適に使って欲しい。

 

「では、先にゲートを作りましょうか」

  

 宣言すると、フレデリックの背後にいた住人のみなさんから歓声があがる。

 ゲートの柱と柱の幅を五メートル……いや八メートルくらい取るか。柱そのものは他のゲートと同じ高さと太さでいいかな。

 タブレットを操作して、位置を調整する。


「フレデリックさん、一歩だけ後ろへ下がってもらえますか?」

「はい」


 フレデリックが移動したところで、「決定」をタップした。

 すると、いつもながら音も立てずに一瞬で柱が出現する。

 

「導師殿、万歳!」


 割れんばかりの拍手と歓声が沸き起こった。

 毎回これだと……やり辛いって……。


「ゲートを誰が通過できるようにするかはお任せしますね」

「はい。すぐに対応します」


 この後、さっきと同じ形の長方形をもう一つ作成し、外枠になる長方形はプライベート設定に、中の道はパブリック設定とした。

 これで、枠から外へ出ることができなくなるけど、外から中に入ってくることもできなくなる。

 もし、外側に行きたかったら、他のゲートから出て回り込んで来なきゃならなくなった。けどまあ、安全性を考えたらこれでいいだろ。

 そんなこんなで、農場用の防御柵は完成したのだった。


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現代知識で領地を発展させ、惰眠を貪れ!

・タイトル

聖女に追放された転生公爵は、辺境でのんびりと畑を耕すつもりだった~来るなというのに領民が沢山来るから内政無双をすることになってしまった件。はやく休ませて、頼む~

・あらすじ

国を立て直した元日本人の公爵が追放され、辺境で領地を発展させていく物語です。

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