226.派手に行くぜ?
やんややんやと喋っているうちに、目的地付近まで到着した。
森林地帯の中にポッカリと開けた街というのがクリスタルパレスの第一印象だ。
東側は小高い丘になっており、丘の上には森林が広がる。
街を挟んで反対側は街の名前の通り湖が見えた。この湖は相当広く、街の面積どころか水平線の向こうまで目を凝らしても先が見えない。
琵琶湖なら見たことあるけど、あれくらいの広さはありそう。
今俺たちのいる場所は丘の上なんだ。なので、街を見下ろすことができているってわけ。
車を停車させ、全員が外に出て今に至っている。
「美しい街だな」
街と湖を見下ろし、鼻をひくりと動かすワギャンは、感心したように声を漏らす。
彼の言う通りだ。
この景観が地球にあったとしたら、景勝地として有名になっているに違いない。
そうとくれば、これだろ。
持ってきた双眼鏡を構え中を覗き込む。
「うほお」
湖の透明度がやべえ。風によって漣立っているだけの湖面が幻想的にさえ見えてくる。
「聖者様、それは?」
変な声をあげていたら、横にいたフレイから疑問の声。
「これは双眼鏡といって、遠くのものがよく見える。ほら」
フレイに双眼鏡を手渡し、覗き込む仕草を行うと、彼女も真似して双眼鏡を目元に持っていった。
「素晴らしいです! 誰にでも使用できる遠見の魔道具なのですね」
「うん」
「それにこの魔道具は、魔力を消費せず使えるのですね」
「ん?」
何その設定?
フレイは双眼鏡から目を離さぬまま何気なしに言った言葉だろうけど、魔道具ってそんなものだっけ?
「魔族の魔道具は魔力を使うのか」
俺と同じ疑問をワギャンが言ってくれた。
いいぞ、ワギャン。そうだろそうだろ。
「魔族の魔道具は魔力を使うのです。ガーゴイルが代表格ですね」
「そういうものか」
ワギャンは特に疑問を見せることもなく、あっさりと納得したようで頷きを返す。
「魔力を込めずに済む魔道具は魔族の社会にもございます。ですが、大掛かりなものになればなるほど、魔力を込めるタイプのものになります」
「そういうことか。理解できた」
「さすが、聖者様です。聖者様に理解が及ばぬことだろうと理解はしております。聖者様には必要のないことなので、思いもしなかったところでしょうし」
フレイが双眼鏡を俺に手渡し、頭を下げた。
ああ、そういうことか。ガーゴイルも魔道具に含むのね。すっかり忘れていたよ。
魔力を電気に言葉を代えると分かりやすい。小さな道具は電池で動かすことができるけど、大型家電になれば話は別だ。
電池程度のエネルギーでは動かすことができないから、外から電気を補う。
ハウジングアプリの製品は車だろうが、追加エネルギー無しで動くからな……ガソリンを与えずとも内包されたエネルギーだけで動く。
「観光はそろそろおしまいでいいかい?」
腕を組み、クリスタルパレスの街を見下ろすマルーブルクが小首をかしげる。
「うん。どこに建てようかな」
「そうだね。ここでいいんじゃない?」
「街からでもこの辺は見えるのかな?」
「少し遠いかもしれないね。だけど、この場所はとても分かりやすい」
「だな。それならそれで、街まで豪華な道を敷こう」
「キミらしいね」
クスクスと子供っぽく笑うマルーブルクと彼に熱視線を送るもうダメな感じなフレイ。
ワギャンは朗らかに。タイタニアはいつものふんわりとした笑みを浮かべる。
いつも通り。いつも通りだ。
いや、一人様子が違うのがいるな。
「フェス?」
「……っつ。すいません。良辰様。ぼーっとしてしまいまして」
フェリックスはグラーフの街を出てからずっと言葉数が少ない。
ジェレミーが付き添ってくれているから大丈夫とは思っていたけど、少し心配だ。
「やっぱり、自分の故国だもんなあ。それも父が公爵だし……引いてもいいんだよ。フェス」
「いえ。それは絶対になりません。わたくしは立つと決めたのです。尊敬する良辰様のお言葉でもそれはなりません」
「そ、そうか」
「そ、それに……」
何故か真っ赤になるフェリックス。
どこかに恥ずかしがるポイントがあったっけ?
「ヨッシー。この後、作戦会議をしたい。キミの建物の威容にクリスタルパレスがどう反応するか次第だけどね」
「分かった」
俺の疑念を敏感に感じ取ったのかマルーブルクがすかさず口を挟んできた。
フェリックスのことは気になるけど、先に建物だな。
タブレットを右手に出し、クラッシックハウスを眺める。
アップデートにより結構な数が増えているけど、うまく目的に一致したものがあるかなあ。
カスタマイズハウスのパーツも増加しているからそっちでもいいんだけど……今回は見栄えが大事。
できれば、俺のセンス任せになるより最初から完成形になっているクラッシックハウスが望ましい。
派手で……目立ち……結構な高さもあって……。
候補は二つ。
『名称:七重塔(七階建て)
サイズ:縦四十、横四十
価格:四十二万五千ゴルダ
付属品:宝箱(大)、電気、トイレ、キッチン、モニター、ベッドなど家具付き』
『名称:特戦隊本部ビル(二十階建て)
サイズ:縦七十、横百十五
価格:百八十万ゴルダ
付属品:宝箱(大)、電気、トイレ、キッチン、モニター、ベッド、司令部セットなど家具付き』
いや、やっぱ下は無し。
ここは和風建築物の七重塔で行こう。
司令部に心惹かれた俺がバカだった。危うく目的を忘れるところだったよ。
「結構大きいから、みんな少し離れて欲しい」
タブレットに外の風景を映しこむと、さすがにサイズがサイズだけに結構な幅を取る。
高さもグラーフにある塔より高いからな。
この辺でいいか。
丁度丘が下り坂になる手前のところに照準を合わせ、決定をタップする。
いつものことながら、一瞬で音も立てずに七重塔が実体化した。
「ちょっと、派手だったかもしれん……」
目立つようにと思って選んだんだけど、映像で見るのと実体化した建物を見るのとではやっぱり全然違う。
建物の形は五重塔とかそんな伝統的な和風神社仏閣にあるような建造物なんだ。
だけど、壁が金箔で覆われ、屋根は朱色に塗られている。八階部分の屋根からは金色の丸い球体が三個重なり、その上に針のような串が伸びている。
団子かよと心の中で突っ込んだのは秘密だが、この部分も金ぴかだった。
やり直した方がいいかな、これ……。
「なあみんな」と声をかけようとしたところで、フレイの声が先んじる。
「天界の建物を再現したのでしょうか」
フレイがその場に両膝をつき滂沱の涙を流しちゃっているじゃないかよお。
「天ですか。さすが魔族の方は博識ですね。これが天界の建物。ため息しかでません」
フェリックス。違う、それ違うから。
「すごいね、フジィ。天界の建物まで再現しちゃうなんて」
「このような巨大建造物が天にあるのか」
タイタニアとワギャンも信じちゃあいけません。俺は一言も天界のなんて言ってないだろ。
「予想以上の建物がきたね。これなら、何の問題もないんじゃないかな。さすがは導師サマかな」
軽い口調ではあるが、マルーブルクの額からはたらりと冷や汗が流れていた。
うわあ。
「やり直していいかな」なんてことを言えなくなってしまったぞ。




