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16.バーベキュー

「俺の言う事を聞いてくれてありがとう。ワギャンたちはこっち、タイタニアはここへ」


 増設した土地の右側をワギャンら三人へ。左側にタイタニアを招く。

 中央に俺が立ち、みんなをその場で座るように促す。


「確認だが、俺の言葉は全員分かるんだな?」

「ああ」

「うん」


 ワギャンとタイタニアは答えるが、ワギャンがどこか考え込むように湿った鼻をヒクヒクさせた。

 やばい、ちょっと可愛い。

 ワギャンはシベリアンハスキーな顔でモフモフしているから、厳しい物言いをせず黙っていたら擬人化した犬みたいで癒される。


「ワギャン、どうした?」

「お前に話しかけた時、稀に言葉が通じてないことがあった気がする」


 そういや……。

 ワンワンとか遠吠えが聞こえきたことがある。最初にワギャンと会った時のうめき声とか、墓の前で彼と遭遇した時……犬そのものも鳴き声が聞こえたんだ。

 その時は確か、「日本語を喋ることができるんなら最初からそうしてくれ」とか思ったよな。

 でも、こうして会話している最中に、彼から犬っぽい鳴き声を聞くことは一度もない。驚きでうめく時でさえ、彼は日本語で声を出す。


 一つの可能性が浮かぶが、ワギャンらには言わない方がいいな。俺の安全のためだ。

 

 おそらく――

 ――我が土地の中ではどのような言葉でも日本語で聞こえるに違いない。


 それも明らかに外来語と思われるカタカナのニュアンスも含めて正確に。


「どうした?」

「いや、考えたけど、言葉は通じているし、問題ないかなってね」


 顎から指を離しワギャンへ応じた。


「そうだな」


 ワギャンもそれほど深く考えた様子もなく、その場にあぐらをかく。

 彼の様子を見たタイタニアも額に手を当て長い髪をかきあげ、ペタンと座り込んだ。


「仕方ないわね。コボルトとオークは本当に武器を収めたし……あ、あなた、まさか」

「ん?」

「モンスターも弔ったの?」

「うん。分け隔てなく。墓の場所は分けたけど。俺にとってはどちらも等しく志し半ばで散って行った戦士たちだからね」

「……信じられないけど……聖人だものね……」


 タイタニアはぶんぶんと首を振り、はああと頭を下げて地面に手をつく。


「ふじちまの言っていることしか分からないが、だいたい何を話しているのかは分かる」


 ワギャンはマッスルブらと頷き合う。


「俺の顔を立ててくれてありがとう」

「僕らと人間を弔ったお前の前で、僕らは殺しあうべきではない。お前の労苦と僕らの謝辞を水泡に帰すことなのだから」


 「ただし戦争中は除く」と野暮なことは言わないワギャンであった。


「バーベキューの準備をしながら、それぞれの戦う理由を聞かせてくれないか?」

「わたしに分かることなら」

「分かった」


 パンパンと軽く手を叩き動き出そうとすると、マッスルブが待ったをかける。


「フジシマ、ブーたちは獲物をとりに行ってたことを忘れてないかぶー?」

「忘れてた……」


 そういやマッスルブとジルバは何か放り捨てていたよな。

 彼らは獲物を獲って戻ってくるって言ってたよ。衝撃の事実に全て吹き飛んでた。

 

「とってくるぶー」


 マッスルブはジルバを誘い、芝生を出る。

 すぐに彼らは、カバに似た体躯を持つワニのような灰色の鱗を持つ見たことのない猛獣を抱えて戻ってきた。

 顔はワニに近く、体つきはカバと何ともまあ不思議な生き物だな。すでにとどめをさされているようで、ピクリとも動かないけど。

 

「それ……食べるの?」


 ワニもどきを指さし開いた口が塞がらない俺へ、マッスルブはぶひぶひと鼻を得意げに鳴らす。

 

