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78.二人でお風呂

 リビングに戻った俺たちはタイタニアの淹れてくれた紅茶を飲みつつ、簡単な挨拶の練習をした。

 そうこうしているうちに、夕ご飯である鍋の中身が煮えてきたぞお。

 今日のメニューはブロッコリー、人参、鶏肉、タマネギ、じゃがいもなどをコンソメで煮込んだ簡単煮込み料理だ。これをフランスパンと一緒に食べる。


「そろそろご飯にしよう」

「うん!」


 真っ先に椅子から立ち上がるタイタニア。

 さっきからいい匂いが漂っているものなあ。


「ワタシは食べてきました」

「せっかくだから、少しだけでも食べる?」


 女装したマルーブルクことフジデリカは、柔らかな笑みをたたえコクリと頷きを返す。


「ふじちま、タイタニアが尻尾を振っているように見える」

「尻尾はないけど、たしかに!」


 タイタニアって案外食いしん坊さんなのかもしれないと最近思ってきたんだ。

 しっかり食べるし、食事前の彼女ときたら……よだれこそ出さないけど顔が、ね。

 小さい子供が新しく買ってもらったおもちゃを開封する前のような、そんな感じなんだよ。

 見てて微笑ましくなってきて、もっと見ていたいなと意地悪したくなってしまう。

 でもお預けしたら、とても悲しそうな顔になるからほどほどにしておかないとダメなのだ。この塩梅がなかなかもって難しい。


「タイタニア、そこの深皿を出してもらえるかな。ワギャンはそっちに入ってる籠を。まる……フジデリカは机を拭いてもらえる?」


 それぞれに指示を出し、鍋をかき混ぜてからタイタニアの持ってきてくれた深皿に料理を盛る。


 ◇◇◇


 シンプルだけど悪くない出来だった。タイタニアが何度かおかわりしてくれたから、残り物も出ずに完食できたんだぜ。


 夕ご飯で満足したのも束の間、俺は……どうすりゃいいか困っている。

 タイタニアがフジデリカと一緒に風呂とか言うものだから、俺とフジデリカは彼女の提案を回避すべく手を尽くしたのだ。

 しかし、マルーブルクよ。その切り返しは悪手だろ!


「ワタシは良辰さんと入りますので」


 フジデリカはさらりとそんなことを言ってのけた。

 彼と目を合わすと、天使の微笑みを浮かべとるやないか! こ、これは、マルーブルクさんのドエスモード発動の印……。


「え? フジィはいつも一人がいいって?」

「そ、そうなんだ。フジデリカ。一人ずつ入った方がゆっくりと浸かることができるだろ? 湯船に入ったら言っていることがわかるって」


 タイタニアの言葉に被せるように勢いよくまくし立てるようにフジデリカへ向け声をかける。

 

「使い方も分かりませんし、何分初めてなもので。良辰さんに教えてもらいたいなあと」


 い、いや、マルーブルクと一緒に入るのは構わんといえば構わんのだけど、男同士だしさ。

 でもな、ちくしょう。分かっている癖に遊んでやがるな。

 

「だったらみんなで入る?」

「せ、狭いだろ……三人一緒とか」


 ほらあ、タイタニアがこう来るだろ。


「タイタニアさんは良辰さんとご一緒したことがなかったんですか?」

「うん。そうなの。別々だとお湯も勿体ないし……」


 こらああ、更に煽るんじゃないってば。


「お湯のことは気にしなくていいって何度も言ってるじゃないか。ささ。先に入っちゃいなよ」

「全部フジィの魔術だから、気にしなくていいんだよね?」

「うん。その通り」


 どうだー。うまく言いくるめたぞ。

 とフジデリカの顔を見やると、嫌な予感しかしない「いい笑顔」を浮かべているではないか。

 

「魔術ってことは魔力を使うんですよね。休むためなのに疲れちゃうじゃないですか!」

「言われてみれば確かに……」


 ぐ、ぐうう。マルーブルクと知恵比べは分が悪すぎる。タイタニアの風向きをあっさりとひっくり返しやがった。

 フジデリカはタイタニアの両手をぎゅっと握り、彼女の顔を見上げる。

 

