223.倉庫ミーティング
港の倉庫は何というか、撮影にでも使うのかといういかにもな雰囲気だった。
ブツを取引する悪人たち。
「ご用命に預かりましたブツです」
「マフィアのそちも悪よのお」
「そちらこそ、くふくふ」
……なんてやっていても不思議ではない。
もちろん現実で、ではなくドラマや映画なんかのベタベタなシーンで。
「フジィ、この机を真ん中に持って行ったらいいの?」
中の風景に変な妄想に花開かせていたら、タイタニアが折りたたみ机の前で首を傾げていた。
「うん。俺も手伝う。机を真ん中にその後椅子を並べよう」
壁ぎわに整然と並んだ折りたたみ机とパイプ椅子をみんなで並べていく。
倉庫は雰囲気たっぷりなのに、机と椅子は公民館だな。いろいろこう、力が抜ける建物だ。
もっとも、微妙な顔をしているのは俺だけだけどね。
日本のことを知らないみんなは、こんなもんだと思って準備を手伝ってくれているのだから。
よっし。だいたい準備は整ったな。
後はお菓子とペットボトルを用意して完了だ。
「それじゃあ、ざっと説明するよ」
机に両肘をついたマルーブルクがフェリックスへ目線を向ける。
「はい。よろしくお願いいたしますわ」
フェリックスが会釈を行う。
対するマルーブルクは肘をついたままこくりと頷き、本作戦の説明をはじめた。
「一言で言うと、今回の作戦は至ってシンプル。クリスタルパレスまで魔法の道を敷く」
「公国を震撼させるため、でしょうか?」
「心理効果は大きいだろうね。本質はそこだけじゃないけどね」
「そうなのですか」
「うん。まあ、いろいろあるんだよ」
「そうですか。いろいろとあるんですね」
え、それで納得しちゃうの? フェリックス。
彼はマルーブルクにそれ以上質問を投げかけようとせず、うんうんと頷くばかりだった。
「マルーブルク」
「いいんだよ。姉様はこれで。あとでジェレミーに説明しておくから」
「お、おう」
澄ました顔でペットボトルに入った水で舌を濡らすマルーブルクである。
「姉様。あれからエルンストの動きはどうなんだい?」
「特に何も……なんです。不気味なほどに」
「ふうん。彼らしいね」
マルーブルクが邪悪な笑みを浮かべクスクスと声をあげて愉快そうに笑う。
久々に見たよ。この顔。
下手に愛くるしい顔をしているから、余計に怖い。
「この分だと特段作戦変更をする必要はないね」
「てことは、フェスに活躍してもらう案で行くってこと?」
「うん。それがいいと思う。せいぜい踊ってもらおう」
マルーブルクの言葉に反応したフェリックスが口を挟む。
「わたくしが踊るのですか? 舞は余り得意では」
「姉様は踊らせる方だから、そうだね。うまくいったらヨッシーに楽しい舞を見せてあげるといいんじゃないかな?」
「そ、そんな……わたくし……良辰様の前でなんて恥ずかし過ぎて」
フェリックスは耳まで真っ赤にして、ずぶずぶと机の下に沈み込んでしまった。
なんだか兄弟間の微笑ましいやり取りなんだろう。うんうん、彼らの間だけで通じる冗談とか仲睦まじいじゃないか。
マルーブルクは昔、兄弟のことを余り好きじゃないみたいな発言をしていたけど、フェリックスのことは嫌っていないはず。
だって、二人ともこんなにも楽しそうなんだもの。
「兄弟っていいね。フジィ」
「だな」
タイタニアも頬を緩ませ、二人の様子を見つめていた。
『パネエッス!』
その時、突如ハトの囀りが。
音が大きすぎて耳がキンキンする。
耳を抑え顔をしかめつつ、宝箱の一番近くにいるワギャンに声をかけた。
「あ、すまん。ワギャン、頼む」
「分かった」
倉庫に入ったら餌をやると言っていたような気がする。
