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71.いざこざ?

 タイタニアが眉根を寄せ、左腕を横にし指を差す。


「あっちの方で大変なことに」

「大変……? 少し詳しく説明してくれないか?」

「う、うん。あのね、公国の人と獣人の人が言い合いになってるの」

「枠の外か!」

「ここに来る途中で近くの人にクラウスさんを呼んでもらうように言ってきたけど……」


 クラウスが来てくれるのはありがたい。とにかく現場まで行って何とか彼らを(いさ)めないと。

 お互いの言葉が通じないんだ。変な誤解から騒ぎが大きくなり、致命的な亀裂になることもありえる。

 喧嘩のきっかけなんて、ほんの些細な事からはじまる場合が多々あるんだ。


「タイタニア、先導してくれ。ワギャンもできれば一緒に来て欲しい」

「うん」

「もちろんだ」


 前を行くタイタニアの後ろから土地を購入して行き、現場へ向かう道を作っていく。

 隣にいるワギャンが「相変わらず……荒唐無稽なとんでも魔法だな……」と呟く声なんて俺には聞こえていない、聞こえてなどいないさ。


 公国は農業、獣人は畜産を枠の外で行う予定だし、彼らが狩りや山菜を集めたりするのも外に出なければならないだろう。

 東と西はともかく、南北は接触する可能性が元より高かった。でも、最初の頃は積極的に南北で活動するとは思っていなかったんだ。


 はやる気持ちを抑えつつ、漏れが無いように土地を購入し続ける。

 十分ほど北へ進んだところで、人間の集団と獣人の集団が睨み合っている姿が確認できた。


「一体何をしているんだ?」


 手で押していた自転車を停車させてから、偉そうに上位者の演技で群衆に呼びかける。

 俺の声を聞いた群衆は一様に俺の顔を一瞬だけ凝視して……前を向き、再び俺の顔を見た。

 近くにいる人同士が顔を見合わせ、さーっと血の気が引く。


「ち、違うんです!」


 人間の代表者だろうか? 麦わら帽子の中年の男が叫ぶと共に平伏した。

 彼の動きにつられるように他の者も腰を落とし頭を地面に向ける。

 

 一方で羊を連れたコボルトや猫頭の獣人らも小さく固まって、俺の様子をじっと窺っていた。

 猫頭……髭がヒクヒク揺れて、やべえ。さわりてえ。

 おっと、こんな時に何考えてんだ俺は。


「お互いの言い分を聞こう。順番に教えてもらえるか。まずは、麦わら帽子のそこの人から」

「は、はい」

 

 麦わら帽子の男は顔もあげずに緊張した面持ちで返事だけを返してきた。

 や、やりつれえ。


「みんな、腰を降ろしていいから。公国の人は顔をあげて欲しい。俺はここへ怒りをぶつけに来たわけでも罰を与えにきたわけでもない」

「フジィはお話を聞きたいだけなの」

 

 タイタニアが公国の人たちに補足してくれる。

 続いてワギャンも彼女と同じように獣人へ呼びかけた。

 やっぱり二人が直接言ってくれたら、違うな。俺は超越者として認識されているけど、彼らは一般市民な扱いだ。

 ついて来てもらってよかった。

 ようやく落ち着いてきた群衆へホッと胸を撫でおろす。

 

「じゃあ、改めて。ゆっくりでいいから事情を話してもらえるかな?」

「はい」


 麦わら帽子の男の言葉を整理すると、本当にくだらない理由だった。いや、彼らにとってはお互いに舐められないようにするために譲れないことだったのかもしれないけど……。

 農地を作ろうとやってきた公国の人たちは、俺が引いた中央の境界線の近くまで来た。いま俺がいる場所のことだな。

 そこで、同じように家畜を連れて外にやって来た獣人たちと出会う。

 その後どうなったのかというと……

 「ここまでが俺たちの領土だああ」

 「いや、そこは境界線を越えているぞ」

 「いやいや、外側は境界線なんてないじゃないか」

 「なにをおお」

 ……という感じでいざこざになっていたというわけだ

 一応、獣人の代表者にも話を聞いたところ、麦わら帽子の男が主張したこととほぼ同じ内容だった。

 