「おいしいぶー。ご馳走ぶー。まさか草食竜がいるなんて」

「そ、そうか……」


 俺はいいけどタイタニアは……あ、聞くまでもなかった。

 ものすごい目を輝かせて草食竜へ熱視線を送っている。

 

「ふじちま。マッスルブとジルバが解体している間に炉を作りたい」

「あ、そうだな。地面を少し掘るか」

「なら、僕は石を集めてくる」


 ワギャンは枠の外に出て、手頃な石を探し始めた。

 マッスルブらも錆びたナイフで草食竜をグサっとやっている。

 

 芝生の上に転がったままのシャベルを持ってきて、慣れた手つきでよっこらせーとやるが……。

 硬い。

 硬すぎる。


「ビクともしねえ」


 芝生の床は芝生として使う以外に融通が効かないのか。

 ゲーム的に表現すると破壊不可のオブジェクトってところだな。この分だと家も同じように衝撃を与えても傷一つつかなさそうだ。

 素晴らしいことなんだけど、事この場においては使い勝手が悪い。

 

「ちょっと待っててくれ」


 そう言い残し、藁ぶき屋根の家に入る。

 

 我が土地の外でバーベキューをするのは論外だ。俺の安全が確保できないし言葉も通じない。

 いくら彼らと少しは打ち解けたとはいえ、危険を避けるにこしたことはないだろう。これまで平和ボケしていて痛い目に遭ったことも数度……安易に外へ出たらダメだ。

 

「そうなると……これしかないよな」


 タブレットを出し、注文リストを眺める。

 

『注文

 アウトドアカテゴリー

 ・バーベキューコンロ(小)二十ゴルダ

 ・バーベキューコンロ(中)三十ゴルダ

 ・オープングリル 百ゴルダ

 ・炭(一キロ) 十ゴルダ』

 

 お、こんなものまであるのか。

 注文リストから出て来る道具は全て現代的なものだ。この世界の文明に合わせている様子は微塵もない。

 助かると言えば助かるけど、これが外に漏れるとあまりよろしくないな。

 

 どうしたものか……。

 少しだけ考えるが……すぐに適当に誤魔化すことを思いつく。

 

「じゃあ、注文」


 バーベキューコンロ(中)と炭が宝箱に出現する。

 コンロはギリギリのサイズで、あと少し大きかったら宝箱に入りきらなかった。

 大型の道具を注文することも考え、いずれ宝箱のサイズは大きくした方がいいかも。

 

 出て来たバーベキューコンロはキャンプ場でよく見るもので、黒いボディをしていて、組み立て式になっている。

 網が二枚と鉄板に長方形の本体。脚の部分を取り付けるだけで完成する作りになっていた。

 炭は茶色の紙袋へみっちみちに入っている。少し引っ張ると、紙袋が破けそうだよ。

 

「よし、これを持って戻ろう」


 扉の外へ出ると……何やら仲睦まじい光景が。

 ワギャンらとタイタニアが一緒になって草食竜を解体していた。

 

「お待たせ。これを使おう」

「変わった炉だな」


 ワギャンが手を止め、バーベキューコンロに手を触れる。

 

「うん。魔法でつくったんだよ」

「そうか。納得だ」


 疑問に思った風もなく、ワギャンは解体作業へ戻って行く。

 あれ? それで納得なの?

 少しぐらい何か言われるかと思ったけど、何も無し。

 都合のいい話だけど……まあいいか。

 

「忘れそうになっていたけど、あなたは導師だったものね」


 俺を手伝おうとタイタニアがこちらにやって来て、そんなことをのたまった。


「ま、まあな……」


 はははと乾いた笑い声を出しながら、頭をかく。

 

「じゃあ、すぐに組み立てるから、炭を中に入れた後、火をつけることってできる?」

「うん。火打石を持っているから、火種も心配しなくても大丈夫よ」

「ありがとう」


 うん、火をつけることまで考えてなかった。

 IHクッキングヒーターで火をつけるにはデンジャーだしな。

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