209.事情聴取
「ま、まあ。とりあえず、落ち着こうか」
「キミがね」
クスクスと子供っぽい笑い声をあげ、マルーブルクがすかさずちゃちゃを入れてくる。
だがしかし、俺も少しは成長するのだ。
いい加減まともに稼働して欲しいフレイの肩にぽんと手をやる。
彼女は片膝をついて顔をあげた姿勢のまま、硬直してしまった。
今度は何なんだよ!
「フレイ……?」
「……ハッ。直接お手を。舞い上がってしまい」
「そ、そうか……ははは。手を上に」
「はい。な、何を、聖者様。聖者様は聖者様なのに……い、いえ、いやじゃあありません。むしろ大歓……」
何やらブツブツと呟いているフレイの手を取って、カウチに座らせる。
すぐさま立とうとするが、どうどうと両手を振ると浮いた腰を下げてくれた。
……いちいち反応がアレで疲れる。
フレイと昨日会ったガーゴイルが本当に同じ人物なのか信じられなくなってきた……。
さてと、ようやくフレイも座ってくれたところで。
よいしょっとばかりにマルーブルクの腰掛けるソファーの横へ彼と並ぶように座る。
「準備はできたかい? 本作戦の一番のポイントは魔族の感情だよね」
クッキーをポリポリ食べながら、これから散歩にでも行こうぜって軽い感じでマルーブルクが核心を突いてきた。
「そこが一番悩ましいな。彼らは妄執に取り憑かれている。単純に人間の土地を差し出したとしても、解決するかどうかだな」
「そうだね。最初にボクの見解を述べると、公国に関しては全領土の43パーセントくらいはあっさり割譲可能だね」
簡単に言ってくれるが、その道はそれなりに険しいことは俺にだって分かる。
彼が言う「あっさりと」は最上でこの数字ってことだ。
てことは……?
「そんなに土地が余っているの?」
「余っていると言えば聞こえがいいけど、公国兵士でも踏み込むのが命がけになると言えばわかるかな?」
「あ、うん」
ゴブリンと魔族との戦争で疲弊した公国は活動領域がとんどん狭くなっているんだな。
そもそもゴブリンの勢力圏なんかは公国領に含まれるが、化外の土地になっていた。
この世界は地球と比べ物にならないくらい猛獣が強いし、天災もいろいろやべえ。
土中から巨大ミミズが出てくるわ、ピラニアが空を飛ぶわ……天災を凌ぐだけでも事だよ。
「一つ聞くが」
あれ? 反応しない。
な、なんか顔を赤くしてモジモジしているんだけど。
ちょっともうあなた様の騎士とか魔術師とか、そんな発言が全て台無しな感じだぞ。
「フレイ」
「……ッハ。種族の差なんてなんのその。ど、どうぞ、ひょっとしてお二人で。大歓……」
「フレイ! お仕事モードに切り替えてくれ」
「……し、失礼いたしました!」
「あと、俺はともかく、マルーブルクまで妄想に入れるのをやめるように」
「も、申し訳ありません! 天使様は永遠の天使様ですのに……穢してしまいました」
「だあああ。皆まで言うな。分かったから、一旦クールダウンして、ええと、紅茶でも飲むとか顔を洗うとか」
あ、女子に顔を洗うは失言だったか。
タイタニアとフェリックスはノーメイクだったけど、アイシャやリーメイは薄っすらと化粧をしていた。
どんな素材を使っているとか分からないけどなあ。アイシャはチークと口紅だけだったけど……。
フレイはほどんど化粧っ気がないけど、俺がそう見えるだけかもしれないし。
「……あ、あのできれば着替えを」
うつむいて言い辛そうに言うフレイは、耳だけじゃあなく首まで赤くしている。
「着替え持ってきているの?」
「ございます!」
フレイは腰から吊った大き目の袋に手をあてた。
「じゃ、じゃあ。二階か脱衣所ででも着替えて」
そそくさと脱衣所の扉を開けるフレイを後目に、マルーブルクと俺は顔を見合わせ苦笑する。
――しばらくお待ちください。
思った以上に早く彼女は戻ってきた。
あれ、さっきと服装が変わってないんだけど?
「場所が分からなかった?」
「いえ、着替えは済ませました」
元の場所に座り、彼女は先ほどまでと異なりキリッと眉尻を上げる。
よし、この分だと大丈夫そうだな。
「マルーブルクのいた公国は領内に猛獣や天災が原因で人が住んでいない土地があるんだ」
「はい」
「そういう土地に魔族は居住できるものなの?」
「ガーゴイルを使わなければ難しいでしょう。魔族の領域にも魔獣やモンスターの蔓延る地域はもちろんあります」
「実質住めたもんじゃないけど、領土に治めれば満足するのかな?」
「そうですね……自らの領域であり、他勢力圏から侵入されないのであれば、活用できます。例えば、鉱物資源があれば採掘したり……農業であってもやれないことはありません」
「農業は開拓が大変そうだ……」
魔族にはガーゴイルがあるから、人間よりは土地を活用できそうだな。
猛獣には苦労しそうではあるが……。
「現在、食糧難であるとか生存していくに厳しい状況なのかな?」
「決して楽ではありません。魔族は人間と異なり、子供の数が少ないのです」
「人口増加による食糧難はおき辛いのは良いが、人口が増え辛いのは問題ったら問題か。少ないってどれくらい少ないんだ?」
「魔族の女は一生のうち、二度……頑健な者でも三度の妊娠出産が限界です」
「となると、魔族の場合、病や事故死などで一度人口が激減すると……」
その先は言えなかった。
一生のうちで子供が二人しか産めないとなると、親の数と子供の数が同じになってしまう。
たまに産まれるだろう双子や三人目を産むことができる人がいて初めて数が増える計算になる。
しかし、現代地球と違って新生児の生存率はそこまで高くないだろうし……疫病やらももちろんある。
かつて魔族が、絶大な力を誇りつつも全域に支配を広げることができなかったのは、出生率の問題が大きく絡んでいたはず。
むやみやたらに戦争を仕掛けることもできないだろうし、支配下においても目が行き届かず反乱を起こされれば打撃を受けちゃうしなあ。
「魔族って全部でどれくらいの人口を誇るんだろ?」
「およそ、20万程です」
「マルーブルク。人間の人口ってどれくらいになるか分かるなら教えて欲しい」
多いか少ないか分からん。
獣人や竜人の数に比べたら遥かに多いし。
「正確な人口調査をしていないからねえ。でも少なくとも魔族の十倍……いや十五倍はいるよ」
顎に指先を当て、俺の問いかけに応えるマルーブルク。
「土地の割にはやっぱり人間の数も少ないんだなあ」
「そうなのかい? 獣人に比べれば随分と多いと思うけどね」
「彼らもこれから増えていくさ」
獣人は1万にも満たないから、相当少ない。
リュティエは多く語らないが、ここに来るまで落伍者もいたんだろうな……。
魔族の話を聞けば聞くほど、新たな土地は必要ないと思えてくる。
だけど、理屈じゃないんだよ。想いってやつは。だからこそ、厄介だ。
「いっそ、大草原にみんな住めばいいのに……」
「不可能です」
「まあ、それは分かっているよ。魔族の感情がそれを許さないものな」
「いえ、事情を抜きにしましても大草原に居住することは不可能です」
え?
どういうことなんだろう。
大草原には魔族にだけ罹患する病とかあるのか?
マルーブルクも表情こそ変えないものの、フレイの言葉を待っているようだし彼にも何が原因か想像がつかない様子だ。
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