第七話 肉屋コスタード
大将が振舞ったのは〈鐘壊し焼き〉という肉料理だった。鐘壊しというのが何の魔物を指すのか知らないが、唐辛子とニンニクの風味の利いた柔らかな肉はエールによく合った。
「オスクリタ、これからどうする? 誰を倒せばここから出られるんだい」
『私・分かっている→必要→依頼・達成』
冒険者らしくなってきたな、と思いながらジェイは彼女と念話で話しつつ料理を食べ終えた。
この区画の歓楽街を仕切るのは〈スカーフェイス・ジャッキー〉という顔役だ。彼女の腹心の部下〈大荒野のバルド〉という男は彼女に死んで欲しがっている。さらには彼ら二人に死んで欲しい、ライバルの組織のボスもいる。
そこでオスクリタはこの三人の暗殺を依頼された。依頼者は不明だが、彼女は都市当局の関係者だろうと踏んでいる。ごたごたは早いところ収まって欲しいからだ。対立組織のボス〈ノア・ブリッジス〉はジャッキーと会談を行うことにした。おそらくここでバルドが二人を出し抜いて、何かの罠をしかけるだろうとオスクリタは踏んでいる。そこで二人が彼の計画通り死んだのならあとはバルドを消し、生き残ったのならその後始末をつける、という計画だ。
会談の場所は歓楽街の奥にあるレストランで、もちろん護衛は大勢つくが店の中には武器は当然持ち込めない。バルドはあらかじめ何かをしかけてあるのではないか。爆弾? いや、店全体が両陣営の魔法で調べられる。下手なことはできないはずだ、せいぜい料理で必要な呪文くらいしか許可されないだろう。
ジェイがおおせつかったのは、オスクリタの侵入経路を〈寄波〉で確保することだ。下水道に忍び込んでレストランの真下まで穴を開ける。まるで銀行強盗だな、と言いながら彼は地下に潜った。
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ノアは口ひげを撫でながらにこやかに言った。「ジャッキー、あんたは結構な美食家だと聞く。だがさすがに、こいつは食ったことがねえだろう。見ろよ、火竜の卵だぜ」
ジャッキーは感心したように答える。「ほう、そいつぁ確かに初めてさね。旦那、どうやって料理させる?」
「丸茹でさ、今からちょいと火の魔法でシェフに活躍してもらうのさ。さあ、頼んだぜ……」
厨房に運ばれていく巨大な卵。数秒後にはつんざく声と破壊音がレストランを満たした。
卵は予定されていたものより孵化寸前で、シェフの魔法は本来より少しだけ温度が高いものとなっていた。
さらに、食材の鮮度を保つ魔法が、成長を著しく促すものに摩り替わり、孵化した竜に対してそれが行使され、惨状が繰り広げられた。
レストランに忍び込んだジェイとオスクリタは、悲鳴と混乱を目の当たりにするが、ウィンドボーンの暗殺者は冷静に二人とも死んだのを確認して首謀者バルドの追跡に移った。
「何てこったい! 竜だと、冗談きついぜ! おいオスクリタ!」
『必要・無い→心配。現れる→人材・適切・今すぐ』
そんな念話が来たものの、周囲の消し炭となった死体を乗り越えて竜はジェイに顔を向けた。
炎と熱。それをどうにか転送させ防ぐが、服の一部は焦げ、建物に火が点いた。今来た穴から逃げなくては。そう思っているが、天井が焼け落ちて退路を絶たれる。むろん再度魔剣で穴を掘ればよいが、竜がなおも襲い掛かる。
大口は目の前にまで迫るが火は吐かれなかった。竜はそして、もう動くこともなかった。
その首がまず最初に胴体を離れた。次に両手、両足、尾と続いた。血は出ていなかったし、切られたことに竜はまるで気づいていないようだった。そのまま絶命し、さらに一瞬で腑分けされ、そのあとでジェイはようやく、手に大包丁を持った、魔人の男を見ることができた。
「皆雑なんだなあ。我が同士オスクリタ、バルド、この竜。必要なのは繊細さなのさ。そうでなければ美しい肉と臓物は確保できないからねえ」
赤茶けた染みばかりがついたエプロンと手袋をした男は肉屋のようだった。実際、そうなのだ。魔剣党最後の一人の生業は、その大包丁で獲物を解体し売りさばくこと。しかし対象は一種類の動物のみだ。
「身共は竜のみ取り扱っています〈肉屋コスタード〉、ご用命の際は魔剣党まで――我が〈ヴィロックスの許し〉は必ずやご期待に応えてみせましょう」
男が口にした銘の通りならば、彼もまた〈許されし者〉であるらしい。




