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152.俺に任せろ

「獣人達のことは気にせず、俺の判断のままに行動してくれってことだよな」

「何もかもお見通しでしたか」


 リュティエは感じ入ったように喉の奥をぐるると鳴らす。

 彼から聞かずともいずれ俺は誰かから火山と竜人の情報を聞くことになっただろう。

 彼が思う俺は「種族問わずあの傍若無人で襲うことしか知らないゴブリンでさえにも慈悲を与える聖人」なのだ。

 だから、竜人の話を聞くとすぐに助けに行くと考えた。だけど、獣人は竜人に対し思うところがある。

 となったら、俺が竜人と獣人の間で悩むことになるだろうと。

 そんなわけで、リュティエは先手を取って俺に竜人達のことを話したんじゃないかって推測した。


「君が気にするような懸念はないよ」


 俺の一番はサマルカンドの住民たちが平和に安穏とした生活を送ってくれること。

 彼らの生活を脅かすものなら積極的に関わって行くつもりだ。だけど、街の外のことについては、無理をしてまで出て行こうとは思わない。


「分かりました」


 んー。リュティエも複雑な気持ちなんだろうか。

 長年近からず遠からずの関係だった竜人の危急なんだものな。いくら自分の地を追い出した者達とは言え、もし滅ぶようなことがあれば話は別ってことかな。


 ハッとなり、片手をギュッと握りしめる。

 もしかして――。


「何か竜人達から頼まれているのか? それか、種族ごと全滅しそうな状況か?」

 

 思った以上に深刻なのかもしれない。


「……浅はかな私をお許しください」


 リュティエは懐から革紐で出来たチョーカーを取り出す。

 チョーカーには何本もの動物の歯が付いていた。


「これは竜人の長ナグルの牙です。私は甘い。これをオークのとある若者から託された時、あれほど憎かった竜人のことが懐かしく彼らの壮健を願ったのです」

「友人を想う気持ちは種族への恨みとはまた別じゃないか?」


 戦争中の国同士でも、個人間では友人同士になりうる。そこまで不思議な話ではない。


「私はふじちま殿に話すことで、判断を貴殿に託してしまったのだ。貴殿が救うというのなら赴こう。行かぬというのなら……」

「リュティエ」


 彼の言葉を遮り、頼り甲斐のある虎頭の名を呼ぶ。


「はい」

「行こう。竜人達の元へ。彼らが救いを求めてくるのなら、助けよう」

「ふじちま殿……」


 ポンと彼の大きく太い肩に手を乗せ、微妙な笑顔を作り、言葉を続ける。


「でも、俺は俺のできる範囲のことしかできない。助けようとしてあんまりになるかもしれないけど……」


 苦笑し頭をかく。


「かたじけない。重ね重ねになりますが、獣人の感情は考慮に入れずとも問題ありませぬ」

「分かった。竜人の元まで案内してくれるか? 彼らが会談をしてくれるなら、話を聞こう」

「ふじちま殿……」


 リュティエは言葉をつまらせ、下を向く。

 彼は牙のついたチョーカーを握りしめ、ぐぐぐっとなにかを堪えているようだった。

 「助けたい」と思うリュティエの気持ちに応えたい。

 正直なところ、竜人達というよりは敵対したものに友情を向ける彼の崇高な想いに胸が熱くなったってことが大きいけど。

 

「わたしもついて行きたい!」


 ガタリと勢いよく立ち上がったタイタニアはふさふさのリュティエの手と俺の手を握る。


「分かった。今度は一緒に行こう。いいかな? リュティエ?」

「もちろんです。タイタニア殿、よろしくお願いいたす」

「ありがとう!」


 タイタニアは華が咲くような満面の笑みを浮かべ、両手を上に振り上げた。

 彼女は俺とリュティエの手を握りしめたままだったから、彼女に引っ張られるように腰が浮く。

 

「そうと決まれば、メンバーの選出や俺たちが不在の間どうするか決めないとだな」

「今晩、集会所にて議論するでよいですかな?」

「うん。そうしよう」


 タイタニアに手を握りしめられたまま立ち上がり、開いている手でリュティエとガッチリ握手を交わした。

 