 んー。どうしたものか。

 確かに枠の外については、明確にお互いの境界線を定めていなかった。

 緩衝地帯的な取り決めをしてもいいんだけど……。

 

「マルーブルクとリュティエに相談するかなあ」

「最初から仲良くは難しいだろうな。僕個人としては、一緒に昼でも食べてくれればいいと思ってるが」

「だよなあ」


 腕を組みワギャンへ頷きを返す。

 最終的には農地と牧畜地の入れ替えも行いたいと考えてたんだよな。雑草を家畜が食べ、糞尿が肥料となり農地として使える。

 農業は連作障害とかもあるって聞くし。農業は一年中やれるわけじゃあない。翌年になったら、再び雑草を抜いてまた種をまくんだろう?

 なら、家畜に雑草を食べさせればいいじゃないか。どっちにとってもお得は話だと思うんだよね。

 俺は専門家ではないから、見当違いのことを言っているかもしれない。でも、こうしてお互いに協力し合うことができるのなら、きっと仲良くやっていけるはず。

 

「お昼……」


 タイタニアがボソリと呟く。

 

「お腹が空いたのか?」

「うん……ううん、違うの! えっと、バーベキュー? だったっけ」

「おお、いいかもしれない。でも、住民全員を集めたら相当な数になるぞ……あ」

「ん?」


 いい事を思いついた。

 旧避難所の土地を全て購入し、我が土地にする。

 その場所で何か催し物をしてみるのはどうだ? 我が土地の中だったらお互いに傷つくことはないから、最悪の事態は避けることができる。

 じゃあ何をするかっていうと……なかなか難しいな。

 うーん。

 

 ――パカラパカラ。

 ん? っていつの間にこんな近くまで騎馬が来ていたんだ。


「よお、兄ちゃん」


 馬に乗っていたのはクラウスだった。珍しく部下を連れておらず一人だな。

 

「おお、来てくれたんだな」

「すまん。ちょっと待ってくれよ。おおおい、お前さんら。一旦解散だ。枠の中へ戻れ。急げよ!」


 クラウスが馬上から声を張り上げ、公国の人たちへ戻るよう促す。

 

「突然、どうしたんですか?」

 

 麦わらの男が食い下がると、クラウスは一言だけ返した。

 

「緊急事態発生だ。急ぎ戻れ。兄ちゃん、獣人にも戻るように伝えてもらえるか? いざこざは緊急事態が終わってからいつでもできるからな」

「分かった」


 ただならぬクラウスの様子に、俺は獣人たちへ一旦枠の中へ戻るよう伝える。

 すぐにゾロゾロと動き始める群衆を眺めていたら、クラウスが馬からひょいと降りて来た。

 

「ゴブリンが出やがったんだ。全住人がゲートの中に入ったら、アクセス権だったか? をいじってもらえるか?」

「それはもちろん。ゴブリンって?」

「モンスターの一種だ。奴らは獣人とは根本的に異なる。詳しくはタイタニアに聞いてくれ。それと、ワギャンにも頼みがある」

「外にいる住民がいないか確認し、俺に報告するよう頼みたいのかな?」

「その通りだ。こっちは確認が取れたら集会場に行く。タイタニアはそのまま連れて行ってくれて構わない」

「分かった」


 ゴブリン……タイタニアの話の中で何度か出ていたモンスターの名前だ。

 こいつらについては、帰り道でタイタニアに詳しく聞けばいい。


「ワギャン、危険なモンスターの集団が公国側へ迫ってきているみたいだ。外に出ている獣人がいないか確認して、集会場まで報告に来てくれないか?」

「分かった。じゃあ、僕は急ぎ戻ってリュティエに伝えてくる」


 すぐにワギャンは自転車の二倍くらいの速度で走り去っていった。

 ワギャンが行ったことを確認したクラウスはグッと親指を俺に向け突き出してから、手綱を引く。

 

「じゃあ、また後でな!」

「うん!」


 残された俺とタイタニアは急ぎ、集会場まで戻ることにしたのだった。

 

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