170.どきどきの添い寝
少し悩んだが、火口を塞いでしまうのが最善。竜人の集落方向にある山の麓に道を作るのが次善かつ確実。
火山活動が活発だから、別の噴火口ができないとも限らない。
だけど、山や周辺環境への影響まで考慮すると火口の周囲を覆うのが最も被害が少ないんだ。
そんなわけで、みんなと相談し両方実施することとなった。
ひまわり号から荷車を外し、後ろにリーメイを乗せる。
他のみんなには待っていてもらう。
更に、道を作った後様子見するため、ここを拠点とすべく、二十五メートル四方の土地を購入した。
先を急ぐので、家の建築は後回しにしてリーメイと共に出発する。
ひまわり号で一時間半ほど進み、拠点に戻り、今度は反対側も同じくらいの時間をかけて進む。
結果、百五十キロを超える長大な我が土地の防衛障壁が完成した。
リーメイ曰く、余裕をもった範囲を案内したということだから、これで竜人の集落は護られるはず。
本当に大丈夫かは竜人の集落で様子を見る必要はあるけど……少なくとも大幅に着弾する溶岩弾は減るはずだ。
その日はこれで日没を迎え、山に入るのは翌日となった。
みんなを随分長い間待たせてしまったけど、彼らは退屈そうにするどころか俺とリーメイの身を案じてくれている。
一度戻って来た時にゆっくりと休めるように、家を建てておいた方がよかったよなあ。
みんなに溶岩弾がしょっちゅう降ってくるので、敷地の外へ出ることを控えてもらっていた。敷地内だけなら動くことはできるものの、何も無いしなあ……。
敷地の外に出られないから、採集にも出かけられないしね。
「どんな家にしようか」
「全員一纏めに入ることができる方が良いな。お前の魔力次第だが……」
「魔力は問題ない。広い家にしよう」
自宅と同じ大理石の家にするか。使い慣れているし。
メニューを選んで決定をタップすると、いつものごとく音も立てずに一瞬で家が出現する。
「フジィの家が転移したの?」
地面に体育座りして待っていたタイタニアが、驚きからか立ち上がって大きな目を見開いた。
「転移術とかもあるのかな……この家は今さっき俺の魔力で生み出した家だよ」
「こんな大きな建物でもおんなじ形のモノが魔力で編めるんだね!」
「おうさ! 昨日もアポロ……三角錐の家を三つ建てただろ?」
「うん! そうだったね。えへへ」
思い出したのか頭に手をやり可愛らしく舌を出すタイタニア。
「ふじちまの家と同じ形なら、二階の部屋にベッドを増やせばよいな」
「そのつもりだよ。各部屋に一つベッドを足せばちょうど人数分になる」
自宅と同じなので、二階に三部屋ある。各部屋は広いからベッドを二つ設置してもスペースは充分だ。
部屋割りは昨日と同じでいいか……ついでにそろそろ洗濯もしたい。
◇◇◇
ガタンゴトンと洗濯機が動く聞き慣れた音が響き、ベージュのガウンを着たワギャンと横に並ぶようにしてソファーにくつろぐ。
ガチャリ――。
浴室に続く扉が開く音がする。
おっと、ボーッとしている場合じゃねえ。次を用意しなければ。
ワギャンのお次は、リュティエとロンの分だったな。
リュティエは普段皮の胸当てとトラ柄の腰巻だけという姿だから……ガウンと膝上のハーフパンツだけでいいだろ。
ロンは、アロハシャツに膝下のアロハパンツにでもするか。遊び心ってやつだ。ボタンシャツにしなきゃ、口先に襟首が引っかかってしまうかもしれないからな。
ん、何でお着替えタイムになっているんだって?
それは、鎧を除いた全ての衣類を洗濯機に突っ込んだからだよ。
たまには洗濯しないとな。
俺? 俺はちゃんと毎日下着をかえている。
ジャージも二日に一回はチェンジするという贅沢なことをさせてもらっているのだ。洗い替えを含め、ジャージは五着にまで増えた。全てデザインも色も同じだがね。
おっと、お次は女性陣の服か。
リーメイに以前出したカップ付きのキャミソールとジャージの上下にしておくかなー。動きやすさ重視だぜ。
そんなこんなで着替えが終わり、お食事タイムとなった。
「フジィとリーメイさんとお揃い」
上機嫌で鼻歌を歌いながら、宝箱からレトルトシチューを取り出すタイタニア。
「これも不思議な繊維でできているのですね」
俺の横に立つリーメイがジャージのチャックを上げ下ろしし、じーっとチャックのホックが動く様子を眺めている。
「こんなに沢山の色を使って……兄ちゃん、俺が着てもいいのか?」
ずっと目を輝かせてアロハシャツにテンションが上がりっぱなしのロンである。
「問題ない。元は全て魔力だ。色をつけるのも自由自在なんだよ。染料も必要ないから、色の多さで手間は変わらない」
「何でもありだな! 兄ちゃんの魔術」
「そ、そうだな……はは」
誤魔化すように頭の後ろへ手をやったところで、ピピピという電子音が耳に届く。
「ご飯が炊けた」
慣れたものでワギャンが炊飯器を指差し、深皿を並べ始めた。
「よっし、ご飯にしよう」
ほかほかのご飯をよそい、チンしたレトルトシチューをかけて本日のご飯は完成だ。
◇◇◇
夕飯を完食し、それぞれの部屋に向かう。
そうそう、俺から申し出て少し部屋割りの配置を変えてもらったんだよ。本人も快く受けてくれたしな。
外は深刻な状況だが、こういったリラックスタイムは必ず取っていこうと思う。
緊張してばかりだと気が滅入るし、思考が硬直しかねない。
ベッドに寝転がりながら、隣で寝息を立て背中を向けたワギャンへ目をやる。
うほお、もっふもっふだあ。
リュティエに言って、俺とワギャンとタイタニアの三人で就寝することになったのだ。
ベッドが二つしかないから、俺はワギャンと眠ることになった。
もちろん、もっふもっふするための俺の策略であることは言うまでもない。
ベッドなんて増設しようと思えばすぐに設置できるし、部屋のスペースもまだ余裕がある。
そっとワギャンの露出した首元のモフモフをわしゃわしゃして、頭も同じようにモフる。
満足した。
「ふじちま」
お、起きていたのか!
ドキリとして心臓がバクバクいってる……。
「ご、ごめん、つい」
バレていたのなら仕方ない。勝手にモフったことは素直に謝罪する。
「いや、別に構わないんだが、一つ気になることがある」
「うん?」
「お前は人間の姿を取っているが、本来の種族……と言えばいいのか」
「俺は人間と同じ趣味嗜好だよ?」
ワギャンが説明し難そうに言い淀んでいるが、一体何が言いたいのだろう。
「それなら僕を触るより異性であり、人間でもあるタイタニアに触れたらどうなんだ?」
「あ、いや」
「その方がお前も満足できるんじゃないのか?」
「ま、まあ。うん、そうだな」
ワギャンの鋭すぎる突っ込みにタジタジだよ。
「ふじちま?」
「まあ、うん、寝ようか」
「そうだな」
あっさりと引いてくれたワギャンに感謝しつつ、布団を頭まで被る俺なのであった。