「三人は狭いとのことですので、ワタシは後から良辰さんに教えてもらいます! お先にお二人でどうぞ!」

「じゃあ、お言葉に甘えて。フジィ」


 いや、そんな純真な目で俺を見つめてこないでくれ……。

 あれ? でもさ、何で俺、タイタニアと一緒に風呂に入ることを逃れようとしているんだっけ。

 女の子と一緒にお風呂なんて役得じゃねえの? 万歳こそすれ嫌がることなんてないじゃないか。

 

 いやいやいや。ブルブルと首を思いっきり振り煩悩に負けそうになった自分へ心の中で喝を入れる。

 彼女が男と一緒に風呂へ入る意味を俺と同じように捉えていてくれるなら、一緒に風呂へごーごーすることは大歓迎だ。

 しかし、彼女は邪な気持ちなど一切抱かず素っ裸で入ってくるんだぞ。そんな彼女に冷静に対応できるわけねえじゃねえか!

 俺は彼女の親じゃあないし、兄弟でもないからな。煩悩を抜きに彼女の裸を見るなんてことはできない。

 見たくはないわけではないんだが……悩ましい。いやもういっそ……ゴールしてもいいんじゃないか?

 

 一人百面相しつつ、ぐるぐる頭の中で考えが堂々巡りをしている最中、救世主の声が俺を呼ぶ。

 

「ふじちま、入らないのか?」

「お、ワギャン。一緒に入らないか?」

「構わないが、珍しいな」

「じゃあ、そんなわけで、ワギャンと入ってくる!」


 タイタニアらの意見なぞ聞かず、俺はそそくさとワギャンと共に風呂に入ることにしたのだった。

 モフモフやあ。モフモフ天国が俺を待っているぜええ。

 さっきまでの混乱は何処へやら、上機嫌に脱衣所で服を脱ぐ俺なのであった。

 

 ◇◇◇

 

 風呂から出てきたら、フジデリカの姿が見当たらなかった。

 

「あれ? フジデリカは?」

「さっきフレデリックさんが来て、帰っちゃったよ」

「そっか。彼女も大変だなあ」

「お仕事か何かだったのかな?」

「たぶん」


 一体何があったんだろう? 

 この世界では夜に仕事をすることはほとんどないって聞いているんだけどなあ。

 理由は灯りがないからだと思う。

 ランタンとかはあるけど、蛍光灯みたく部屋を真昼のように明るくはできないからな。

 

「あ、タイタニア。次どうぞ」

「うん。明日は一緒に入ろうね!」

「え、あ……考えておくよ」

「わたしは気にしないよ。男の子と混じって水浴びをしたことは何度もあるから」


 「気にしないのが問題なんだよ」と喉元まで出かかったが、言ってしまうと俺の煩悩を全て説明しなきゃならなくなるからぐっと堪えた。

 風呂へ向かうタイタニアの後ろ姿を見つつ、タブレットを手に出現させる。

 

 今日はこの後お勉強をするから、アルコールはやめておこう。

 コーヒー牛乳と……もう一つ。

 お、あったあった。目的の物はすぐに見つかった。

 

「ワギャン、宝箱の中に入っている物を出してもらえるか」


 ちょうど脱衣所から出てきたワギャンへ声をかけた。

 彼はすぐに宝箱からコーヒー牛乳ともう一つのアイテムを出しダイニングテーブルの上に置く。


「ワギャン、その道具は君へと思って」

「これは?」

「それは、背中を洗う用のブラシだよ」


 そう、もう一つのアイテムとは取っ手のついた風呂用ブラシだったのだ。

 ワギャンは腕が短いから背中へ手を届かせることに苦労していた。だから、彼が楽に背中を洗えるようにと思ってさ。

 

「明日使わせてもらう。ありがとう。ふじちま」

「おう!」


 しばらくするとタイタニアが風呂からあがってくる。

 やはりというかなんというか髪の毛がそのままだったから、ドライヤーで乾かし、彼女の髪の毛を整えてから括った。

 牛乳を飲んでからお部屋でお勉強と行きますか。

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