200.なんかきた
「お、おお」
「うんうん」
テラスの花が咲いたんだ。一度全ての花が何故か枯れてしまってから、すぐに種を植えてようやく、なんだよ!
俺がいない間にもタイタニアが水遣りをしてくれていた。
「フレデリックさんにもお礼を言わなきゃな」
タイタニアが俺と一緒にリーメイのところへ行っている間は、フレデリックが水遣りをしていてくれたと聞いたんだ。
たまに政務で疲れたマルーブルクも来ていたとか何やら。
そうそう。
昨日、集会所で状況報告を行った。
マルーブルクは早くも動き始めていて、連絡要員をグラーフに送るとのこと。リュティエら獣人も食糧提供など協力は惜しまないと力強く言ってくれた。
みんな即答してくれるのに感動したけど、住民に彼らが無理を強いてないか少し心配している。
「お花はすぐ枯れちゃうんだよね?」
昨日のことを思い出していたところ、タイタニアの声が耳に届く。
テラスの花壇は普通の花の種だから、成長し花をつけ、枯れるだろう。
「また育てればいいさ」
「そうだね! うん」
「種ができていれば、そいつを使ってまた植えよう」
「楽しみだね」
二人で並んで花壇の前にしゃがみ込み、つぶさに紫色の花を観察する。
これ、何て花だっけ……わ、分からん。
そもそも俺は花の名前に詳しいわけじゃあなく……ハウジングアプリで種を注文した時に記載されていた名前をメモしておくんだった。
「そうだ。タイタニア。一緒に来て欲しいんだ」
「どうしたの? フジィとならどこへだって行くよ」
「あ、目的を伝えていなかったな。ごめんごめん」
「何をするの? 楽しみ!」
「えっとだな。外周の石畳があるだろ、あれの一部を花畑にしたいなってさ」
「素敵だね! どんなお花なんだろう?」
「タイタニアにさ、選んでもらえないかなって」
すると、タイタニアは勢いよく立ち上がって全身で喜びを表現するかのようにバンザイのポーズをした。
「とっても嬉しい。でも、フレデリックさんやジルバ、アイシャ、ぶーちゃんたちにも選んで欲しいな」
「ジルバたちも水やりを手伝ってくれたのかな?」
フレデリックの名前が出たことで、タイタニアに尋ねてみる。
「ううん。違うの。来て来て!」
タイタニアがしゃがむ俺の手を取り、俺の体を引っ張り上げる。
おっとっと。
よろめきながらもなんとかバランスを取り、グイグイ俺の手を引っ張って来る彼女に苦笑しつつもついて行く。
着いた先は公園だった。
ブランコの横を通り抜け、ハトが寝床にしているベンチの辺りで立ち止まる。
「ここだよ」
タイタニアが指さす先には、長方形の木枠がでーんと鎮座していた。
少し大きめのプランターくらいのサイズかな。中には土が入っていて、緑の芽がポツポツと顔を出している。
「花壇? いつの間に」
「えっとね。ぶーちゃんたちがフジィが庭の花壇を大切にしているのって言ったら、作ってくれたんだよ」
「へえ。すごいな。プランターも自作してくれたのかな?」
「うん、ジルバとぶーちゃんが二人で。種はフジィの使った余りだけど」
マッスルブたち、こんな素敵な物を作っていたのならすぐに教えてくれたらよかったのに。
あ、俺がサマルカンドにいなかったから伝えようがないか。
よおし、今日は牧場方面にも行こう。もし彼らがいたらちゃんとお礼が言いたい。
◇◇◇
まずは公国側の東門までひまわり号で……進もうかと思ったけど、運動不足も気になるから歩いて行くことにした。
久しぶりにのんびり散歩がてらに歩くことができたわけだが、ちょっと困った事態になってしまう。
道行く人が朗らかに挨拶をしてくれるのは、とてもほっこりとした気持ちになれる。
だけど、何でか知らないが出会った人のうち半数ほどがゾロゾロと後からついてくるんだよな……。人が人を呼び、門のところへ来る頃には百人ほどの人だかりになっていた。
お、俺は住民の皆さんに何かを魅せようなんてつもりはないんだ。
そ、そんな固唾を飲んで俺の様子を見守られても困る。
「タ、タイタニア……」
「わたし、分かるよ。ついて来た人の気持ち」
助けを求めるようにタイタニアに向け右手をあげたら、意外なことに彼女はこの状況を理解している様子。
「え、えっと」
「えへへ。フジィでも分からないことってあるんだね」
「ま、まあ。俺には分からないことだらけだよ」
「そんなことないもん! フジィ、わたし、お花なら明るい色がいいな。あ、あれがいいな」
「ん?」
「ほら、ひまわり号のひまわりってお花でしょ? 見て見たいんだ」
「そっか。あれは元気が出る花だと思う」
「楽しみ!」
よおっし、そうと決まれば。
どこに作ろうかな。そうだ。
タブレットを出し、風景を映しこむ。
門から外へ道が続いているから、同じように内側にも少し道を伸ばして、道の左右に花畑を門の外と内に二十メートルほど……。
タブレットに映った画像を確認し、満足気に頷く。
「決定」をタップした。
すると、音も立てずに一瞬で満開のひまわりが姿を現した。
「すごい! すごいよ! フジィ! とても綺麗で、この黄色の大きな花って確かに何だか元気になれるね」
「そうだろ。ひまわりは……」
――わあああああ。
俺の言葉は集まった群衆の歓声にかき消される。
「素晴らしい! さすが導師様!」
「導師様の魔術が復活された!」
「完全復活だ! ヒャッハー!」
「いえええい! ふじちまばんざーい!」
最後はあいつらだろ。
ま、まあいい。
俺にもようやく住民が何を思ってついて来たのか分かったよ。
彼らはずっと俺のことを心配してくれていたんだな。
ハウジングアプリのアップデートが完了してから、外でこうしてハウジングアプリを使うことがなかったから。
今、彼らの目の前で見える形でハウジングアプリを使用した。
俺の魔術が復活したと、みんな喜んでくれているんだ。
その気持ちに胸が熱くなる。
「フジィ」
「よかった」
「うん、みんな、ひまわりが綺麗だって」
「そうじゃなくて……いや、そうだな。ひまわりは元気が出るもんな」
「うん!」
しばしの間、集まった群衆と共にひまわりを眺め、大歓声に見送られながらこの場を後にした。
◇◇◇
次に訪れたのは、牧場だ。
マッスルブたちはいるかなあ。
色とりどりのクーシーが楽しそうに駆けているのは見えるけど、マッスルブたちはいなさそうだ。
ここにも花畑を出そうと思ったが、せっかくなら彼らにどんな花畑にするか選んでもらいたい。
いないとなると……フレデリックを探しに行こうかな。
あっちこっち移動するとちょうどいい運動にもなるし。
「ね、フジィ。あれ」
「ん? あ、あれは」
牧場を囲む見えない壁に阻まれて進むことができないでいたが、あの動く翼が生えた動く石像みたいなのは何度か見たことがある。
――ガーゴイルだ。
何故、ガーゴイルがこんなところに。
いつの間にか200話に到達いたしました!
読んでくださりありがとうございます。
書籍版の2巻が1月24日に発売されます。
これも読んでいただいたみなさんのお力あってのことです。
ありがとうございました!
ふじちまの旅はまだまだ続きます。