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145.スイカのような

 食事モードに入ったグバアは転がる亀達の方へ向きを変える。

 奴の神々しい枯れ葉のような嘴が上を向いた。

 続いて嘴がパカンと開かれる。


 ――ポコポコポコ。

 グバアが嘴を打ち合わせると、なんとも間の抜けた音が響き渡った。

 しかし、音とは裏腹に目に見えない衝撃波が亀達に向けて発射されたようだ。

 その証拠に細かく震えた亀達が次々に甲羅ごと爆発四散していく。

 甲羅の中から赤色や黄色の身が飛び散る。あ、あれ、肉じゃあなくスイカの中身みたいに見えるぞ。

 あの生き物……やはりスイカなのか?

 なんて驚いている間にも亀達のいる地面から竜巻が舞い上がり、グバアの口に吸い込まれていく。


『お前の分だ』


 空から一体の亀が落ちてくる。

 対する俺は慌てて亀を通すようアクセス権を設定した。

 ゴロン。

 どうにか間に合ったようで、窓から亀が落ちてきて床に転がる。

 ほう、近くで見るとますますスイカにしか見えないな。

 ゴロン。ゴロン。

 ゴロン。ゴロン。ゴロン。


「うおっ。もういい。もういいから!」

『そうか』


 「そうか」じゃねえよ。どんだけ放り込んでくるんだ……。

 ま、まあいい。みんなにお裾分けしよう。

 大量の亀を前にワギャンと顔を見合わせ、頷き合う。


「もう食べ終わったのか?」

『うむ。してカラスのことだったか?』

「そうだな」


 本当に唐突だなグバアの奴は。まあ、超生物に機微を求めても仕方ないか。


『カラスは我が友だ。あやつの好きにさせる』

(しもべ)じゃなくて友達なのか?」

『うむ。あやつは力は無いが知恵者。我に無いモノを持っている』


 意外な言葉に開いた口が塞がらなくなる。

 絶対者である神にも等しきハシビロコウが、友という感情を持っていただなんて。

 彼に並び立つ者がいないなんて思っていた俺の認識を改める必要があるな。

 でも、それなら、さ。


「モフ龍とかシーシアスってやつとも仲良くできるんじゃ?」

『……』

「分かったから無言で睨むな」

『……』

「悪かったって」


 何か奴の琴線に触れてしまったらしい。

 ようやく機嫌を直してくれたグバアが嘴をパカンと開く。


『面白い奴だな。お主は』

「そ、そうか?」

『お主は何がしたい? 何を成したいのだ?』

「難しい質問だな。俺は俺の見える範囲の人たちが笑顔で暮らすことができればそれでいい」


 これが今の俺の率直な気持ちだ。転移当初は自分さえなんとかなりゃいいと思っていたけど、今は少し違う。

 ここで出会って共に暮らす人たちと一緒に楽しく暮らしたい。


『欲が無いのか、中途半端なことだな』

「これでもかなり欲張りだと思ってるけどな」

『まあいい。それがお主なのだな。カラスまでもが興味を持つのは分かる』

「あいつは……いや、何でもない」


 カラスは「くあくあ」囀ってポテトチップスを欲しさに居着いているだけな気がするけど……グバアの手前言葉を控えることにした。

 そういや、カラスがグバアのお友達ってことは分かったけど、ハトはどうなんだろ?


