31.自分へのご褒美
どうもマルーブルクと会話していると自分のペースが乱されるな。
悪い気はしないんだけど、なんだか手のひらの上で転がされている感が……。こんな少年にいいように扱われるなんて大人の威厳がまるで無いな、俺。
まあいい、細かいことは後から決めるとして、俺からも彼へ確認しておきたいことがあるんだ。
「今ここへ来ているのは兵士だよな? 人の入れ替えをいつ行うんだ?」
「半数は本国へ戻る。戻った兵士が護衛となり、農業従事者や農具、農耕用の家畜をつれてここへ来る予定だよ」
「だいたいいつくらいになりそう?」
「明日の朝、兵士が出立する。戻ってくるのは……はやくて二週間後かな」
「それまでの間、残った兵士はどうする? それに彼らの糧食は?」
「糧食は問題ないさ。すぐ後ろに補給部隊がいる。彼らから全ての物資を受け取って補給部隊は解散するんだよ」
おお、ちゃんと計画性を持って動いていたようだ。マルーブルクのことだからぬかりはないと思っていたけど、これなら細かいことを聞かずとも問題ないな。
「じゃあ、農地開拓を開始するのは二週間後からかな? それまでにこまごましたことを決めていけばいいか」
「開拓は明後日から行うよ。補給部隊から物資を受け取りここへ運び込むまでは、今日中に完了予定だからね」
「ん?」
「残り半数の兵士を遊ばせておくわけないだろう? 彼らは今後ここへ暮らしつつ、危急の際には兵士となる」
「屯田兵か」
「屯田兵? 聞かない言葉だけど、半数は占領地で開拓を行うことを見越した兵だったんだよ」
屯田兵って言葉は通じなかった……どこからどこまでが翻訳されて伝わっているのかよく分からんな。
それはともかく、すぐに開墾作業がはじまるってことだ。
「安心しなよ。タイタニアはキミとの伝令役としてここに残すから」
「……聞いてないんだけど」
「またまたあ。『よかった』って思ってるだろう?」
「……間違ってはないけど」
俺の好み云々は抜いても、タイタニアが橋渡し役として一番適していると思う。
感情を抜きにして利点だけを述べるなら、彼女は俺がハウジングアプリで出す食事のことを知っており、秘密も共有済みである。
加えて、彼女はこれまでの様子から顧みるに俺の事を外部に漏らしたりしていない。
きっと彼女はマルーブルクから俺のことを何かと詮索されているはずなんだ。
だけど、彼は俺が出す現代風の食材に関して知らなかった様子……つまり、タイタニアは伝えてくれと俺が頼んだこと以外は彼に俺の情報を渡していない。
マルーブルクはとても頭がキレる。
俺が考えるような事情は察していて、俺の感情も考慮し子飼いの護衛二人のどちらかじゃなく、タイタニアを指名したんだと思う。
彼の物言いはアレだけどさ……。
チラリと彼へ目を向けると満面の天使の微笑みを返してきた。
「あれは天使じゃねえ、悪魔だあああ」とか言ったらまたいろいろいじられるんだろうから、言わないでおいてやる。
「そんなわけで、明日からどんどん開墾をしていくから」
「分かった。マルーブルクと定期的に会議をしたいんだけど、大丈夫か?」
「もちろんさ。最初は二日に一回。何かあればすぐに集まれるようにしよう。ボクの家はキミの家の隣に建築しようと考えているからね」
「家かあ。建材とかはどうする?」
「馬車で一日以内の距離に林がある。更に行けば深い森に入るけど……まあ、その辺は適当にやるさ」
「分かった。俺が言うことじゃないけど、この辺りの気候とか何が育つのかとか把握しているのか?」
「ボクも専門家じゃないからね。農業従事者と本国の専門家が来るまでは、草抜きと土の掘り起こしだねえ」
「気候のことは俺にも共有してくれないか?」
「了解。植生でだいたい分かるみたいだけどね」
「今日のところは挨拶代わりと思っていたし、またおいおい詰めていく感じでいいかな?」
「うん。いろんな問題が出てくると思うし……これからもよろしくな」
「こちらこそ」
立ち上がり、マルーブルクと握手を交わす。
◇◇◇
タブレットでメニューを眺めながら、カップ焼きそばを食べていた。
いたんだが……どんどんゴルダが増えていってるんだ……。何事だと思ったけど、マルーブルクらが原因だと分かった。
窓から外を眺めるとだな、人間たちがゴミ箱へ壊れた武器などの廃棄物をまとめて捨てていたんだよ。
使えなくなった折れた武器でも穴の開いた防具であろうとも、買取に問題ない。鉄の塊をそのまんま入れても買取可能なくらいだしな……。
彼らがゴミ処理を終える頃――。
『現在の所持金:八十二万五千十二ゴルダ』
になっていた。
素晴らしい。やってよかった戦争阻止!
