45.入口つくるよー
残念に思いつつも、ワギャンが乗り物に乗らずで俺だけが自転車なのはちょっとなあ……なんて考えていたら。
ワギャンが「気にしなくていい」と再度言って少しばかり走って見せてくれた。
結果、俺は自転車でワギャンはダッシュで進むことになる。
いやあ、速いのなんのって。扉予定地までは三キロあるんだけど、彼は息一つ切らさず「まだまだ速度をあげてもいい」なんて言うんだもの。
彼が特別なのか、コボルト達はみんなこれくらい走ることが出来るのか……後者だろうなあ。
普段から走り回っているから、自然と体が鍛えられているのだと思う。
さて、そんなわけで扉予定地に来たわけだが……。
「どんな扉がいい?」
「別に扉で無くともいいのだよな?」
「うん」
「目印だけでいい。ふじちまの魔術は『見えない壁』があるのだから、わざわざ扉を閉じる必要がないだろう?」
そうだけど……ここはほら、雰囲気作りってモンがあるじゃないか。
杭が立ててあるだけで、ここが街の入り口ですなんてやると……台無しだと思わないか?
でも、扉を開け閉めする手間がかかるのは確か。じゃあ開けっ放しにすりゃいいだろって話なんだけど、それじゃあ扉の意味が……。
「作りは俺に任せてもらってもいいか?」
「もちろんだ」
いいこと思いついたぞ。
ゲームとか古代ローマの街にあるような入り口にしたらどうだろうか。
扉ではなく「ゲート」。
つまり、左右に柱を立てて柱のてっぺんとてっぺんを繋ぐように横向きの柱を作る。
これなら雰囲気が出ると思うんだ。
よし!
タブレットから「庭・畑カテゴリー」にある石柱やらの一覧を眺めてみる。
パルテノン風の柱、レンガ、電柱、踏切にあるような黒と黄色のシマシマ……いろいろあるな。
後から変更することはできるし、キミに決めた!
「気に入らなかったらいつでも変更するから、言ってくれよ」
「わかった。お前の作るモノに満足しないモノなんてないと思うが」
ワギャンに前置きしてから、緑のマスを合わせて決定をタップ。
出てきたのは朱色の木の柱に上部は細めの同じ色に塗られた丸太風が横に二本。中央に長方形の板……。
そう、「鳥居」だ。
鮮やかな朱色は派手だけど、「ここが入り口だぞ」と目立つから都合がいいと思ってね。
ご利益もありそうだしさ!
見た目だけでなく、鳥居は扉と同様の「個別アクセス設定」ができるんだ。
個別アクセス設定は土台以外にも設定できるアクセス設定で、扉、宝箱、棚、今回の鳥居など様々なものに設定できる。
家の扉とかはそもそも土台自体にプライベート設定を行っているから必要ないんだよね。
だが、今回はこの「個別アクセス設定」が肝になる。
おっと、鳥居に対して悦に浸っている場合じゃなかった。
ワギャンはっと……口を開きっぱなしで鳥居を見上げて固まっているじゃねえか。
「ワギャン?」
不安に駆られ彼の名を呼ぶ。
「これは……素晴らしいな! きっと誰もが気に入る。僕が特に気に入ったのは色だ。鮮やかな明るい赤と言えばいいのか?」
「朱色のことかな」
「朱色というのか。この色、ある種の神々しさまで感じるよ。リュティエ達が見たら驚くはずだ」
よかった。
気に入ってくれたようだ。
なら、獣人側は他の部分も鳥居で行こう。
「えっと、いろいろ説明したいことがあるんだけど……まずは残りの場所に鳥居を設置しにいこう」
「鳥居?」
「あ、この朱色のゲートの名称だよ」
「鳥居というのだな。覚えた」
ワギャンはまだ鳥居を見ていたい様子でソワソワしていたけど、俺が自転車に乗ったところで気持ちを切り替え走り始めた。
◇◇◇
残り三か所に鳥居を設置してワギャンと共に公園に戻って来たところ、フレデリックが背をビシッと伸ばしたまま待っていた。
お、タイタニアも来ているんだ。彼女はさっき俺が遊んでいたようにブランコを漕いでいる。
「待たせてしまったみたいで、ごめん」
「いえ、それほどお待ちしておりません」
フレデリックは柔和な笑みを浮かべ上品に礼を行った。
「ワギャン。鳥居について説明をしたいんだけど、集会場で今晩来れる人だけ集まろうか」
「分かった。じゃあ、また後でな」
ワギャンと別れ、今度は公国側の扉設置に向かう。
自転車を出して……と思ったけどフレデリックに自転車は余りにも似合わないと自重し、今回は徒歩で向かうことにした。
道中、俺とタイタニアが並んで歩き、すぐ後ろからフレデリックが続く。
「一人でもよかったのに。今は受け入れ準備で相当忙しいんだろう?」
「ううん。それほどでもないよ。二人で来たのはどうしてでしょーか?」
えへへっとタイタニアが腰の後ろに両手をやって下から覗き込むようにして見上げてくる。
どうしてなんだろう?
