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133.サマルカンドへ帰還

 一週間と少しサマルカンドから離れていただけだったけど、随分久し振りに思える。

 ワギャンから街にゴブリンらが襲撃してきたと聞いていたが、いくらみんなから「大丈夫」と言われていてもやはり心配だ。

 遠目から街を見る限り変わったところはないように見えるけど……。


 街に到着すると、土台の道の中にズラッと並んでいた住民の皆さんが一斉に歓声をあげる。

 門の前にはフレデリックとリュティエが並んで立ちこちらへ顔を向けていた。


「ただいま」

「お帰りなさいませ」


 いろいろ言いたいことがあったけど、口をついて出たのは平凡な一言。

 対するフレデリックは柔和な笑みを浮かべ完璧な執事の礼で返す。

 リュティエも胸の横に腕を垂直に伸ばした獣人式の礼で迎えてくれた。


「ゴブリンが襲ってきたと聞いたけど、みんな無事かな?」

「はい。ただの一人たりとも怪我をした者はおりません」


 フレデリックが淀みなく答える。

 この様子だと街の人達は大丈夫そうだ。

 ホッと胸を撫で下ろし、フレデリックへ質問を投げかける。


「よかった。そのゴブリン達の中に名付きはいた?」

「ええ。確か……ゴ・ローという名があったかと」

「ありがとう。グラーフの街を占拠してたゴブリンらが言うに戦闘大好きなゴブリンの集団が二組いるみたいでさ」

「そうでございましたか。名付きは二体いました」

「ありがとう。俺たちのことも含めて、詳しくは夜に集会所で」

「かしこまりました」


 この場はこれで解散として、連れてきたゴブリン達には街から見えないくらい離れたところで休むよう指示を出した。

 街の近くへ彼らを移動させるかは街の様子を見てから判断するつもりだ。ゴブリン族の襲撃があったばかりのところに、別の集団とはいえ何も協議せずに同じゴブリン族を入れるのはさすがにはばかられるだろ?

 彼らにはパンと水を渡しておいたから大人しくしているはず。

 俺の連れてきたゴブリン達は小麦狂だからな……。とりあえずパンがあれば大丈夫。


 ◆◆◆


 みんなと一旦別れ、久々の我が家へ帰り着く。

 門扉を開けると、中から階段を降りる音が聞こえてくる。

 扉を開ける音に気がついた誰かが俺を迎えに来てくれたのだろう。


 中にいる人は一人しかいない。


「ただいま」


 右の手のひらを少しだけ上げる。


「フジィ!」

「うわっぷ」

「おかえり、フジィ」

「あ、う、うん。く、首がしまっ……」

「ご、ごめんね。つい」


 ハアハア……。

 息がかかるほどの距離でタイタニアがえへへと少し困ったように俺を見上げている。

 彼女も元気そうで何よりだ。

 最初出会った頃はこんな子供っぽいところがある女の子とは思わなかったよ。自分の命を繋ぐため脱ぎはじめたんだからさ。

 切れ長の目やスラリとした引き締まった体躯から受ける印象は強気で勝ち気な女性。

 喋り方も当初もっと大人っぽい感じだったのもあり、彼女の変化には少し驚いたものだ。


 でも、今なら分かる。

 彼女は最初から変化し幼さを見せるようになるまで、演技をしていたんだろうなあってね。今の彼女が素に違いないことは確実だ。


「どうしたの?」

「あ、ごめんごめん。つい考え事を」

「ゴブリン達のことかな?」

「あ、いや、君のことを」


 や、やべえ。

 今の発言は無し、マジで無し!


