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88.あばよ。とっつあん

 双眼鏡を外に向けて……どれどれ。


「むっさいるじゃねえか!」


 思わず叫んでしまった。

 双眼鏡から目を離し左右へ顔を向けたけど、クラウスもタイタニアも驚いた様子がない。

 あれ?

 すぐに事態に気が付き頰が熱くなる。

 俺だけゴブリン達を確認してなかったのが分かったからだ。

 そらそうだよ、キツキツになってまで物見に集合したのはゴブリンの様子を見に来るためだもの。

 今回のゴブリンは総数五十近くと前回の倍以上。しかし、気になるところはそこではない。

 一匹、人間くらいの背丈があるがっしりとした体躯のゴブリンがいるんだ。更にそのゴブリンの脇を固める二匹は杖を持っている。こちらは通常のゴブリンより華奢で背も少し低い。


 あの三匹は一体何なんだろう?


「タイタニア、あの大きなゴブリンってなんだろう?ボス?」

「わたしも見たことがないの。だから、クラウスさんがマルーブルク様を呼んだのかなって」

「ふむふむ」


 再び双眼鏡を手に取り三匹の様子を確認する。

 そこで分かったことなんだけど、ゴブリン達が前回と異なりただ歩いているのではなく行軍してるんじゃないかと感じたんだ。

 あの三匹を中心として、脇をゴブリンが固め、先頭の二匹は集団より前に出て周囲の様子を伺っている。


 それ以外のゴブリン達も何かあればいつでも武器が抜けるよう身構えていて、警戒心が見て取れた。


「ボク達が知っているゴブリンとは違うね。一体奴らに何があったのか」


 先程まで軽い感じで俺をからかっていたマルーブルクは、急に態度を変える。

 彼は手の甲に顎を乗せ、思案するように口元をキュッと引き締めた。


「うお、大事なことを。ゲートを閉じないとだな」

「公国側はそのままでいいよ」

「獣人側は閉じて欲しい」


 マルーブルクとワギャンがすぐに返事を返す。

 重大なことを忘れるところだったぜ。このままゴブリン達に侵入されたらシャレになんねえ。


「ん? 公国は住民登録が終わったの?」

「うん」


 念のためマルーブルクへ再度問うと彼はコクリと頷く。


「おお!」

「獣人と違ってこちらは数が少ないからね」


 さっそくタブレットを出して獣人側のゲートを操作。

 タブレット、タブレットかあ。

 我が土地の中ならば俺は絶対安全。

 なら……。


「ゴブリン達と話をして来てもいいかな?」

「キミの判断に任せるよ。大魔法の制限や威力はボク達に測ることができないからね」


 ここで「制限」って言葉も付け加えるのがマルーブルクらしい。

 どんな力でも慢心してはいけないよな。うん。


「大丈夫だ。細心の注意を払う」

「わたしも行く」

「ごめん、タイタニアはここで待っていて欲しい」

「なら僕が行っていいか?」


 タイタニアの同行を断ったら、今度はワギャンが申し出てくる。

 ワギャンならまあ大丈夫だよな。男だし。


「ワギャンはいいのにわたしは……」


 しゅんとするタイタニアの肩へ手を置き困ったように首を振る。


「ゴブリンに人間の女の子をわざわざ見せなくていいだろ?」

「うん……」


 言われなくても彼女は自分で俺が断った意味を理解しているさ。彼女のことだから、俺の護衛だとか思って立候補してくれたのだろう。

 一方でワギャンはいざという時は護衛しようと思ってはいるものの、ゴブリンを近くで見たいってのが大きいと思う。

 公国に危険な敵だと認識されているけど、獣人達はゴブリンのことをほぼ知らない。

 今後定期的にゴブリンが襲撃してくるとなれば、奴らの情報を集めておきたいだろうから。


「弓が届く距離で頼むぜ」


 クラウスが親指をギュッと突き出し、弓の弦をピンと弾く。


「分かった。この前使った物見の外の土地から呼びかけるよ」

「りょーかい。できればあと一メートルちょい前に出てくれた方が狙いやすい」

「分かった」


 高い位置から真下だと矢を()て辛いってことだな。


「フジィ、気をつけてね」

「大丈夫だよ。俺の魔術は絶対安全だ!」


 力一杯の笑顔でタイタニアに手を振る。


 ◆◆◆


「ゴブリンどもー!」


