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214.恐ろしい世の中

「カラスはいろいろ物知りでな。魔術も使うんだぜ。よろしくやってくれ」

「適当な奴だな。だが、俺はそっちの方が好みだ。くああ」


 後ろにいるからどんな様子かうかがい知ることはできないけど、彼女のことだ。

 まくし立てるようにいろいろ質問をしたくて我慢しているのだろう。

 

「フレイ。ここじゃあなんだし、風呂からあがってポテトチップスにビールでも飲みながら会話しよう」

「そうと決まればとっとと風呂から出ろ」


 くああと威嚇しつつ、カラスが嘴を振るう。


「だから、いちいち突っつくなって! 出るから」


 丁度いい。カラスが急かしたことにして、俺は仕方なく先に風呂からあがるのだ。

 だから、痛いってば。

 このクソカラスが。


 ◇◇◇

 

「ふいい」


 風呂上りにはこの一杯に限る。

 缶ビールを片手にソファーに座りプルタブを引っ張ろうとした時、またしてもあの黒い憎たらしい鳥に指先を突っつかれる。

 

「忘れてただろ?」

「あ、いや、そんなことは」


 カラスの指摘に目が泳ぐ。

 俺が忘れているわけないじゃないかあ。

 タブレットを出しメニューを出す。

 えーっと。ポテトチップスはっと。


「のり塩、バーベキュー、じゃがばた、コンソメ、ピザチーズ、しょうゆ、ブラックッパ―……こんなところだな」


 タブレットに映るポテトチップスの種類を読み上げる。


「前に食べたものも混じっているな」


 お、覚えているのか。どの味を食べたってのを。

 俺はアップデート前にどの種類があったのかさえ覚えていない。


「どれにする?」

「めんどくせえ。全部出せ」

「全部って食べれるの?」

「一度に全部食べなくてもいいだろ。それにお前らも食べりゃあいい」

「てっきり一人占めしたいんだとばかり」

「お前、俺がどんだけ意地汚いと思ってんだ? 別に誰がつまみ食いしようが、お前の魔力でまた編めばいいだけだろ?」

「んだな」


 カラスの指摘はもっともだ。

 んじゃま、全種類出してパーティ開けしちゃうか。

 ほい。注文

 キッチン脇にある宝箱からゴトリと音がする。ついでに缶ビールも数本頼んでおいた。

 さっき冷蔵庫を開けたら、残り三本になっていたからな。

 

「フジィ。お手伝いするね」


 タイタニアが脱衣所から顔を出してきたが、相も変わらず髪の毛から水滴が……。

 最近はタオルを頭に撒くくらいはしていたんだけど、カラスが急かした体で出て来たから彼女も急いだんだろう。


「タイタニア。フレイにタオルやら教えておいてくれ。準備は俺がやっておくから」


 とか言っていたら二階からワギャンが降りて来た。

 

「(風呂から)出たのか?」

「うん、待たせたね。次入っちゃって」

「分かった」


 コクリと頷きを返すワギャンだったが、俺とカラスの様子から何かを察したようだ。

 おもむろに宝箱を開け、中からポテトチップスを取り出し俺が座るダイニングテーブルの上にぽんと置いてくれた。

 

「よくわかったな」

「カラスがいるだろう。となればお前がこれを魔力で編んだのだと思って」

「お前より余程気が回るな、くああ」


 うるせえ、このクソカラスめ。

 ワギャンはタイタニアとフレイと入れ替わるように風呂に入って行った。

 

<このまましばらくお待ちください>


「おいしい」

「これもまた美味……」

「まあまあだな。おい、次のポテトチップスを持ってこい」

「へいへい」


 タイタニアとフレイにも食べさせたら、ポテトチップスの補充が追いつかないだろ。

 彼らの手が止まるまでひたすらポテトチップスを補充する俺であった。

 

<もう少しお待ちください>


 ビール片手にタイタニアの長い髪の毛を整え終わる頃、ようやく彼らの手が止まる。


「落ち着いたか? フレイ、何かカラスに聞きたいことがあったんだろ?」

「はい」


 フレイは神妙な顔で頷きを返すが、口元にポテトチップスの破片がついていた。


「ん? 何だ? 今俺は気分がいい。聞くならとっとと聞け」

「では、失礼して。カラス様はこの世界で最も賢き者と伝承に残っております」


 確かにカラスは知恵者だ。だけど、そんな大層な存在だったのか?


