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191.おかえりいただけた

 ううむ。こいつはどう持っていけばいい? 

 試すだけ試してみるか。


「もういいか? そろそろお帰りいただこうか」

「それはいくらキョウシュの頼みでもならぬ」


 ですよねえ。

 キョウシュとやらに勘違いしているようなので、ひょっとしたらと思ったが、ご帰還いただけないらしい。


「俺としては力比べにもならない争いは、やって欲しくないんだがね」

「……同意する。邪魔が入ることもあるからな」

「(壁があって)無駄だと分かっただろ? ならもういいじゃないか」

「ダメだ。キョウシュ、俺と誓いを立ててくれ。ならば引こう」


 青いゴブリンの奴……自分が追い詰められている状況を分かっているのか?

 ま、まあいい。聞くだけは聞こうじゃないか。


「言ってみろ」

「その戦いの祭典とやらに俺も招いてくれ。我らブルーホーンは自らの武勇こそ至上としている」


 え、ええっと。いつ俺がそんな大会主催するって言ったんだよ。

 戸惑う俺にカラスが頭の上でくああと鳴く。


「まあいいんじゃねえの? 多少参加人数が増えたところで宴は変わらんだろ」

「あ、いや、そうじゃなくてだな」


 目線を上に向けカラスに事情を説明しようとしたところで、


「そんな大イベントを隠しておくなんて、兄ちゃんも味なとこあんだな。俺も参加するぜ」


 クラウスがやる気満々だった。

 ええいもう。闘技大会を開催すりゃ全て解決なんだろ。

 俺としては闘技じゃあなく、討議のがまだいいんだが……。


「分かった。それじゃあ、開催の折は……ゴ・ソーも誘う。これでいいか?」

「感謝する。定期的に使いをここに寄越す。開催が近くなれば使いに伝えて欲しい」

「あいよ」


 もはや俺は達観している。「どうにでもなれー」な精神て強いよな。何でもありだ。

 大怪我するかもしれない闘技大会なんて、人も集まらんだろ。

 少なくとも青いゴブリンのお相手は一人クラウスいるし、それで誤魔化すとしよう。

 一応、開催の体裁だけは整えるか……。


「ではな、キョウシュ」

「ここだけじゃなく、人間の村も襲うなよ」

「そのようなことをしている暇はない。あの人間のような強者とあい見えれば別だが、鍛錬の方が強くなれる」

「お、おう……」


 なんだかとっても楽しみにしてるみたいだけど……参加者がクラウスだけだったらすまんな。

 ともあれ、青いゴブリンらはゾロゾロと家路に着いてくれた。

 これでこの戦いは終わりだ。


「ふう」

「さすがだな、ふじちまは」


 ポンとワギャンに肩を叩かれる。


「うん! フジィの言葉はみんなの心に響くもの」


 嬉しそうに語るタイタニアだが、決して俺の意図通りになったわけじゃあないぞ……。


「何も考えてないだけだろ、こいつは。くああ」


 流石だな、カラス。

 真実を見抜くとは、さすが大賢者なだけある。


「そ、そんなことないもん。フジィはいつだって深い深いところで魔法のような言葉を紡ぐんだもの」

「だってよ?」


 ……。

 何と返せばいいんだよ!

 ま、まさか、タイタニアの返答さえもカラスの計算のうち?

 な、なんて恐ろしい奴なんだ。こいつとマルーブルクは危険過ぎる。


「ま、まあいい。ええっと、クラウス」

「どうした?」

「この場は任せていいか? フレデリックさんにも挨拶して行きたかったんだけど……」

「おう。何か急ぎがあるんだな。任せろ。その代わりと言っちゃあ何だが」

「うん?」

「後で何をしたのか聞かせろよ!」

「もちろんだ」


 青いゴブリン達は引いて行った。ここからは見えないけど、フレデリックの部隊が他のゴブリン達も追い払ってくれている。

 となれば、俺がここでできることはもうないし、後のことは俺が口を挟むよりクラウス達の方がうまくやってくれるだろう。

 俺は俺で待たせている人がいるしな。


「せわしない奴だな。あの人間のところに戻るんだな」


 カラスが呆れたように呟く。

 