 ◇◇◇

 

 ――翌朝。

 コポコポとコーヒーメーカーからコーヒーを抽出する音が聞こえ、トースターはジジジジと独特の電子音を立てている。

 日本にいたら、よくある朝の音楽。

 だけど、この世界ではおそらく我が家だけの光景だろう。

 

「すごくいい香りがするね!」


 タイタニアがコーヒーメーカーの前で鼻をひくひくさせ、目を細める。


「次はタイタニアに任せるよ」

「うん!」


 コーヒーの香りを嗅ぎたくて、昨晩コーヒーメーカーを出したのだ。

 ついでに手でグルグル回すタイプのコーヒーミルも用意した。こいつでコーヒー豆をぐりぐりすり潰すといい香りがするんだよなあ。

 うーん。コーヒーの香りってなんて気持ちが落ち着くんだろう。

 少なくともタイタニアは、気に入ってくれているようだけど……。

 

 ――ガチャリ。

 入口の扉が開き、ワギャンが戻ってきた。

 彼は俺が起きる前に家を出て、出立の準備をしてきたのだ。

 

「香でも炊いたのか? なんとも落ち着く香りだ」


 ワギャンはすんすんと鼻を鳴らし、香りを楽しむかのように目を瞑る。

 

「コーヒーを豆から淹れてみたんだ」

「どこかで嗅いだことがあると思った。なるほど。元はこれほど強い香りがするんだな」

「いつも、インスタントコーヒーだからさ。たまにはと思ってさ」

「コーヒーに種類があるのか?」


 あ、そっか。

 インスタントコーヒーとか言ってもワギャンとタイタニアには理解できないな。

 

 ざっくりとインスタントコーヒーについて彼らに説明する。

 香りはあんまりだけど、お手軽に淹れることができるのがインスタントコーヒーのメリットだよな。

 インスタントコーヒーも嫌いじゃない。

 何を考えているのか分からなくなってきたところで、タイタニアから声がかかる。

 

「フジィは準備が終わったの?」

「あ、いや。俺はほら。移動式だし? タイタニアは準備できたの?」

「うん。剣とか革鎧は身に着けるものだし。残りはこのポーチに」


 タイタニアはポンと腰ベルトに通した大き目のポーチを叩く。

 俺? 俺は手ぶらだよ。

 そうそう。昨日の晩、竜人達の元へ出向くことについて会議を行ったんだ。

 議論? そんなものは無かった。

 マルーブルクが開口一番に「いいよ。こっちはちゃんと見ておくから。何かあったらカラスを通じて連絡するから」の一言で全て片がついてしまう。

 人選もリュティエの希望で少人数で赴くことになり、こちらもあっさりと決定した。

 行くのはリュティエ本人、ワギャン、立候補したタイタニアに俺の四人だ。

 

 それで朝から出立の準備をしていたわけだけど……俺は手ぶらだし、ワギャンもタイタニアも手荷物は無し。小さなポーチに入るだけの道具のチェックくらいしかすることが無かった。


「食材、野営全てお前に任せて悪いな」


 タイタニアが注いでくれたコーヒーをコトリとテーブルの上に置き、ワギャンがペコリと頭を下げた。


「コーヒーありがとう。いや、少人数だし魔術で解決することは魔術で解決したいってのは俺の希望だから」

「ハトも連れて行かないか?」

「そうだな。連れて行こう」

「分かった」


 ワギャンに言われてハッとなる。

 忘れてた。

 ハトがいれば空から観察することができるようになるんだよな。

 「パネエッス」ってうるさいし、食べてばっかりだけどワギャンを乗せて空を飛べることは大きなメリットだ。

 できれば、カラスも連れて行きたいけど奴には連絡役としてサマルカンドに残ってもらわないといけないからな。

 ちなみにカラスへの報酬はポテトチップス十袋である。

 あいつ、生意気で横暴だけど知識と魔術は飛び抜けていて頼りになるのに、どうもこう報酬とかの話になると動物的で報酬を渡すこっちが微妙な気持ちになってしまう。

 カラスが満足しているならそれでいいんだけどね……。もはや何も言うまい。



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