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青色模様  作者: 海老優雅
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雨宮パート

1話の時間軸、雨宮さんの視点でお送りいたします

まさか小学生のときに転校していった幼馴染、早乙女蓮ともう一度会えるなんて思ってなかった。

でも入学して一年経った今でも挨拶すらまともに目を合わせてできていない。このままギクシャクした関係が続くっていう可能性を少しでも考えると夜中寝付けないときに死ぬことを考えたときのような辛い気持ちに苛まれる。

 せっかく吹奏楽部とテニス部で練習場所が近かったのにあいつは最近なぜかテニス部の練習に参加していないようだし、クラスでもなにか私を避けているような節があって、釈然としない。

 私は彼にどうしても伝えなくてはならないことがあるのに一歩の勇気を踏み出せない。あのときの約束を覚えているのは私だけなのだろうか。気にしているのは私だけなのだろうか。昔はいつも一緒にいた。特に用がなくとも家まで呼びに行って、商店街をぶらついたり、公園に行ったりする。夏祭りに一緒に行ったり、雪だるまを一歩に作ったり、あいつとの思い出を数えだすとキリがないけど、なかでも格別の思い出、忘れることのできない思い出はやはり神社での思い出だと思う。

誰かに言っても信じてもらえないから今までほとんど誰にも話したことはなかったけれど、私は昔呪いのかかったような状態になっていたことがある。私の町に古くから伝わる都市伝説のようなもの。土地神様に見初められた者は土地神様の呪いにかかってしまうというものである。

 呪いの内容は様々な言い伝えがあり、人の声が大きく聞こえるとか髪が伸びるスピードが少し早くなるといった呪いというには少しパッとしないんじゃないかというものから、人からの声の全てが悪口に聞こえるなどといったようなかなり辛いものまであるようだ。

 また呪いがかかったものは体の一部にほくろよりも少し大きいくらいの痣ができる。

さてそんな中、私にかかっていた呪いは一ヶ月に一度その一ヶ月の間での最も楽しかった記憶を忘れてしまうというものであった。

さてこれがなぜ蓮くんとの一番の思い出になるかというと、自分に呪いがかかっていると分かったとき、まず始めに私は蓮くんに相談したのだ。それを聞いた彼は、ぴくりとも笑わず、むしろ少し泣きそうな眼で、私以上に私のことを心配してくれたのだ。私はあのときの蓮くんの顔を恐らく一生忘れることができないと思う。

さてそのあと彼がどうしてくれたかというと、今を思うととても小学生とは思えない行動力で、図書館に行ったり近所のお寺に行ったりして私にかかった呪いのことについて調べてくれた。そして彼は呪いの解き方までは突き止められなかったが、呪いを渡す方法を突き止めてくれたのである。

彼はそのことを黙っていればよかったのに私に教えてくれて、さらに自分が呪いを受け取るとまで言ってくれたのである。

私と彼は一緒に神社へ行き、呪いを渡す儀式を行った。私の痣は消えて、彼の手のひらに黒い痣ができた。

 彼はきっと今も呪いに苛まれていると思う。私は彼に感謝の気持ちをもう一度きちんと伝えたいし、これからは二人で一緒に、呪いを解く方法を探したいと思う。

 どうすれば彼ともう一度昔のように話すことができるのだろうか。考えてみてもわからない。

 今の時間は午後四時五十分。本来なら部活に行って練習してなくてはいけない時間だ。しかし、蓮くんがテニス部の練習に行っていない今、私が部活に行く理由もないといっていいと思う。

 最近先輩ともうまくいってないし、テニス部の先輩に絡まれてもめんどうだし、今日は部活サボろうかな。

 そう思って私は机の上の荷物を纏めて、席をたちだれにも見つからないように教室を出て、学校を出た。

 このまままっすぐ家に帰って、ベッドで横になって泣きながら啼いて哭いて鳴き疲れて寝てしまいたいけどそういうわけにはいかない。

 部活に行ってないことがばれると母親が心配してしまう。だからといってカラオケに行って叫びたいって感じでもないし、楽しくショッピングといった心持ちでもない。私はブランコに揺られながら少し考えた末、昔の思い出の場所めぐりをすることに決めた。

最初は商店街、大きなデパートが近くにできた最近でも私は基本的に一人で買い物するときは商店街を利用する。なんとなくデパートのあの白い雰囲気と鼻に残らない甘くてきっちりした匂いが苦手なのだ。いつものコロッケ屋さんに入り、肉コロッケを注文する。このコロッケ屋さんはお母さんが子供のときからある、この商店街の中でもかなりの古参店舗だそうだ。ここのおばあちゃんの作るコロッケは、胡椒が効いていて、近年日本のコロッケが甘くなっている中では珍しく感じる。中身もすぐに食べることを想定してのことか、ドロッとした感じだ。このコロッケはここでしか食べることができないという感じがする。時代の流れがここには確かにある。私にはない時間の縦の広がりがある。

