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114/249

114.準備は大事

 そんな俺の肩を誰かが掴み、ぐぐっと引き寄せられた。

 

「兄ちゃん」

「ん?」

 

 俺を引っ張ったのはクラウスだったようだ。彼はいつになく真剣で渋みのある顔で俺の耳元で囁く。

 

「来ているぜ。奴ら」

「ゴブリンか」


 クラウスと囁き合いながら、マルーブルクへチラリと目をやると彼は既に状況を察しているようだった。

 俺と目が合った彼は軽く首を振り、朗らかにワギャンのグラスへコーラを注ぎ始める。

 なるほど。ゴブリン共へ気取られないようにしろってことだな。


「どれくらいいる?」

「ここをグルリと囲んでいるぜ。数は二十以上」

「踏み込んできそうか?」

「いや、遠巻きに様子を伺っているだけだな。思った通り、奴らは厄介だ」


 俺たちの数は十人と一羽。対するゴブリン達は二十と俺たちの倍の数がいる。

 それでも奴らは俺たちのことを警戒し、襲い掛かってこようとはしない。

 取り囲む自分達にも気が付かず、呑気に宴会をしているような間抜けどもである俺たちにだ。

 ゴブリンは直情的で本能のままに動いていた。それはもう過去の話ってわけだ。

 奴らは一流の戦士であり、人より若干考えが浅いところが見受けられるものの統率力があり、判断力もそれなりにある。

 

「手ごわそうだな」

「そうだな」


 クラウスと頷き合う。

 そして、俺たちはお互いにニヤリと口元をあげる。

 

「そうこなくっちゃな」

「おう」


 順調順調。

 もっと奴らに見せつけてやらねえと。奴らにとっての「財宝」ってやつをな。

 ククク……。

 

「はう……」


 突然フェリックスがその場で崩れ落ちた。

 ど、どうした?

 ビックリして彼の元へ駆けよると、頬を紅潮させ肩を震わせているじゃあないか。

 

「大丈夫?」

「は、はい。良辰様からいつにない野性的なオーラを感じたものですから」

「そ、そうか」

「確かにさっきは、変な顔をしていたね。クラウスの真似でもしていたのかい?」


 マルーブルクが嫌な突っ込みをしてくる。

 ど、どうせ俺がニヒルな笑みや悪巧みな顔を浮かべても似合わないのは分かっているさ。

 不貞腐れたところで、日本の居酒屋ちっくな掛け声が聞こえてきた。


「そろそろ片付けに入りまーす」

「閉店の時刻になりまーす」

「喜んでー」


 バーベキューコンロの前でクラウスの部下三人がいつもの調子で片付けに入った様子。

 もうみんな食べ終わって、お腹一杯ってことなんだな。

 しかし、ふざけた口調とは裏腹に彼らの動きは極めて早い。


「俺も手伝うよ」

「あっしらだけで十分でさあ。旦那方は休んでおいてください」


 声をかけたところで、丁重にお断りされてしまった。

 細かいところだけでも、片付けをしておくとしよう。

 

 ◆◆◆ 


 俺たちが片付けを済ませる頃にはゴブリン達の姿が消える。

 その後俺はノンビリと風呂に浸かり、そのままベッドで就寝した。

 

 夜中は誰も警戒態勢を取らず、全員きちんと寝るように指示を出す。

 ゴブリン達に俺たちが御しやすく無警戒な相手だと思わせるためだ。もう一つ、俺たちはたった十人しかいないから、一日中厳戒態勢を取るより全員が同じ時間に動ける方がよいってのもあった。

 何しろこっちは絶対無敵のプライベート設定だからな。万に一つも我が土地の中へ踏み込まれることはない。

 

 ――翌朝。

 んー。いい天気だ。

 大きく伸びをして、砦から外に出ると既にみんな集まっているようだった。

 

