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230.えらいことになった

 ゴトリ――。

 部屋の隅にある宝箱(小)から聞きなれた音が響く。

 

 うきうきした様子でアイシャが宝箱の元までスキップして、さっそく宝箱を開ける。

 タイタニアはまだ髪の毛から雫が垂れているし、フェリックスはドライヤーを持ったまま彼女の後ろで首を振っていた。

 

「フェス。俺がタイタニアのドライヤーをやるから。そこに座っていてくれ」

「了解いたしましたわ」


 フェリックスを椅子に座らせ、洗面所でタイタニアの後ろに立って彼女の長い亜麻色の髪にドライヤーを吹かす。

 ブオオオオン。

 聞きなれた音とともに熱風が勢いよくタイタニアの濡れた髪を乾かしていく。

 櫛で彼女の髪をとかしてっと。

 

「これで、いいだろ」

「ありがとう。フジィ」


 タイタニアは首だけを後ろに向け、ほんわかした笑顔を見せる。


「髪が長いと乾かすのも大変だな」

「伸びちゃうんだ」

「伸ばしているんじゃなかったんだ」

「髪を切るのに自分じゃあうまくできなくって、フジィは長い髪が好きなの?」

「俺?」


 タイタニアの何気ない言葉に、周囲の視線を感じる。

 言われてみると女性陣はアイシャを除き、みんな髪の毛が長いな。

 リーメイはセミロングくらいだった記憶があるけど……美容院とかもないから、確かに髪の毛を整えるのも大変かもしれない。

 男はみな髪の毛が短いけど、マルーブルクやフレデリックはともかくクラウスなんて、適当に髪の毛を掴んで切っていそうだ。

 おしゃれに整えるとなると、ショートじゃ難しいからロングになっちゃうのかな。

 

 そういや、俺もそろそろ髪の毛を切りたい。

 長くなってきた前髪を指先でつまみ、眉をひそめる。

 

「ねね、どうなの? ふじちまくん」

「んあ?」


 宝箱の位置から動かず、待ちきれなくなったご様子のアイシャがウサギ耳をぴょこぴょこと揺らす。


「長いのと短いのどっちが好きなの?」

「特に好みは……ないんだけど……」

「ふうん」


 アイシャが指先を唇に当て、片目をぱちりとつぶる。

 何だよ。その含んだ態度は……。

 

「ええい、そんなことより、とっとと俺の服を決めよう。アイシャ、箱の中にある服を全部持ってきてくれ」

「ほおい」


 宝箱の前でしゃがんだアイシャが、ゴソゴソと中から服を取り出しベッドのところまで戻って来る。


「床に並べようか」

「うん!」

 

 アイシャが持ってきた服を床に置き、フェリックスとタイタニアが整えて行く。

 うむうむ。壮観だ。

 五着も出したからなあ。

 

「フジィ、これ、全部同じに見えるんだけど……」

「良辰様がお召しになっている物と同じでは?」

「ふじちま君。同じものを出しても選べないみゅ」


 三人が揃って同じようなことを口にする。

 全く失礼な……違いが分かる人にならなきゃダメだぞ。

 まず、そもそも色が違う。二着は紺色で三着は黒だ。

 紺色のうち一着は無地で、もう一着は肩口から白のストライプが入っている。

 黒の方も一着は無地で、残り二着はストライプ入りでそれぞれ色が違う。

 うん、もちろん、全て「ジャージ」だよ。

 やはり、動きやすいことを考えるとジャージに限る。そして、ジャージといえばスポーツシューズだろ。

 靴は今身に着けているものでいいだろ。それほど目立つ箇所じゃないしなあ。

 

「どれがいい? シンプルな黒の無地でよくないか?」

 

 フェリックス、タイタニア、アイシャと順に目を向けるが、何でか知らないけど全員苦笑しているじゃあないか。

 いつも笑顔で元気なアイシャまでもが、困惑したように口元をヒクヒクさせている。いや、口元だけじゃあなく、右耳が半ばほどでしなあとなっていた。

 