「そうなの?」

「知らん」


 思わず口を挟んでしまったら、バッサリとカラスに切り捨てられた。

 こ、この野郎。

 

「神鳥のこと、あなた様のことを少しでもお聞かせいただけませんでしょうか? 私は世界の伝承に目がなく、直接お会いできるとは感激です」


 俺たちのくだらないやり取りにも構わず、フレイは力強く両の拳を握りしめる。

 目が輝き、食い入るような彼女の態度から、心からカラスのことを聞きたいのだなと伝わってきた。

 

「そうだな。良辰も興味があるのか?」

「まあ、それなりにはな」


 どっちかというと世界の根幹に関わることの方が気になる。

 グバアみたいな大いなる存在について知ることができれば、世界の仕組みやらも少しは分かるかもしれない。

 気合を入れてどうしても知りたいってわけじゃないけど、俺だって自分が何でこの世界に来たのかとか、ハウジングアプリとは何ぞやってことを知れるものなら知りたい。

 

「なら、触りだけ。思ったより複雑なんだよ。まずはグバアのことからでいいんだな」

「はい。是非に」


 鼻息あらくフレイがうんうんと何度も頷く。

 この子、見た目とは裏腹にかなり残念な子なんじゃないだろうか。


「世界はマナに満ちている。マナはこの世界の内部から生産され、この世界の内部に戻る」

「すまん。よくわからん」

「お前は相変わらずだな。良辰。お前なりの言葉に変換して聞け。そこは察しろ」

「お、おう」


 とりあえず分けが分からないけど、カラスの言葉を聞くとしよう。フレイのように固唾を飲んで。

 世界はマナに満ちている。マナは魔術の力の源や不可思議な自然現象の元なのだろうな。

 魚が空を飛んだり、魔族が魔術を使ったりするエネルギーがマナと捉えればいい。

 マナは地球で言うところの磁界のように惑星の内部から外へまた内部へと循環している。その生産量は莫大で、俺たちが多少マナを使った程度ではビクともしない。

 

「じゃあ、マナってのはいずれ枯渇するのか?」

「それは異なります。聖者様。生き物が無くなるとマナは地に還ります」


 フレイの言葉になるほどと膝を打つ。

 ところがカラスがフレイへ問いかける。


「生き物に関してはそうだな。じゃあ、天災はどうだ? 空を飛ぶために使ったマナはどうなる?」

「そ、それは……」

 

 フレイは口ごもってしまったけど、少しマナの生産と消費の仕組みが分かった気がする。

 地球の自然法則にはないけど、この世界にはエネルギーの一つにマナも含まれるのではないだろうか。

 なので、マナを含めた他のエネルギーもいろいろ変換される。

 摩擦が熱エネルギーに変わるように。マナもまた何かからマナになり、マナから何かになる。


「まあ、複雑だからな。この辺で。でな、マナってのは時折ひずみができる。それが天災の原因だ」

「地震とか火山の噴火とかか?」

「そうだ。全てがマナが原因じゃあないがな。そこは察しろ」


 地球の自然法則を当てはめるわけにはいかないんだろうけど、火山の噴火や地震は大陸プレートの移動が関わって来るし、台風は気圧の関係とか原因がある。

 だけど、マナというエネルギーが関われば、俺の想像を絶する現象が起こるんだ。

 荒唐無稽な話だけど、例えば大地が空に浮いたりとかさ。

いよいよ本日書籍版二巻が発売します。パネエッスがいるっす!

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現代知識で領地を発展させ、惰眠を貪れ!

・タイトル

聖女に追放された転生公爵は、辺境でのんびりと畑を耕すつもりだった~来るなというのに領民が沢山来るから内政無双をすることになってしまった件。はやく休ませて、頼む~

・あらすじ

国を立て直した元日本人の公爵が追放され、辺境で領地を発展させていく物語です。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 結界内でもカラスのつつきは 痛みを感じるのでしょうか。 ちょっと気になりました。
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