 テーブルには席がまばらに開いていて、ちょうどふわふわの金髪をした少年の隣も開いている。

 ここに座るとするか。


「おはよう」

「やあ。そろそろ朝食ができるみたいだから、まずは食べようか?」

「おう」


 マルーブルクと朝の挨拶を交わし、彼の隣に腰かける。

 む。むむ。

 何とも言えぬいい香りが俺の鼻孔をくすぐるじゃあないか。

 

 はたと顔を向けると、フェリックスとワギャンが両手に籠を抱えてこちらに歩いてきている。

 籠には焼き立てのパンが溢れんばかりに詰め込まれていた。

 

「すげえ。朝からよく作ったな」


 こんがりとしたパンの匂いに目を細めながら、感嘆の声をあげる。

 

「せっかくだから、作り置きせずとのことだ」

 

 テーブルに籠を置いたワギャン。

 籠からはドシンとした音がした気がする。それほどまでに沢山のパンが入っていたんだよ。

 

 紅茶と焼き立てのパン、コンソメぽい味のスープにスクランブルエッグが今日の朝食だ。

 適当に出しておいた食材で、ちゃんとした食事を提供してくれるクラウスの部下達に感謝を。

 

「食べ終わったら、さっそく作業をしよう」

「そうだね」


 ◆◆◆

 

「さて、先に準備をするか」


 タブレットを操作し、芝生の上に宝箱(大)を設置する。

 続いて、メニューオープン。

 

『食品カテゴリー

 業務用小麦粉(十五キロ):二十五ゴルダ

 麻袋入り小麦粉(五十キロ):七十ゴルダ

 大麦(十キロ):三十ゴルダ

 米(十キロ):二十ゴルダ

 ……』

 

 穀物ばっかだけど、ゴブリンはあの時「小麦を寄越せ」って言っていた。

 ならば、小麦粉を積み上げてやろうじゃねえか。

 

 名付けて「いっぱい食べ物があるよ」作戦だ。


「そこの箱にどんどん麻袋を出すから、近くに積んでもらえるか?」


 みんなで手分けして、小麦粉入りの麻袋を運び出していく。

 

「うお、すげえな……」


 クラウスが片手でひょいと麻袋を持ち上げ、肩に担ぐ。

 イ、イケメン。

 俺だってやってやろうじゃねえか!

 

 宝箱の前にしゃがみ込み、麻袋へ手を伸ばす。

 ここで注意しないといけないことは、麻袋を下から持ち上げること。

 もう一つ、膝と共に立ちあがること。腰をあげたまま持ち上げたら、腰を痛めるからな。

 クラウスみたいに持ったらダメだぞお。

 

 よっこいせっと。

 お、重たい……。

 ふんがああと気合を入れて持ち上げる。

 

「お、おお……」


 変な声が出てしまったが、ヨロヨロとそのまま数歩進み麻袋を無事積み上げることができた。

 一方で、フェリックスが一人で麻袋を持ち上げようとして動けないでいる。


「姉様、手伝うよ」

「はい!」


 公子自ら汗水を流す様子に俺とワギャン以外はビックリしていたが、彼らも強く自分達も手伝いたいと希望したんだよ。

 上に立つ者の鏡だよな。うん。

 でも、残念ながら力が足りていない。

 マルーブルクはまだ体が小さすぎ、フェリックスは腕が細すぎる……。

 

 なかなか麻袋が持ち上がらなくて頑張っている二人の姿には癒されるけど、手伝った方がいいな。

 彼らの間に割って入ろうとしたら、ワギャンが先んじて彼らへ手助けをする。

 

「無理するな」

「力仕事じゃあ、ボクらは役に立たないね」

「気持ちが大事だ」


 ワギャンが男前なことを言いながら、一人で麻袋を担ぐ。

 彼も体が小さいのに、存外力持ちなんだなあ……。ビックリしたよ。


 こうして芝生の上に大量の麻袋を積み上げた俺たちなのであった。

 マルーブルクとクラウスの勧めでワザと二つばかりの麻袋に傷をつけ、中身を出しておく。

 これで、ゴブリン達に袋の中身が何か一目瞭然ってわけだ。

 

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現代知識で領地を発展させ、惰眠を貪れ!

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