「よ、良辰様のお好みでいいのではないでしょうか」


 沈黙を破り、フェリックスが提言してくる。

 うんうん。

 俺のセンスに問題がなかったってことだよな。マルーブルクの杞憂ってやつだ。

 

「よっし、じゃあ、黒の無地でいこう」

「ふじちまくん、他のはないのかみゅ?」

「他のデザインか。青や金色のストライプはあるけど……」

「そうじゃあなくって。マントとか鎧とか」

「あった気がするけど……」

「ねね、そういうの見せてみてみゅ」

「え、あ……うん」


 他のは衣装負けしそうだから、余り出したくないんだけどなあ……。

 どれどれ。

 

『衣類カテゴリー

 ワイシャツ 二十ゴルダ

 スーツ上下 二百ゴルダ

 ジーパン(青) 三十ゴルダ

 チノパン(ベージュ) 二十ゴルダ

 ……』

 んー。アイシャが言っているのはこういった日本社会で通常着ているようなものではないだろうし。

 メニューをどんどん切り替えていくと、目的の物を発見する。

 

『衣類カテゴリー

 プロテクターとマントセット(暗黒) 二十ゴルダ

 絹のローブ(純白)百五十ゴルダ

 冒険者風おまかせ一式 五百ゴルダ

 トーガA 三十ゴルダ

 トーガB 三十ゴルダ

 マントA 二十ゴルダ

 マントB 二十ゴルダ

 チュニックA 二十ゴルダ

 革鎧ノースリーブ 百ゴルダ

 ……』

 一式系とアルファベットが並ぶ単品系……いろいろあり過ぎて何が何やら。

 残念ながら服のカテゴリーは写真が付属していないから、注文してみるまでどんな見た目なのか判別できない。

 

「じゃあ、適当にポチっと」


 アイシャの希望通りマントを含めて、冒険者風お任せセットとローブ(白)、マント(白)を注文してみる。

 ゴトリ――。

 音が鳴るや否や、宝箱に集まる三人。

 

「こういうのがいいみゅ! ふじちまくん、いいものを魔力で編めるんだみゅ」

「カッコいいと思います!」

「導師様ぽいよ、フジィ」


 三人が揃ってきゃーきゃー言っているけど、嫌な予感しかしない。

 ええっと、いそいそと持ってきてジャージが片付けられ、床に件の衣装が置かれる。

 うわあ……。

 俺から見て右手には胸だけを覆う茶色の革鎧、こげ茶色の革のブーツ、紺色のシャツと腰にホルダーの付属した革ベルト。これが、冒険者風お任せセットかな。

 左手には膝下くらいまでの長さがある純白のローブだ。ローブというよりはコートのように思えるけど……コートの方がまだ動きやすいからこれはこれで良しだ。

 このローブは首元に金糸の刺繍が施されており、裾は赤色でレリーフみたいなデザインが入っている。派手過ぎるだろ。

 

「あとは、これ!」


 にこにこしたタイタニアがじゃーんと両手で掲げたるは純白のマントである。

 うわあ。背中に金糸でグリフォンの刺繍が入っているぞお。

 目立つ、マジで目立つ。

 これで、「導師です」なんて真顔で言う自信がないって。

 

「ふじちまくん。着てみるみゅ」

「えー。サイズがなあ」

「きっとピッタリだよ。フジィ!」


 戸惑う俺にいつの間にか後ろに回り込んだタイタニアが、革鎧を背中合わせにしてしまう。

 よ、余計なことを。

 

 ――しばらくお待ちください。

 期待のこもった三人の目に勝てず、結局は洗面所で着替えてしまった。

 うわあ。

 マントがヒラリとして、こう借りてきたなんとか見たいになっちゃてるよ。

 

 ところがどっこい。


「素敵です!」


 フェリックスが両手を胸の前で組んで頬を染めている。


「カッコいいよ!」


 タイタニアもフェリックスとよく似た感じで頬を紅潮させているしい。

 

「うん! それで行こうみゅ!」


 アイシャもアイシャでその場でぴょんぴょん跳ねてる。

 

「う、うう。仕方ない。これで行こう」


 明日だけだ。明日だけなんだからな。

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