「そうなんだ! わたしもフジィとみんなのことを考えていたよ!」

 

 満面の笑顔で俺の肩へ両手を添えるタイタニアに裏は一切感じない。

 彼女の屈託のない顔を見ていると、恥ずかしさから火照った頬から熱が引いていく。

 

 ――とここまでなら和やかなお話でおしまいだったんだけど。


 さっきから俺の頭を何者かにコツコツと突かれている。

 こいつは人間やコボルトではない。嘴のある生物だ。

 扉を開けっぱなしにしていたのがよろしくなかった。外からそいつは入ってきたんだ。


 そして現在、俺の頭の上にとまり盛大に嘴を振るっている。


「……分かったから、そろそろ移動してくれ」

「仕方ねえ。動いてやるか」


 渋々といった声でそいつは勢いよく翼を広げ飛び立つ。

 風圧でボサボサの髪の毛が舞い上がった。

 すぐにそいつはばさりと翼を羽ばたかせ、俺の時とは違い優しくタイタニアの肩に着地する。


「『家に入れろ』といきなり頭の中に声が響いた時は驚いたよ」


 そう、俺の頭を突きまくっていたのは漆黒の羽毛を持つ三本足のカラスだった。

 「先に家に行く」とか言うもんだから、入れてやったんだが……こいつここに住み着いてるのか?


「様子を見るだけのつもりだったんだがな。飯がうまい」

「そ、そうか……」


 タイタニアが毎日カラスへ餌を与えてくれていたのかな。


「飯が中断されたんだよ! くああ!」

「カラスさん、ごめんね。フジィが帰ってきたから」

「いいっていいって。俺もこいつを待っていたんだしな」


 腹いせに俺の頭をコツコツやりやがったな……こいつ。

 文句の一つでも言ってやろうとしたら、先んじてカラスがくああと囀った。


「ちゃんと礼はした。さす俺だな」

「礼……?」


 こいつのことだ。ロクなものじゃないだろうけど、変に暴れず大人しく我が家にいてくれただけで良しとしよう。

 ところが、タイタニアが両手を開いてカラスと俺へ順に目をやる。


「カラスさん、すごい魔法を使うの」

「ほ、ほう?」

「フレデリックさん、リュティエさん、わたしはお互いの言葉だけじゃなく、ゴブリンの言葉も分かるようになったんだよ!」

「な、なんだと……」


 カラスとハトは俺と同じで誰であっても言葉を理解する種族になら自分の言葉を伝えることができるし、相手が何を言っているのか分かる。

 とても便利な能力なんだけど、まさかこの能力が魔法に起因するものだったとは。


「詳しくはこの後、集会所で教えてくれ。あと、カラス」

「くあ?」

「ありがとうな。助かるよ」

「礼だと言ってるだろう。巣を借りたのと飯のお代だ」


 照れてるのかプイッと顔を真後ろに向けるカラス。

 さすが鳥。あんなところまで首が回るのか……。


「フジィ、お家の中に入らないの?」


 カラスをどういじってやろうかと考え黙ったままだったら、タイタニアがもっともなことを口にする。


「だな! お茶でも淹れてソファーでくつろごう」


 カラスを肩に乗せたままのタイタニアと一緒に愛しの我が家へ入る俺であった。

 

 ソファーで足を伸ばしてくつろぎ、タイタニアが淹れてくれたコーヒーをゴクリと飲む。

 ああああ。至福の時間だぜ。

 ちょっと気障ったらしくコーヒーカップをコトリと置くと、なんだか自分がダンディでカッコよく思えて来るから不思議なもんだ。

 

「くああ!」

「なんだよ……」

「アレを出せ、アレを」

「アレじゃあ分からん……」

「アレだよアレ」

「だから、アレじゃあ分からんって言ってるじゃねえか!」


 ぐうおお。頭を突っつきやがって。

 負けるものかと頭に乗っかったカラスをペシンとしてやろうとしたら、ヒラリと躱されてまった!


 なんてことをやっていたら、ピンポーンと呼び鈴がなる。

 

「はーい」


 タイタニアが扉を開けると、ワギャンの姿が見えた。


「おかえり。ワギャン」

「戻った」


 ワギャンは軽く右手をあげ、タイタニアが彼のもう一方の手を握りしめる。

 彼女に引っ張られるようにワギャンが部屋の中に入ってきた。

 

「久しぶりに全員揃ったな。このまま宴会に……といきたいところだけど集会場に行かないとだな」

「そうだな」

「うん!」


 ワギャンとタイタニアが口を揃える。

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