天草君の追加(あんまり求めてない)
結局短いですごめんなさい
その次もそのまた次の日も俺は小屋に来て本を読んでいた。雨宮も笛を吹いていた。別段家で読んでも良かったし、ここに来る理由なんてなかったけど、単純に雨宮と会って話せるのがうれしかった。
久しく人とまともに会話をしていなかったからかもしれないが、きっとそれだけではないと思う。
ああ、窓際で雨宮が吹いている笛、フルートの音が綺麗だ。
そういえば、雨宮は吹奏楽部だったはずだ。いくらうまくいっていないとはいえ、こんなところにいて大丈夫なのだろうか。よし、思い切って聞いてみよう。
「雨宮。部活行かなくていいのか?」
「あれー蓮くん、昔みたいにウタちゃんって呼んでくれていいんだよ?」
「そ、そんなことは今は関係ないだろ。それより部活だよ部活」
上目使いは反則だろ。ちょっとドキッとしちゃったではないか。
「部活ねーあーうーんえっとまあそのちょっと何いってるかわかんないかなー」
なるほど。いいたくないってことか。まあそういうことなら仕方ない。無理に問いただしても仕方がない。
「まあ困ってることあるなら抱え込むなよ」
「それは俺に頼ってこいよってこと?」
「そこまではいってねーし。ま、まぁどうしてもっていうなら聞かないことはないけど」
「さっすが蓮くん。いやー実はですね、その言葉を待ってたんですよー」
わざとらしく指差して「まってましたー」ってやってる。L○NEのスタンプとかになってそうだ。もし出たらすぐ買おう
「というわけで話聞いてもらってもいい?」
「笑える話なら聞いてもいいよ」
「ちょっとそれは無理な相談かなー。だって部活の話しだし」
「まあそうだよねー。まあいいよ、笑えなくてもいいから話してみなよ」
「実はさ、同学年の子に嫌われてるみたいでね。先輩とか先生に媚びてるーとかいわれちゃってて、行きづらいし別に内申以外の理由で部活行く意味ないなーって思ってて。部活辞めようかなーってのも考えたけど、うまく言い出せない感じでさー。私どうしたらいいと思う?」
「なるほど…」
なんとか声は絞り出したものの、これ以上の言葉を雨宮に渡すことを俺は渋ってしまった。
部活内で嫌われる辛さは俺もよく知っているつもりだ。そしてこういう場合に一番かけてほしい言葉も知っている。部活辞めたら?とか顧問の先生と話し合ってみようとかそんな言葉じゃない。ただ一言、部活辞めてくれ。この一言がほしい。きっと。
でも、果たしてこの言葉は俺が彼女に言っていい言葉なのか?
部活を辞めると、自分を取り巻く人間関係は急激に変わるし、生活の主軸やリズムも大きく変わる。例えば先輩なんかとはほとんど話さなくなるし、すれ違うだけでなぜかもうしわけなくなる。
だから、俺がこの言葉をかけていいのかわからない。
「とりあえず辞めるにしても一回良く考えてみようぜ?俺にできることがあればなんでもするからさ」
ああ、結局逃げてしまうのか。
残念だ。
『最近学校出るの早いみたいだけどなんかあった?』
そんなメールが届いたのは俺と雨宮が秘密基地に通い始めて数日が経った頃だった。
差出人の名は天草信弥。俺の同級生で部活を辞めた後でも俺のことをいやな目で見ず、仲良くしてくれている、俺の数少ない友人の一人だ。
何もないとはいえないのだが、天草に心配をかけないためにも俺は特にないという内容のメールを送った。
その後天草から『明日の放課後遊べるか?』というメールが来たのだが、今は雨宮と一緒にいる時間を優先したかったため断った。
「ねえ蓮くん、勉強ってなんのためにやるのかな?」
「あーまあなかなか何のためにと言うのは言いにくいな…将来のためにというのはなんか漠然としすぎているし、いい大学行くためっていうのもなんか違うからなー」
「あ、蓮くん大学どこ行くか決めてるの?」
「いや、まだどこってのは決めてないけど、両親にこれ以上迷惑掛けたくないからまあ国公立にしようってくらいだな」
「そっかーせっかくだから私も蓮くんと同じ大学行きたいなー」
「あ?なにがどうせっかくなんだよ」
「えーだって蓮くんが転校しちゃったときもう会えないって思ってたのにこうしてまた会えたんだよ?」
その雨宮の言葉は今の俺には素直にうれしかった。
「それに蓮くん、同じ大学にいくともれなく私が婚姻届と一緒についてくるよー?」
「おちょくるなよ。そもそもサインするわけねーだろ」
「そんなー」
「そもそも雨宮お前勉強できるのかよ。言っとくけど俺友達いなくて勉強ばっかしてたからそこそこ勉強できるぞ?」
「へーそうなんだーでもでも私も上から数えて全部の指を一回折るまでには数え終わるくらいには勉強できるよ?」
「まじか、すみませんでした雨宮さん」
「いえいえ~」
「よお、早乙女、こんなところにいたんだな。驚いたぜ」
会話が一段落したところに入ってきたのはマイフレンド天草だった。
「ちなみにさっきの話、勉強は騙されないためにするんだと思うよ?」
「それはいいけど天草、最初っから聞いてたとかなにお前ストーカーなの?」
「はは、ストーカーなんて人聞き悪いな、俺はお前が心配だっただけだって」
「蓮くんの知り合い?」
「ああ雨宮は初対面か。こいつは天草信弥。剣道部主将で運動も勉強もできて顔までいいクソ野郎」
「よろしくね雨宮さん?それで早乙女、このかわいい女子の詳細は?」
「あーえっとこいつは雨宮詩乃。俺の幼馴染で一応吹奏楽部でフルート吹いてる」
「あ、蓮くん。私部活辞めたよ?」
「だそうなのでさっきの訂正でいまは帰宅b…ってはあ?なにお前もう辞めてきたの?昨日もう少し考えるっていってたじゃん」
「はははー」
「ま、まあそれはどっちでもいいんだけどさ。お前たち付き合ってるの?」
「はいそうです。蓮くんと私は大人の男女の関係です」
「いや違う違うそんなことは断じてない」
「そっか…付き合ってないならそれは別にならいいんだけどさ、それなら尚更年頃の男女二人がこんなところで何してたの?まさか二人はセフr…」
「それも違――――う。いいかよく聞け………」
それから俺はここにいたるまでの経緯を簡単に説明した。
「なるほどな…なあオレも放課後ここに来ていいか?」
「あ?俺は別にかまわんがお前部活もあるし雨宮も気まずいだろ」
「私は別に大丈夫だよー」
「だ、そうだ。というわけで決まりだな」
「いや、お前部活…」
「大丈夫大丈夫」
こうして俺と雨宮の秘密基地にもう一人増えてしまった。
そろそろ物語の役者が揃い始めました




