163.口は災いの元って何度も
タブレットを右手に出し、クラッシックハウスのリストを眺める。
今回建築する家で二晩は過ごすことになりそうだから……広めの家がいいか。
よっし。
長くとどまるならキャンプ場気分じゃあなく、別荘風にするか。
こいつだ。
『名称:ラージ・ヴィラ(二階建て)
サイズ:縦十五、横十五
価格:十三万二千
付属品:付属品:宝箱(大)、電気、トイレ、キッチン、浴室、モニター、ベッドなど家具付き』
ヴィラは結構種類があって、最初我が家を作ろうとした時に検討したこともある。
ヴィラとは別荘のことだけど、南欧風の茅葺き屋根をした真っ白い壁の洒落た外観のものが並ぶ。
他にはコテージとか、カントリーハウスってのもあるけど見た感じ、雰囲気が多少異なるだけで用途は同じかなあ。
ここまでクラッシックハウスの種類を準備した中の人の拘りに感服するよ。
有効に活用させてもらっている。
そいじゃあまあ、決定っと。
いつものごとく音も立てず一瞬で家がででーんと出現する。
「わあ。なんだか可愛い家だね!」
「そうだな!」
これは我が家にしてもいいくらいだ。
我が家と敷地面積は同じだけど、家の作りは大きく異なる。
入口から見て奥の半分は家屋だ。家屋は白い漆喰の壁に薄い茶色の茅葺き屋根になっている。
窓枠に黒いレリーフが施されていて、ステンドガラス……じゃあなくて普通のガラス窓だな。
しかし、これでも充分雰囲気が出ていると思う。
手前側は三分の二ほど庭のスペースとなっており、左右は長方形の家屋。広さはそれほどないけど、一階と二階部分でそれぞれ一部屋ある。
「入っていいのかな?」
「もちろん」
タイタニアに手を引かれ、家の門をくぐる。
庭の中央には水がめを抱えた女神像が立っており、思った以上の豪華さにタラリと冷や汗が流れた。
「すごく素敵な噴水だね!」
「そ、そうだな……ははは」
女神像の水がめからコンコンと水が流れ落ちている。
流れた水がどう循環しているのかとか全く分からないが……突っ込んじゃあいけないぞ。
思考の闇にハマるからな。
「ねね」
「ん?」
タイタニアが掴んだ手を上に振り上げ、それにつられて俺の視線が動く。
視線の先には女神像が見える。
タイタニアはそんなに女神像へ心を惹かれたのかな。
既に彼女は噴水自体何度か見ているし、今更噴水って設備自体に驚くことはないだろう。
じゃあ、どうしたんだろ。何か変なところがあるのかな?
「フジィは、女神像さまみたいな人が好みなの?」
「え!」
思ってもみないタイタニアの疑問にすっとんきょうな大声をあげてしまった。
えっと、女神像だったな。
つぶさに女神像を観察してみると……確かに誰かに少し似ている。
古代ローマ風のローブを羽織ったよくある衣装なのだが、女神像らしくおっぱいが大きく肉感的で均整の取れたボディが悩ましい。
タイタニアより目が細く切れ長で、人によっては冷たい印象を持つかもしれない。
大き目の口に少し狭い額、眉が長くキリリとしていた。
うん。リーメイに似ていなくもない。
「綺麗な人だったよね」
「あ、うん」
そんな嬉しそうな顔で言われたら反応に困るじゃないか。
タイタニアはにこにこしたままじっと俺を見つめているけど、まさか俺の答えを待っている……?
じとーっと彼女を見つめ返したら、「うんうん」と頷かれてしまったぞ。
「え、えと」
「うん!」
ちょっと喰いつき良すぎだろお。
答えざるを得ないか。
し、しかしだ。
回答次第によっては、とんでもなく気まずくなってしまうかもしれない。
一体彼女は何を考えているのか……単に女神像を見て口を出た言葉なのか、それとも自分とリーメイを比べて……。
「タ、タイタニア。あ、あれだ。あれだよ」
「うん」
や、やはりこの反応は自分とリーメイを比べているに違いない。
何とか彼女を傷つけぬようにせねば。
「女神像はリーメイに似ているよな」
「うん!」
そっちじゃねえ。
ちゃんと言わねばならん。
大きく息を吸い、一息に言葉を吐き出す。
「あ、えと、そのだな。胸の大きさなんて気にしなくて……俺は小さいのも嫌いじゃあ」
「リーメイさんの気持ち、少しだけだけど理解できるんだ」
「だから、その、な。気にせず君は君のま……え?」
「うん? どうしたのフジィ? 急にしゃがみ込んで」
「あ、いや」
タイタニアに引っ張り上げてもらい、パンパンとズボンをはたく。
深読みし過ぎた!
彼女は単に女神像を見てリーメイのことを思い出しただけだったんだああ。
だけど、相手がタイタニアならまだ誤魔化せる。
「リーメイの気持ちって?」
何事も無かったかのように話題を変えたら、タイタニアは特に疑問を浮かべることもなく言葉を返す。
「リーメイさん、一人で竜人とお話するって」
「うん。そこだけは譲れないって感じだった」
「きっと、リーメイさんも同じなんだよ。わたしと、たぶんリュティエさんやワギャンとも」
「俺に何かお礼をしたいってことかな」
「お礼とは少し違うの。お礼って『ありがとう』のお返しみたいじゃない。難しいなあ……えっと」
うーんと顎に指先を当て考え込むタイタニア。
でも、大丈夫だよ。タイタニア。ちゃんと俺に伝わっているから。
リュティエは元より、抜けている感じのタイタニアまでも俺のことをこんなに想っていてくれたんだな。
思わず彼女の頭に手を乗せ、精一杯の笑顔で口を開く。
「俺にも難しくてうまく言えないけど、ちゃんとここに伝わっているから。リーメイのこと、気づかせてくれてありがとうな」
「うん!」
リーメイも真摯に向き合ってくれていた。
荒唐無稽な俺の話を信じ、頼るだけじゃなく自ら困難に向かうことで俺の思いに応えようとしてくれたんだろう。
俺には崇高な思いなんてなく、座りが悪いから、悲しむ顔を見たくないから、俺の力で助けることができるなら助けたいと名乗り出た。
なんというかみんなと俺だととんでもない差がないか。
俺ももうちょっとちゃんとしないとな。うん。
気持ちを新たにしていたら、タイタニアが思い出したように呟く。
「フジィ、胸が大きいのがいいの? ごめんね」
ちょ!
もうすっかり忘れていたものだとばかり……。思わぬカウンターパンチにあからさまに動揺してしまう。
「あ、いや、だからだな」
「お風呂も……そうだよね」
「違うって! 君の裸を見たくない男なんて絶対いないから!」
ここで俺じゃなく男と言ってしまうのが、ヘタレたところだな。
いやいや、自分のことを省みている場合じゃねえぞ。
「フジィも……?」
「もちろんだよ! うん! こんな可愛い子と一緒にお風呂に入れるなんて嬉しいに決まってるじゃないか!」
あ、墓穴を掘った。
気が付いた時にはもう遅い。
さっきまでの哀しそうな顔はなんのその、タイタニアは胸の前で両手を組んでぱああっと笑顔になる。
「じゃあ、一緒に!」
ですよねええ。
こうきますよねえ。
ダメなんだ。ダメなんだよお。
俺の趣味じゃねえんだよ。恥ずかしがらずに入ってくれないと。
そこに興奮するんじゃねえか。