もう充分な報酬を頂いたよ。ひゃっほーい。
昨日の草食竜の鱗といい、おすそ分けとゴミ捨てでどんどんゴルダが溜まっていく。
ゴルダに余裕ができたとなると、以前からやりたかったことを実行しようじゃねえか。
「よし、家を建て直そう」
どんな家にしようかなあ。
タブレットへ「建物建築」や「内装」の一覧を表示させてみたけど……家を一から全部作るカスタマイズモードは敷居が高く感じる。
そもそも俺にデザインセンスは皆無だし、数百種類もあるパーツを組み合わせるなんて面倒極まりない。
……そんなわけで、事前に準備されたクラシックモードで家を建てることに決めた。
クラシックハウス一覧を眺め……興味本位だった前回と異なり、今回は真剣に吟味する。
『名称:大理石の庭がある家(二階建て)
サイズ:縦十五、横十五
価格:十二万五千ゴルダ
付属品:宝箱(大)、電気、トイレ、キッチン、浴室、モニター、ベッドなど家具付き』
『名称:南欧風ヴィラ(二階建て)
サイズ:縦十一、横十一
価格:八万二千ゴルダ
付属品:宝箱(中)、電気、トイレ、キッチン、浴室、モニター、ベッドなど家具付き』
『名称:堅牢な石作りの砦(五階建て)
サイズ:縦十五、横十五
価格:二十一万二千ゴルダ
付属品:宝箱(大)、電気、トイレ、キッチン、浴室、モニター、ベッドなど家具付き』
『名称:ログキャビン(二階建て)
サイズ:縦十二、横十
価格:八万二千ゴルダ
付属品:宝箱(中)、電気、トイレ、キッチン、浴室、モニター、ベッドなど家具付き』
『名称:テラス付き砂岩の家(平屋)
サイズ:縦九、横七
価格:四万ゴルダ
付属品:宝箱(小)、電気、トイレ、キッチン、浴室、モニター、ベッドなど家具付き』
『名称:お店のできる家(二階建て)
サイズ:縦十五、横十四
価格:十二万三千ゴルダ
付属品:宝箱(大)、電気、トイレ、キッチン、モニター、浴室、金庫、レジ、商品棚、ベッドなど家具付き』
いざ並べてみると、いろいろあり過ぎて選びきれないな……。
これ以外にも多数あるけど、ネタっぽい家もある。しかし、和風の家は一つもないんだな。
カスタマイズパーツには瓦とかあるのに。建築したかったら自分でやれってことか。
「んー。どれにするかなあ……」
俺の家選定は深夜にまで及んだのだった。
残り二つまで絞りこんだんだけど、結局決められなくて最後はコイントスで決めることに。
明日、さっそく建築するとしようかな。
ワクワクしながら、床の上で就寝する俺なのであった。
明日より一日一話になる予定です!
ここまで高速更新にもかかわらず連日お読みいただきありがとうございました。
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完結までがんばります。