ワギャンは頼むの一言だけで、何をすべきか察してくれた。
彼は宝箱からひまわりの種(業務用)の大袋を取り出し、ビニールを指先の爪で破いてから床に置く。
『うめえっす! うめえっす!』
「うるせえ。静かに食え!」
『パネエッス!』
「だあああ」
餌をあげても煩いハトである。
普通、食べている時って口が塞がるから静かになるんだが、こいつに常識なんて通じない。
ひまわりの種をつっつく、叫ぶ、ひまわりの種をつっつく、叫ぶ……以下ループだよ。
「だいたい会話すべきことはしたんじゃないか? マルーブルクも後は個別に話すと言っている」
「そうだね。この後少し姉様と会話するよ。みんなは解散してもいいよ」
ワギャンの呟きにマルーブルクが返答する。
「そうだな。うん。それじゃあ、俺は倉庫の隣に簡易宿舎を建ててくるよ。塔だと少し距離があるしさ」
「わたしもついて行っていい?」
「うん」
立ち上がったところでタイタニアが俺の袖を引っ張る。
「では、私もお供いたします」
「僕も行こう」
フレイとワギャンも後に続く。
結局、マルーブルクとフェリックス、ジェレミーが残り、そのまま彼らはここで話を詰めることとなった。
◇◇◇
「これは、あの時の建物と同じものでしょうか?」
「うん」
宿舎用に使ったのはプレハブハウス。ガーゴイルの時、フレイを中に迎え入れた住宅とほぼ同じものになっている。
違いは、中にベッドとシャワールームがあることだ。
だけど、シンクはあるもののコンロがないので中で料理をすることはできない。
本当はカセットコンロでも準備するところなんだけど、獣人の戦士たちにもここを使ってもらう予定だから火事の恐れから設置を見送った。
俺やここにいるみんなにはカセットコンロを後から手渡してもいいかなと思っている。
彼らならコンロの危険性を認識し使ってくれるはずだから。
一方で獣人の戦士たちはコンロを使ったことが無いので、危険と判断したんだよ。つまみを捻って、火がどどーんと出てパニックになる可能性もあるからな。
「よおし、どんどん建てるぞ」
正確な数を聞いていないから、とりあえず三十棟準備しよう。
次から次へとプレハブハウスを並べて建てて行く。
こ、こいつは……失敗だったかもしれん。
なんかこう。
何か被害にあって逃げてきたみたいな感じが、いいや気にしちゃダメだ。気にするのは俺だけなのだから。
「これでちょうど三十だ」
「いつもだけど、すごいね。フジィ」
タイタニアが頬を紅潮させ両手を胸の前で握り、喜びを露わにする。
「ワギャン、これくらいで足りるかな」
「大丈夫じゃないか? お前のことだ。足りなければすぐに建築してしまうんだろう?」
「そのつもりだよ。プレハブの数が足らなくて、ぎゅうぎゅうに中に入る事態にならないか心配しててさ」
「そういうことか。それならリュティエに言っておけばいい」
「わかった。もうすぐ到着するかなあ」
「もう少しかかると思う。集団で移動すると思った以上に時間がかかるものだ。それに、お前の魔道具……車だったか? と違い休息が必要だ」
両手を開き苦笑するワギャン。
「ところで聖者様」
フレイがふと思いついたように俺の名を呼ぶ。
「ん?」
「この宿舎は何人まで寝泊まりできるのでしょうか?」
「んー。二人かな」
「そうですか」
この後、誰が俺の宿舎に入るかでひと悶着あったことは秘密だ。
※お知らせ
本作とは雰囲気のことなる別作品の歴史物ですが、2/15に書籍発売の運びとなりました。
タイトル:打倒ローマのやり直しー最強の将ハンニバル、二度目の包囲殲滅陣
なろう版完結済みです。
ハウジングアプリともども、今後ともよろしくお願いいたします。




