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俺がお前でお前が俺で

作者: チャンドラ

 朝、目が覚めると、隣には『俺』が寝ていた。


「ええー!?」

 俺は、マスオさんのような声をあげてしまった。なんだこれは、まさに俺、参上! ってか? どこぞのモモタロスだ。

「なんだようるさいな......ええー!?」

 俺の声で目を覚ました『もう一人の俺』も声をあげた。リアクションが全く俺と同じで気持ち悪い。


「お前は誰だ!?」

 俺は、もう一人の俺に尋ねた。

「お、俺の名前は北城得武きたしろとくぶだ。お前こそ誰だ?」

 もう一人の俺は、俺と同じ名前を言ってきた。服装も外見もまったくもって同じ名前を言っている。

 俺は、とある私立大学に通っているのだが、テニスサークルの飲み会に行った後、酔っぱらってそのまま帰宅した気がするのだが、酔った後の記憶が定かではない。ちなみに俺は、一人暮らしをしている。


「お前、昨日は何をしてた?」

 昨日の出来事をもう一人の俺に確認してみた。

「確か、サークルの飲み会に行った後、酔っぱらってそのまま帰宅した気がする......酔った後の記憶がない。」

 記憶まで同じようであった。この不可解な現象をどう説明すべきだろうか。とりあえず、もっと昔の記憶を訊いてみることにした。


「お前の初恋の相手は?」

「バレー部のみっちゃん。」

 正解であった。ちなみにバレー部のみっちゃんとは、小学校の時、好きだった人である。今は全く連絡を取っていないのだが。


「なんで、二人になったか、お前分かる?」

「いやぁ......分からねぇな。お前に起こされてから二人になっていることに気付いた。」


 もう一人の俺にも二人になった、理由が分からないらしい。


「そうか......なら、仕方ないな。今日、授業あるけどどっち行く?」

「まぁ、一緒に行くわけには行かないよな。じゃんけんで負けたほうが行こうぜ。」

「分かった。そうしよう。授業行かないほうが、バイトに行くことにしないか?」

「ああ、いいぜ。」


 そういい、俺はもう一人の俺とじゃんけんをした。じゃんけんに勝ったのは、後から目を覚ましたもう一人の俺だった。


「俺の負けか......それじゃ、大学行くから、お前バイトの方頼むな。」

「ちぇ......正直俺、バイトに行きたくないから負けたかった。」

「奇遇だな。俺もだ。」

 思考まで、俺と同じようだった。しかし、じゃんけん自体は何度もあいこになるということは、なくなぜか一回で決着がついた。


 俺は、歯を磨き、パジャマから普段着へと着替えた。そして、家を出た。


 大学へと向かう途中、自分が二人になった影響なのか、なぜかもう一人の俺の行動が見てもいないのに分かった。

 あいつは、テレビをつけてだらだらとニュースを見ている。もう一人の俺の行動もどうやら記憶として共有されているようである。


 ということは、もう一人の俺も今俺が、道端で見かけたかわいい女子高生を発見したことに気付いているのだろうか。


 そもそも、どうしてもう一人の俺が誕生したのだろうか。また、俺ともう一人の俺はどちらがオリジナルなのだろうか。


 なんとなく、俺がオリジナルなような気がするが、向こうも自分をオリジナルなような気がする。

 もし、俺が死ねばあいつはどうなる? ドラゴンボールの破壊神みたいに界王神が死ねば、破壊神も死ぬみたいな関係なのだろうか。それとも、ミラーワールドからやってきた住民とかか? それもと、あいつはワームで、俺に擬態しているとかか?


 考え出すとますます分からなくなってきた。大学につき、急いで授業が行われる教室へと向かった。

 教室に入り、知り合いの隣に座った。


「おはよう。北城くん。昨日は大丈夫だった?」

「おはよう。まぁ、大丈夫だったよ。」

 俺に挨拶をしてきたこの女性は同じサークルに所属している関道未宙せきどうみそら。俺は未宙に密かに恋心を抱いていた。未宙は、清楚で美しい女性で、誰にでも優しく接してくれる。とても魅力的な女性だと思っている。