 今回はちゃんと持ってきた拡声器を使い、ゴブリンの集団へ向け声を張り上げた。

 奴らはたった二人で出てきた俺たちへ「警戒」した様子だ。

 クラウス達からの情報、前回ゴブリンと接した俺の経験からして、今回のゴブリン達は様子が違うと確信した。


 奴らは俺の声を聞き、背の高いゴブリンへ指示を仰ぐように一斉に目を向けていた。


「人間。大人しく言うことを聞けば、命は助けてやる」


 大きなゴブリンが前に進み出て、偉そうにそんなことをのたまう。


「一応聞くけど、要求とは何だ?」

「村の女の四分の一を寄越せ。月に一度、俺様達に小麦二十キロを献上しろ」

「ふむふむ。約束に従ったら誰も死なずに済むってことか。時に大きいゴブリン、お前はゴブリンなのか?」

「馬鹿にしているのか! 俺様はゴブリンより進化したホブゴブリンだ」


 進化、進化とな。

 あれか、ハトがでかくなったのと同じようにこいつらもレベルアップして姿を変えたってのかな。

 以前より知恵もついたみたいだけど、単純なところはまんまぽい。

 聞いたらあっさり答えるとか考えが無さすぎだろ。聞いた俺が言うのもなんだけどさ。

 

「ホブゴブリン……聞いたことがないけどお前は元々はゴブリンだったのか?」

「ふふん。聞いて驚け! 俺様は天帝様よりお告げを受けホブゴブリンになったのだ!」

「え、えっと。声を聞いただけでホブゴブリンへ?」

「お告げだ! 愚か者! お告げを聞くには体を鍛えねばならぬ。俺様にしかできんだろう!」


 ガハハハハっと大声で笑うホブゴブリンに眉をひそめる。

 ペラペラと聞けば全部喋ってくれることに、嘘を述べているんじゃねえかと不安になってきた。

 正直なところ、ゴブリン達がいくら進化しようが俺たちの街サマルカンドに影響はほぼない。

 農地や牧場を我が土地の枠で囲んでしまえば、例えグバアが何匹こようがビクともしないからな。

 

 俺たちはいい。そこは問題ない。

 でもさ、ゴブリン達が目に見えてパワーアップしたら……公国はどうなる?

 マルーブルクの情報によると、彼がここへ来た当時でも既にアップアップだった。

 俺が公国そのものへ手を貸すことには正直なところ……余りやりたくない。俺は王になりたいわけじゃあなく、我が土地に引きこもりゆっくりのんびり暮らしたいだけなんだ。

 でも、マルーブルクをはじめサマルカンドに住む公国の人たちに何かあるとなると……護りたい。

 薄情かもしれないけど、俺は自分が目に見える範囲にいる人には死んでほしくないし、笑って日々を生きていて欲しい。

 わがままだってわかっているよ。俺にはゴルダという制約があるとはいえ、紛れもない力を持っている。借り物のハウジングアプリの力とはいえ、アプリを行使できるのは俺だけなのだから。

 

「他にもホブゴブリンはいるのか?」

「最強は俺様一人と言いたいところだが、俺様以外にもホブゴブリンに至る器はいるかもしれん! だが! 最強は俺様だ!」

「お、おう……」


 ホブゴブリンって奴の個体の強さは不明。

 しかし、こいつに率いられたゴブリン達は「集団」として機能している。

 ホブゴブリンが増えていくなら……こいつらは劇的に強くなっていく……。

 ああああ。これ以上考えたくねえ。

 マルーブルクに相談だな……。天帝とやらが裏で糸を引いて、ゴブリン達に進化を促している。

 何者なのか、目的は何なのか。

 

「おい! 人間! 話はもういいだろう! とっとと女と小麦を寄越せ」

「ん? あ、もういいよ。帰っても」

「だから、女と小麦を」

「断る。じゃあな」


 手を振り、ワギャンと共に踵を返す。

 後ろから「ぐううあああ」と怒りの雄叫びが聞こえてくるけど、俺にとっちゃどこ吹く風だぜ。

 あばよ。とっつぁん。

 

「あ、先に言っておく。立ち去らないなら、こちらから攻撃するぞ。しばらく待ってやるから、帰るとよいさ」


 捨て台詞を残し、物見へと戻る俺なのであった。

 後ろではたぶんゴブリン達が我が土地へ侵入しようとしているんだろうけど、無駄だぜ?

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現代知識で領地を発展させ、惰眠を貪れ!

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