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81.ベッドから落ちる

 タイタニアの髪の毛を整えたところで、ニヤニヤとこちらの様子を窺っていたマルーブルクへ目を向ける。


「まだ時間はあるかな?」

「あと少しでしょうか」

「だったら二階へ行こう。みんなも」


 最終日なんだから、少し違うことをしたいと考えたところ、一つ思いついたことがあるんだ。

 幸い今日は満点の星空が見えていたしな!


 二階のテラスへみんなを連れて行き、先日注文しておいた天体望遠鏡を持ってくる。

 天体望遠鏡の脚を組み立て筒を空へ向け、覗き込んでみた。


「お、おおー。見える見える」


 どれが恒星か惑星か分かんないから適当に天体望遠鏡を動かしていたら、一際大きな星が眼に映る。

 お、おお。

 倍率を上げてみたら……リングを伴った鮮やかなブルーの惑星が確認できた。


「よっし、まる……フジデリカからどうぞ」

「ん、その道具は空を見るものなのですか?」


 顎に手を当て興味深そうに天体望遠鏡をしげしげと見つめるマルーブルク。


「うん。今ちょうど遠くの星が見えたから」

「それは楽しみです! では遠慮なく」


 マルーブルクがレンズを覗き込む。すると彼は僅かに肩を震わせ息を飲む。

 そんな彼を固唾を飲んで見守るワギャンとタイタニア。


「興味深い。とても興味深いよ! 空ってのは不思議なものだね。月もこれで見るとどう見えるのかなんて想像するだけで興奮するよ」

「あとで月も見よう」

「うん!」


 マルーブルクはタイタニアのように子供っぽく頷きを返す。無邪気なその姿は年相応で口元が緩む。

 あ、でも、素の口調に戻ってるぞ!

 ハッとなりタイタニアへ目を向けたら、彼女はキラキラした目で星空を見上げていて心ここに在らずって感じだった。


 ホッと息を撫でおろし、今度はタイタニアへ声をかける。

 この後ワギャンにも青い惑星を見てもらってから、月を観察することにしたんだ。

 個人的な感想だが、月は見ない方がよかったと思う。あんな模様をしているなんて……。


「ブーちゃんは月から来たのかな?」


 月を見た時、タイタニアがそんなことをのたまっていた。

 いやいや、もし月がここと同じように空気があったとしても、宇宙空間と大気圏を超えてオークがこの星へ降り立つなんてことできないってば。

 そう……月の模様は地球のような杵を突くウサギではなく、豚の鼻みたいだったんだ。

 

 まだ星を見たいのか名残惜しそうにしながらも、マルーブルクはフレデリックに連れられて帰って行った。

 残った俺たちは一時間ほど言葉のお勉強をしてから就寝することとなる。


 自室のベッドに寝そべったところで、「お祭りをするならどんなものがいいかなあ」なんて考えてみた。

 定番だと花火に屋台とか……いや、いっそのこと今日の天体観測の反応を見た感じからプラネタリウムを作ってみるのもアリか?

 でもそれだと、技術を見せ過ぎかなあ。

 

 ゴロゴロと転がり、頭を抱える。

 軍事転用とか手軽に技術を利用できるようなものじゃなかったら問題ないんじゃないか? 既に水道設備やゴミ箱さんは供給しているわけだし。

 それだったら、お祭りとは別になるけどプールとか温浴施設とか競技場なんてのも作りたいな。

 

 んーむ。

 ゴロゴロ……どしーん。

 

「痛えええ!」


 頭から床に突っ込んでしまった。

 派手に音を立ててしまったからか、隣からドタドタと足音が響き扉をコンコンと誰かが叩く。

 

「どうしたの?」

 

 この声はタイタニアかな。


「あ、いや。調子にのってベッドから落ちただけだよ」


 ガチャリと扉を開けると、タイタニアが首をコテンと傾げて立っていた。


「痛みもないし、だい……うあ!」


 慌てて後ろを向く。

 

「大丈夫?」


 後ろから心配気なタイタニアの声が聞こえる。

 