 しかし、今は昨日の出来事が気になったため、昨日の飲み会のことを訊くことにした。未宙も昨日の飲み会に出ていた。少しだが、俺は未宙と話していた記憶がある。


「なぁ、俺昨日の飲み会あんまり覚えてないんだけど、俺、酔っ払った後、何してた?」

「えっと......確か、気分悪いからって言って早めに帰宅してたよ。」

「それ、俺一人でか?」

「うん。北城くん、結構フラフラだったから先輩たちが家までついていこうか? って訊いたけど北城くん、『一人で大丈夫です!』っていってそのまま帰って行ってたよ。」

 全く記憶になかった。しかし、未宙の話を聞いたところ、どうやら俺一人で帰宅したことで間違いがないようだ。

 家までの道のりの中で何かが起こったと考えるのが、妥当だろう。

「そうか......全く記憶にないな。飲みすぎたのかもしれん。」

「今日は大丈夫なの?」

「ああ、心配かけて悪いな。」


 その後も、未宙と話したが、俺が二人になったヒントらしいものを手に入れることができなかった。大学にいる間、あいつが何をしているのか、感覚的に分かった。家で食べ物を食べるのも分かったのだが、もう一人の俺が物を食べてもこっちの俺には、満腹感はやってこなかった。


 記憶は、共有されるが、空腹は共有されないようである。また、家にいる俺が、小指をタンスにぶつけて痛がっていたが、こっちは全く痛くなかった。感覚も共有されないようである。つまり、どっちかが死んでも片方には影響がないのかもしれないと考えた。


 俺は、家に帰り料理をして、バイトに行ったもう一人の俺の帰りを待つことにした。

 フライパンで肉を焼き、それに焼肉をかけるだけの簡単で美味しい料理を作った。


 もうひとりの俺が帰ってきて、料理を見るなり、こういった。

「おいしそー! やっぱ夜は焼肉っしょー!」

 こいつ、やはり似ているようで実は中身が少し違うのかもしれない。俺はそんなこと言わない。いや、焼肉は確かに俺も好きだけれども。


 俺たちは、二人で焼肉を食べた。しかし、よく考えたら、食事が二人分必要になるということである。地味に厄介な問題だ。もう一人の俺が、バイトの出来事を話し始めた。


「いやぁ、今日のバイト、たくさん客がきて厄介だったな。」

「そうだな。お前、接客俺よりうまいけど、レジ下手だな。」


 家にいた俺は、バイトに出勤していたもう一人の俺がレジで苦戦してたのが分かった。いつもの俺ならちょちょいのちょいなのだが。代わりに俺は、接客が得意ではない。いつも、接客に苦戦している。もう一人の俺は、クロックアップを使ったように、素早い動きで華麗な接客を披露していた。正直、羨ましいと思った。


「まぁな......そういえば、五十嵐さんって今日休みで驚いたな。あの人、月曜日は毎週入ってるのに。」

 バイトに行ったもう一人の俺が知らないバイトの人の名前を出してきた。

「は? 誰だ五十嵐さんって?」

「何言ってんだ! 料理の専門学校に通っている、茶髪の女性の人だよ! 知ってるだろ!」

「いや......もともと、そんな人働いてないぞ。」

「え?」


 もう一人の俺の話をよく聞くと、五十嵐という人が俺のバイト先にはいるそうだ。俺の記憶の中には実在しないのだが。


 そして、俺ともう一人の俺がお互いの過去は事細かく話していたら、ところどころわずかなズレが存在した。


 例えば、高校時代、俺が音楽を受けていたのに、もう一人の俺は美術を受けていたり、仮面ライダーオーズを見ていなかったり、俺が見ていなかったガイムをもう一人の俺が見ていたりしていた。


「なるほど......何となく分かった。俺とお前は二人に分離したんじゃない。お前はおそらくパラレルワールドから来たんだな。」

「パラレルワールド......そんな、SFじゃあるまいし。」

「そもそも、俺もう一人いるってだけで充分、SFみたいなもんだろうが!」

「た、確かに......しかし、俺とお前、どっちがパラレルワールドからやってきたんだ?」

「おそらく、五十嵐って人がうちのバイトにいない世界がここだからお前がパラレルワールドからやってきたんだと思うぞ。」

「なるほど......どうやって戻ったらいいんだ?」

 もう一人の俺から質問を受けた、回答に迷った。どうやって元の世界に戻るのかなんて検討もつかない。


「分からない......とりあえずは二人で暮らしていこうぜ。じっくり元の世界に戻る方法を探していこう。」

「ええ!? そんな、悠長な......」

「だって、解決策がないんだからしょうがないだろ。それにな、自分が二人いるってことは、結構他の人より有利だと思うぞ。勉強とかな。記憶を共有できるんだし。」

「まぁな。仕方ない。しばらくは二人で暮らすか。」

「ああ、よろしくな。もう一人の俺。」

「ああ、よろしく。もう一人の俺。」


 俺がお前でお前が俺で。

 どっちがどっちか、分からなくなりそうだが、俺はもう一人の俺と奇妙な生活を始めた。




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