やはり私の失った時間は大きすぎる。蓮くんがいなかったらきっと今の私は空っぽだったと思う。

今日はよく呪いのことを思い出す。

私の受けた呪いは、一ヶ月に一度、最も大切な記憶を忘れるというものだった。

失う記憶には幅があり、記憶の要点を忘れてしまうことには変わりないのだが、それに関することが全て消えたりしたこともあったし、逆にほんとの核心だけ忘れてしまったこともある。どちらにしろ怖い限りだった。

一番怖かったのは蓮くんの存在を一度忘れてしまったことだろうか。まあそれが私の一番いい思い出でもあるんだけど。

私は一度蓮くんの存在そのものを忘れてしまった。らしい。そのときのことは今でもよく覚えている。朝起きて、家のチャイムが鳴って母が出る。母も知ってる子、父も知ってる子、二人とも笑顔で私を送り出してくれた。

その男の子も私のことを知っていた。でも私だけが知らなかった。すごく怖くなってその頃の私はまだ小さかったから、すぐに逃げ出した。しばらく走った後行き着いたのは、ああまたあの神社か。とかく私は神社に逃げ込んでいた。なぜかは覚えていない。そこに彼はすぐにやってきた。

不思議だった。

おそらく私がついた五分後くらいだったと思う。私がいなくなった異変に気付いて走り出し、まっすぐここを目指さないと間に合わないくらいのタイミングだったと思う。

彼は、神木の後ろに隠れていた私を覗き込みこう言った。

『怖くないよ。なにがあったかわからないけど、話してよ』

正直、その言葉自体は大した意味はなかったと思う。そもそも小学生が放つ言葉だし、そんなにすごい言葉なんてのは、そう簡単に思いつくものではない。

ただその後のことはすごく印象に残っている。

あなたが誰なのかわからないと言った私に対して、彼はただ、困ったように笑って、日が暮れるまで、今までのことを話してくれた。ほとんどがプールに行っただとか、スイカを食べただとか。そんな大したインパクトのないものばかりだったけど。全てがデジャブとして私を襲って、いや襲うというのは的確ではない。心の穴に入り込んで隙間を埋めていくようだった。

一つ一つの物語がそれを実際に起こったことだという実感を私に与えるには十分な感触だった。

そして、私が落ち着くと、彼は、なぜ私が忘れたのか。その原因を激しく、でもそんな感じをほとんど表に出さずに優しく落ち着いて聞いてくれた。

呪いのことを話したのもちょうどこのときだったと思う。彼はその話を聞いたとき、こんな突飛な話に関わらず、一切笑わずに、笑顔のまま、全てを信じてくれて、解決方法を探そうといった。

あのときのことは今でも忘れない。忘れるわけがない。でもよく考えてみると、あのときの蓮くんは小学生とは思えないほど大人びていたと思うし、よく信じてくれたと思う。

私は暖かい気持ちになりながらおばあちゃんの持ってきてくれた温かいコロッケを満足気に頬張った。

窓から川が見える。次はあそこに行ってみようか。


その川原も蓮くんとよく一緒に行った場所だった。水きりしたり単純におしゃべりしたり、夏場は泳いだりもした。まあ泳いだといっても、真ん中のあたりは流れが速くて危険だから手前の方しか行かなかったのだが。川面には日が反射して水面近くを飛ぶトンボの羽を光らせ、水の底には石が、ただの石なのに、まるで心を持っているかのようにそこでじっと時を待っていた。

だからときどき私は石を一つ取り出して、川底の状況を少し変える。川の流れがあるからどうせすぐに川の底の状況はすぐに変わるのに、こんな広い川の中で、一つの石の位置を少し変えたくらいで大して、いや、全く意味はないのに。私は川の石を一つ動かして自分の自己顕示欲を満たすために。支配欲を満たすために。

そういえば蓮くんは川で一人になったときなにしていたんだろうか。私たちは一緒に川に行っていたけど、なにも常に一緒に遊んでいたわけではない。

私と一緒じゃなかったとき彼は何をしていたのだろうか。

どうやっても思い出せない。記憶の断片にすら残っていないという感じだ。これも私が失った記憶なのだろうか。今でもたまにある呪いの後遺症。失ったことにいまさら気付く。今回は一人のときでよかった。これが他の人との会話中だったならきっとここから話が噛み合わなくなったりしてきっとその後の私の生活に支障をきたしていたことだろう。

しかし謎だ。この記憶は私にとって大事なことだったのだろうか。今の時点ではとてもじゃないが大事だとは思えない。昔の私はふと顔を上げたときなにか見たのだろうか。一緒に遊んでいたときの記憶はある。一人で遊んでいたとき自分がなにをしていたかも覚えている。でもなぜか蓮くんの姿だけ思い出せない

まあ、今そんなことを気にしてもきっと思い出したりしないから意味はない。

今度蓮くんと話すときがあったら聞いてみよう。

まあ、話すことがあれば、の話だけれど。

そろそろカラスが鳴く時間なのか山から大きなカラスが町のほうへ飛んできていた。

きっと鉄塔のほうへ向かうのだろう。

 確かカラスの出所となっている山には確か昔蓮くんとよく遊んだ秘密基地のような小屋があったはずだ。明日はあそこに行ってみようか。

読んでくださった方ありがとうございます。

次回はおそらく明日になります。

感想、評価などお待ちしています。

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