「だ、大丈夫だけど、タイタニア……パジャマのボタン」

「あ、寝る時は脱いじゃうの。だって、ここのお布団はとっても気持ちよくて」

「そ、そうか……大丈夫だから、部屋へ」

「うん」

「違う! 入ってくるんじゃなくて、部屋というのは自分の部屋な!」

「そっか。えへへ」


 「えへへ」じぇねえんだよお。「誘ってるのか? 俺をおお」と邪な考えが浮かぶが、彼女の様子からしてそんなつもりじゃあないことはすぐに分かった。

 これでも初めて会話を交わした時には「お礼」とか言って服を脱ぎ始めたんだよなあ。

 あの時は意味を分かってて俺に言ってきた。それなのに、どうしてこうも荒事以外はお子様なんだよ! 極端過ぎるってば。

 しかし、一つ気になることばある。決して俺の煩悩とかそんなもんじゃなくて……。

 

「下着ってつけてないの?」


 聞くべきか迷ったが、聞いちゃった。

 

「うん。朝起きたらサラシを巻くんだよ」


 サラシと聞いて初日のことを思い出す。あの時彼女は着替えを持っていなかった。

 今のように下に何もつけぬまま髪の毛からポタポタと雫をたらして、透けて……いや、なんでもない。


「そ、そっか……ブラ」


 さすがにこれ以上突っ込むのはやめようと途中で言葉を飲み込んだ。

 何度も言うが、決してこれは邪な気持ちでも煩悩でもない。純粋に洗濯物を干す時に下着が見当たらなかったから気になっていただけなのだよ。

 いや待て待て俺、彼女の下着はサラシだろ……。


「ブ?」

「それは聞かなかったことにしてくれ」

「うん!」

「あったら着るのかなあ……」

「ん?」

「あ、いや、何でもない」

「うん!」


 やべえ。口が滑りそうで怖い。

 なんか以前も同じようなことを考えていた気がする。


「ねえ、フジィ」

「ぬお。前に回り込んだらダメだってば!」


 タイタニアから背を向ける。

 い、一体なんなんだよお。

 しかし、彼女は俺の気持ちとは裏腹に至極真面目なことを考えていたようだ。

 

「さっきまで何か悩んでいたの?」

「あ、うん。これからどんな街にしていくかなあとかお祭りはどんなのにしようかなあとか」

「フジィ、約束したのに……」


 約束? あ。お互いに何かあったら愚痴を言いあおうって。

 

「ごめん、そんな深刻な悩み事ではないんだよ。どちらかというとワクワクするような」

「そうだったんだ! それならいいの」

「いろいろ作りたいものがあってなあ」

「どんなのなの?」


 後ろからベッドの軋む音が聞こえてくる。

 すっかりお話モードになってしまったタイタニアがベッドに腰かけたのだろう。


「話をする前に、ボタンをしっかりと留めてもらえるかな……」

「うん!」


 しばらく彼女と話をしていると、すっかり目が覚めて盛り上がってくる。

 

「プールって楽しそうだね」

「だろお。あ、でもプールに入るのだったら水着もいるよな」

「水着? 服のままじゃあダメなの?」

「それだと服が水を吸って泳ぐの大変じゃないか。水からあがった後も濡れたままだと気持ち悪いしさ」

「川で泳ぐときは裸か服のままだよ。鎧は脱ぐけど」


 着衣水泳はちょっとなあ。

 腕を組み「うーん」と唸っていたら、タイタニアが俺の肩に手を乗せキラキラした目で見つめてくるではないか。

 

「ねね。フジィ。水着ってどんなものなの?」

「んー。あ、見てもらった方が早いか。下に行こうか。喋っていたら喉が渇いてきたしちょうどいい」

「うん! 紅茶? コーヒー?」

「コーヒーかな」


 階下に降りて、タイタニアがコーヒーを準備していてくれている間にタブレットを眺める。

 水着……男用水着を出そうと思ったけど、考えを改めた。

 彼女に男用水着を見せたらそのまま上半身裸になりそうだもの。

 

 てなわけで女性用水着のカテゴリーを出してみたら、あるわあるわ大量に。タブレットの中の人はどんだけ女性用水着にご執心なんだよと思うほど種類が豊富だった。

 

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