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183.行くぜグラーフへ

 ――翌朝。

 カラスを肩に乗せ、ひまわり号のエンジンを吹かす。


「じゃあ、行こうか」

「うん! 無理言っちゃったかな?」


 ひまわり号の前でタイタニアがうーんと眉をひそめた。


「そんなことない。来てくれると助かる」

「うん!」


 タイタニアが後部座席に乗り込み、俺の腰を掴む。

 今朝、タイタニアにもハウジングアプリのアップデート状況を伝えたんだ。

 すると、彼女は「俺に付いて来る」と言ってくれた。

 ありがたい申し出だったけど、俺は心の中で「彼女はサマルカンドでの仕事もあるだろうに」とか、「何でもかんでも付き合ってもらったら悪いな」なんてことが浮かぶ。

 それが顔に出ていたのか、俺が嫌々ながらも了承したと思ってしまったのか、彼女は不安気な様子だった。

 グダグダと余計なことを考えていたが、本心を正直に言うと「彼女について来てもらいたい」と思っている。

 ハウジングアプリが使えない今、食糧が尽きればどこかから調達してこないとならない。

 野外活動に慣れている彼女がいれば心強いし、気持ちの上でも一人より三人と二羽の方がいいに決まってる。

 二人じゃなく三人だって?

 それは、先立ってワギャンがハトに乗りグラーフに向かってくれたからだ。


「おい、ボーッとしてねえで行くなら早く出ろ」

「い、痛っ! 首はやめろ」


 可愛げの無いカラスめ!

 察したのかカラスは首を上にあげ下品な鳴き声を出すと、タイタニアの肩へ向けぴょんと跳ねた。


「気を取り直して、行くぞ、グラーフへ!」

「うん」

「あいあい」


 そこの鳥類! 嫌そうに言うんじゃねえ。

 うん。これが俺たちのいつもの調子だ。

 思わず、クスリと小さな声が出る。


 ◇◇◇


 北側から外周を進み東へ折れ、サマルカンド公国側北を進む。

 みんな農作業を頑張っているんだなあと広がる農地に目を細める。

 ん、何だろう、あの集団は。


「タイタニア? あれは?」

「兵士だわ。何かあったのかな」


 やっぱりそうか!

 農作業に剣や鎧は必要ないよな。あんなところで一体何をしようというんだろう?

 演習? いや、そうは見えない。

 整然と並び指揮官の言葉を拝聴する兵士達には、ある種の緊張感が見て取れる。

 これは、彼らが仕事することがあったと見ていい。

 兵士の仕事と言えば……。


「どこかで不穏な動きがあったのか、それとも集団で狩猟とか……」

「兵士さん達は、あの場所でたまに演習をしているの。だけど、あの数は」

「指揮官に聞いてみるか」


 このまま進めば兵士達の近くを通る。

 お、やっと指揮官の顔が見えてきた。あの凛とした佇まいはフレデリックか。

 よっし、彼からなら事情は聞けそうだぞ。


「フレデリックさん!」


 呼び掛けると、フレデリックは一礼をした後、ひまわり号の前まで足早に駆けてきた。


「藤島様、どこかへお出かけでしょうか?」

「うん。ごめん、うっかりしていた」

「どうなされたのです?」

「フレデリックさんやリュティエ、マルーブルクにも事情を伝えてから行くべきだったと」

「そういうことですか。それでしたら、今、私が承りましょう」


 儀式があった翌日に突然俺が姿をくらましたら、みんな「何事か」って思うよな。

 フェリックスのところへ行かないとって気持ちだけが先走り、周りに対する気配りが全くできていなかった。

 たまたま、フレデリックがいたからいいものの……兵士の集団を見かけなかったら、俺はそのままサマルカンドを出ていたところだ。

 しかも、離れていても俺と会話ができるカラスまで連れて。

 

 急ぎフレデリックにアップデートするに魔力が足りないことを伝えたら、彼は穏やかな顔で静かに頷きを返す。


「サマルカンドはお任せください。お気をつけていってらっしゃいませ」

「ありがとう。聞きたいことがあって」

「この兵のことでしょうか?」

 

 ピクリとフレデリックの眉があがる。

 彼は表情や声色には一切出さないけど、これは俺が聞かなければ言わないでおこうとしたんだな……と何となく察した。

 だからこそ、聞かなきゃ。

 何かただならぬ事態が起こっているに違いない。

 

「うん。兵を集める事態になったってことかな?」

「左様でございます。以前、打ち払ったゴブリンらがこちらに攻め寄せる気配を見せております」

「場所はどこだろ?」

「我々と共に歩み始めているゴブリンらの集落です」


 フレデリックとリュティエが奮戦して追い払ってくれたゴブリン達か。

 やたら好戦的だったと聞いている。

 散々にやられたはずなのに、性懲りもなくまた来るとは。考え無しにゴブリン農場のゴブリン達がイラつくとかで襲い掛かって来るならいんだけど……。

 「勝てる算段」があるから襲撃してくるって可能性も捨てきれない。

 俺が知っているゴブリンは、知恵がついても「想像力」は幼児並みだったんだ。

 杞憂だといいんだが……。

 

「分かった。説明をしてくれてありがとう」

「はい。マルーブルク様からも、藤島様より聞かれれば『全て包み隠さず伝えよ』と命じられております」

「もし戦うことになったら、見えない壁を利用して、怪我人が出ないように注意してくれると嬉しい」

「心得ております。ゴブリンの集落には、私とリュティエ様が赴きます」

「分かった。頼んだ!」

「承りました。藤島様はご自身のすべきことに邁進してくださいませ」

「うん。行ってくる」


 俺も「ゴブリンの集落に行く」とは言わない。

 今の俺が行っても何の役にも立たないからな。

 俺が今できることは、グラーフへ行き、その後、ゴブリンの集落に行くことだ。

 ハウジングアプリを一刻も早く元に戻すことこそ、俺のやるべきこと。


 フレデリックに手を振り、ひまわり号を発車させる。

 ブオンブオンとエンジン音が鳴り響き、ひまわり号は加速して行く。

 

「ちょっと飛ばすぞ。しっかり掴まって」

「うん!」


 タイタニアの手に力が籠る。

 みんな、任せたよ。すぐに戻るからな!

 心の中でそう呟き、ハンドルをギュッと握りしめた。

 

 ◇◇◇

 

 速い。さすがに速い。

 特に速度制限なんて無かったから、すっ飛ばしてきたんだよ。

 すると、夕方前にはグラーフに到着してしまった。

 何とワギャンより早い。

 

 もっとも、急いでグラーフまで行ってくれと頼んでいたら、ワギャンらの方が早く着いたんじゃないかと思う。

 空を飛ぶと障害物も何も無いし、直線距離を進むことができるからな。ハトの飛行速度は……どうなんだろ。

 あれ、待てよ。

 我が道は殆ど直線だし、信号なんてものもない。

 ひまわり号は時速百キロは出せるから、ハトが急いで飛行したとしてもひまわり号の方が早そうだ。

 グバアとかモフ龍はひまわり号より三倍は速く飛行すると思うけど……。あいつらはもうなんていうか、うん。

 

 ――バサバサー。

 しばらく待っていたら、ハトとワギャンも到着した。


「それじゃあ、門のところまで行こうか」


 右手をあげると、タイタニアとワギャンが「おー」と元気な声を返してくる。

 まずは門番に事情を説明するところからだな。

 

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