「うん、その前にサマルカンドに一旦戻るけどな」


 フェリックスの悩んでいたことが何かは分からない。だけど、ゴブリン達のような外敵じゃあないんだろうなと思う。

 だったら、公国内のゴタゴタじゃあないかってね。

 それなら、マルーブルクを連れて行った方がいい。俺は公国の事情に明るくないのだから。

 

 ◇◇◇

 

 とんでもない大歓声を村のゴブリン達からも公国の兵士からも受けつつ、ゴブリンタウンを後にした。

 なんか村の名前が違う気がするが、何だったか既に思い出せないのでゴブリンタウンでいいだろ、もう。

 

 休憩も取らず一路サマルカンドを目指したおかげか、日が暮れる前に自宅まで辿り着くことができた。

 すぐにマルーブルクとリュティエに状況を報告すべく近くにいた村人に伝え、自宅のソファーに腰を降ろす。

 

「ふう……」

「すぐにコーヒーを淹れるね!」

「ありがとう」


 タイタニアがパタパタとキッチンに向かう。

 自宅に帰るなり、復活したハウジングアプリでコーヒーやら必要物資を注文したんだ。

 

 テーブルの上では、カラスとハトがポテトチップスを貪っている。

 残る一人……ワギャンはというと、風呂だ。

 長旅でなかなかゆっくりできなかったからな、今日は順番に風呂でゆっくり浸かろうかってなった。


 そんなわけで、食事はレンジでチンするだけのものにしたんだ。

 冷凍のから揚げに、枝豆、焼きおにぎり、焼き鳥……あと忘れちゃいけない缶ビール。

 

 風呂上りに一杯やろう。それだけで幸せな気分になれるからさ。

 もちろん、ワギャンとタイタニアも一緒に、ね。

 

 ――ピンポーン。

 ちょうどワギャンが風呂からあがった時にチャイムが鳴る。

 

「はーい」

 

 タイタニアが扉を開けて来客を迎えてくれた。

 

「こんばんわみゅ」

「ぶー」


 お、来たのはアイシャ、マッスルブ、ジルバの三人か。

 ああああああ。そういや、俺、サマルカンドの儀式が終わった後、アイシャと約束していたんだった。


「ごめん、アイシャ」


 彼女の元へ駆けより、頭を下げる。

 

「お話は聞いてるみゅ。ふじちまくんは魔法が使えるようにってすぐにサマルカンドを出て行ったって」

「そうなんだ。アイシャと約束していたのに」

「気にすることはないみゅ。あたしはふじちまくんが食べ物あるかなあって思っただけなんだみゅ」

「そ、そうだったのか。ありがとうな。魔法は使えるようになったんだ」

「よかったみゅ!」


 ぴょんとその場で飛び跳ね喜びを露わにするアイシャ。

 ぷるんぷるん。

 

 一応、獣人の人にも俺の状況を伝えたんだけど、まだアイシャ達にまで伝わっていなかったか。


「俺が戻ったから、食べ物を持ってきてくれたのか。ありがとうな」

「ううん。でも、魔法が使えるようになったんだったら必要ないみゅ?」

「無理して食べ物を持ってきてくれたんじゃないのなら……食べたいな」

「うん!」

「一緒に食べよう」

「分かったみゅ」


 アイシャが後ろに目をやると、マッスルブとジルバが下処理を行ったであろう大きな肉を丸ごと抱えて持ってきた。

 一頭まるまるか……、あの特徴的な二本の角はアルシノかな。

 カバのような牛のような、家畜の一種だ。

 

「よおっし、今晩はバーベキューに変更だ。タイタニア、ワギャン、一緒に準備を頼む」

「うん!」

「分かった」


 バーベキューコンロをワギャンに取って来てもらい、タイタニアにはお皿などの準備をしてもらう。

 俺はと言えば、炭を注文しアイシャらをテラスに案内する。


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