『どうした? 我の眷属に興味があるのか?』

「特には……強いて言うならハトくらいか」

『うむ。我はグウェインらと違い眷属など持たぬ。真の絶対者とは支配することではなく、君臨することなのだ』


 うわあ。聞いちゃいねえ。

 さすが唯我独尊を地で行く絶対生物。

 ま、でも、強者が眷属を持ち頂点に立つよりは、孤高の方が俺にとって好ましい。


「分かったから、興奮するな」

『我はいつも通りだ。我の在りようは全て我の平常である』

「あ、うん」

『して、ハトのことだったか?』

「お、おう」


 覚えていたらしい。

 もはやどうでもよくなっていたが、せっかく話をしてくれるなら聞いとくか。


『あやつは個にして集。集にして個なのだ』

「よく分からん……」

『我もあれほど特異な生き物を見たことがない。なればこそ手元に置いているのだ』

「卵を吐き出したからてっきり……」

『腹の中にあるのではない。繋がっておるだけだ』


 また婉曲な言い回しだなあ。

 いちいち聞くより疑問点はスルーしてハトのことだけに絞った方がよいだろ。

 そうしないと、まとまりが無くなってますます訳が分からなくなるからな。


「ハトの特異性なあ。あ、そういや」


 あいつ、産まれた時から大人と変わらないほど達者に喋ったよな。それに、カラスと遭遇した時、まるで昔からの知り合いのように「先輩」って呼んでいたんだ。

 ならハトの記憶はどこから来たんだろう。記憶を持ったまま転生? それとも別の何かか。


『あやつは常にこの世界にいる。卵の時もあるが……時間が経過すると自然に卵が割れ生まれてくる』

「ん、んー」

『あれは個にして種』

「ハトって種族の生き物はその辺を沢山、飛んでいそうだけど……」

『あやつは一羽のみ。そういう生き物なのだ。ある意味、お前や我のように世界の歪みなのだよ』

「よく分からん」

『カラスに聞くとよい。ではな、良辰よ』


 あ、え?

 グバアは勝手に話を打ち切って優雅に飛び立ってしまった。

 あまりの飛行速度に目が追いつかねえ。なるほど、いつもあのスピードで不意に現れていたのかよ。

 転移でもしてきたのかと思っていたが、単純に速いだけだったというオチだった。

 ある意味、転移魔法なんかより奴の力の片鱗を窺い知ることができるよな。

 飛行速度(物理)ってさ。


「帰ろうか」


 じっと俺とグバアの話を横で聞いていたワギャンへ声をかける。


「分かった。これはどうする?」


 対するワギャンは床に積み上がるほど転がった亀へ目を向けた。


「みんなを呼んで手分けして運ぼうか」


 グバアが捕食していたんだし、スイカみたいだから食べると美味しいのかもしれないものな。

 せっかくだから食べてみたい。


「そうだな」


 前を向いたワギャンの尻尾が左右に揺れていた。

 彼もこいつを食べてみたいとの期待から尻尾をふりふりしているんだろうか?

 

 亀を一体づつ抱えた俺とワギャンはゆっくりと階段を降り始める。

 そこでふとワギャンが思い出したように呟いた。


「お前は勇敢なのか慎重なのか分からなくなってきた」

「ん?」


 あ、そうか。

 ワギャンはカラスに謎魔法をかけてもらったから、俺と同じように全ての言語が理解できるんだった。

 今のはワギャンが俺とグバアの会話を聞いた感想ってことか。

 

「作戦を練る時のお前はこれぞ深謀遠慮との言葉が相応しい。一体お前の中で何手先まで見えているのか僕には想像できない」

「い、いや……そんなわけでは……」

「それが、神にも等しい巨鳥を前にして、あの態度。実は何か考えがあってのことかもしれないが、ビックリした」

「それは、グバアがどれだけ強大な力を持とうとも、俺は壁の中にいれば安全だからだよ。勇敢とは程遠い」

「完璧だと思えるお前だが、一つだけ欠点がある」

「ん?」

「謙遜が過ぎるところだ。僕は居丈高にならないお前のその欠点を好ましく思っているが。眉をひそめる者もいるだろう」

「そうかもしれないな……」

「裏があると思われるかもしれないから。気をつけろ」

「ありがとうな。ワギャン」

「感謝されるようなことを言ってはいない」


 そう言いながらもワギャンは照れたように耳がペタンと頭につく。

 

 ワギャン、君は本当にいい奴だよ。

 俺は心の中でもう一度、彼に感謝の言葉を述べたのだった。

 

「まずはこの抱えている亀を試食してから残りを取りに行くか決めようぜ」

「そうだな」


 物見から出たところで、俺とワギャンは顔を見合わせ笑いあう。


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