二人のことを深く知っているわけじゃあないけど、美観とか好みとかは正反対なように思える。
もし扉のデザイン案をいくつか提示したら、間違いなく違うデザインを選ぶだろう。
あ、そうか。
「分かった。二人の好みがまるで違うけど、二人とも満足できる案なら他の人たちも気に入ってくれるだろうと思ってかな?」
「すごーい。その通りだよ」
タイタニアは驚いたように目を見開き、パンと手を打つ。
それに加え、フレデリックがパチパチと俺に拍手を送ってくれた。
のんびりとしたピクニック気分で進んでいたらすぐに扉設置予定地まで到着する。
ぽかぽか陽気なことも後押しして、レジャーシートでも開いてお弁当を食べたい気持ちになってきた。
いかんいかん。扉だったな。
「扉タイプとゲートタイプの両方設置できるけど、幾つか見てみる?」
「ゲートタイプでも『特定の者を通すこと』には、変わらないのでしょうか?」
「うん」
「ならば、ゲートタイプがよろしいかと。藤島様の魔術を利用するとなりますと、歩哨が必要ありませんので」
「なるほど。確かに」
ゲームや現代でもお城の入り口とかには、兵隊さんや警備員さんが入り口を固めているじゃないか。
彼らが怪しい奴が入り込まないよう、問題が起きないように監視をしている。
入口を監視する人がいるのなら、彼らが安全かどうかの確認を行いつつ扉の開閉を行って街の治安を確保するのだ。
しかし、俺のアクセス権限は決められた人しか侵入できないので、監視を行う必要がない。
だから、人を扉の前に立たせなくて済む。
それなら開けっ放しのゲートって結論になるよな。
「それじゃあ試しに設置してみるよ」
二人に声をかけてから、タブレットを操作しどれがいいかなあと物色する。
鳥居でもいいけど……まずはこれだな。
「お、おお! これは……!」
「威風堂々? って言えばいいのかな? こんな見事な彫刻をわたしは見たことが無いよ」
驚きで固まる二人。
鳥居もそうだけど、こちらも草原の中にぽつんとあったら場違い感が凄い。
一発目はゴージャスなゲートを選択した。
こいつは、真っ白な石を積み上げてアーチ状になった凱旋門風な作りをしている。それだけでなく、柱の部分や上部に細かな彫刻が施され、中央上部には金縁の見事な鷹が彫られているのだ。
「藤島様。これほど見事な建築物を私はこれまで見たことがありません」
感じ入った様子で感動を露わにするフレデリック。
しかし、彼は残念そうに首を振り言葉を続ける。
「ですが、公爵様が住むクリスタルレイクの街にある凱旋門より豪華絢爛な作りは憚られると思うのです」
「了解。同じような作りで彫刻が無いタイプもあるけど、どうだろう? あと、獣人側に設置したゲートも出してみようか?」
「お願いいたします」